君がいない日々には、もう耐えられない 〜一方的に別れを告げた俺を、もう一度愛してくれないだろうか〜
「だから俺の後ついてくんなって言ってんだろーが!!」
「な、なんで!別にいいじゃん!」
あーうざい。本当にうざい。
「俺はお前のことなんて飽きたの!だから別れるって言ってんじゃん!」
「やだ!なんで勝手に決めちゃうの?!話し合いぐらいしたっていいじゃん!」
やめてくれ。これ以上お前と話してると――
「消えてくれる?」
――歯止めが効かなくなるから。
「……え?」
「言った意味わかんなかった?消えろって言ってんの」
違う。そこまで言うつもりはなかった。だめだ、俺。止まってくれ、俺。
「もっとストレートに言ってあげるか?
――邪魔、とてつもなく邪魔。だからさ、ね?消えてくれる?」
「…………」
あーあ、やっちまった。本当にやっちまった。
見てみろよ俺、目の前で泣いている女を。あんな悲しそうな顔してるこいつ、今まで一回も見たことがないぞ?
しかもだ。こいつのこんな顔を見てると、とてつもない罪悪感が押し寄せてくる。
どうしてだ、なんて思わない。そんなこと、俺が一番理解している。
だから少しでも、この罪悪感から逃れたかった俺は――
「……え?」
――女を後に残して、走り去った。
◆
あの残酷な日から、一ヶ月が経った。俺、工藤拓巳はあの日から少し、いや、かなり変わった。
授業中に周りが迷惑を被ることなど一切考えずに爆音でロックを流したり、体育館で行われる全校集会にはもちろん出席せず、体育館裏でタバコを吸っていたり、女子トイレに入り使用中のドアをぶち破って用を足している女子生徒に卑猥な行為をしたりと、今までの俺からは考えられないようなことをしていた。
そしてあの女、古屋美桜は、学校には来ていた。そう過去形だ。
あいつは、誰がどうみても物凄い暗い雰囲気を纏い、授業中には訳もわからず急に泣き出してしまうぐらい精神を病んでいた。そしてそんな姿を心配に思った教師陣があいつの親に連絡をし、今は大学病院で入院をしている。
もちろん俺も教師に呼び出され、三者面談を行った。当たり前だが、親に物凄く怒ららた。どのくらい怒られたかというと、教師がいる前で俺の顔面を殴ってきた。
これにはさすがの俺もビビり、殴られた後は反射的に親を殴り逃げ出した。
そう、俺はまた逃げ出した。
わかっている。こんな生活を続けていけば警察のお世話になるのも時間の問題だと。いや、逆にこれまでよくお世話にならなかったと考えるべきか。だって思いっきり法を犯してるし。
そして。
逃げて、逃げて、逃げた続けた結果――
――いつの間にかあいつが入院している大学病院にまで逃げていた。
「はぁ、折角ここまで来たんだ。あいつのきったねー顔でも見てっか」
何故、俺はこんなことを思ったのか。自分でもまったくわからな――いや、思い当たることは、ある。
俺はたぶん、まだあいつのことが好きなんだ。あれだけ罵詈雑言を浴びせ、しまいには消えろとまで言ってしまったあいつに俺はまだ、恋をしているんだ。
あの忌まわしい日から数日間は、あいつのことを見るだけでもイライラしていて、周りに当たり散らかしていた。
しかしある日を境に、俺はあいつのことを無意識に目で追っていた。
最初はバカらしいと思った。あれだけ突き放して別れたあいつを目で追ってしまうなんて、俺は何をやっているんだと思った。
けれど、だんだんとそんな思いは薄れていった。何故ならあいつを見ていると、胸が締め付けられるような思いと一緒に、ドキドキと心臓が素早い鼓動を刻んでいるのがわかったからだ。
これは、俺があいつのことを初めて目にした時の状況と酷似している。
――一目惚れした時だ。
顔立ちは整っている、だが美人といわれるほどの容姿でもなければ、可愛らしい出で立ちをしているわけでもない。いってしまえば普通よりは上、ぐらいのレベルだった。
だが俺はそんなあいつに一目惚れした。なんで一目惚れをしたのかは、全くわからない。俺のタイプな女だったわけでもない。けれど何故か、一目惚れをした。
それからの俺は、あいつに気に入られるように一生懸命に努力をした。
普段は寝癖だらけの髪をキッチリと整え、父の使っている香水をこっそりとキツくならない程度に使い、昼食を食べ終わった後は歯を磨くようになり清潔感を気にしするようになった。
当たり前なことかもしれない。けれど俺にとってはどれも当たり前のことではなかった。だから、最初はストレスが溜まった。普段やらないことを習慣化するのは時間がかかったし、途中で挫折しそうにもなった。なんでこんな面倒くさいことをしなきゃいけないんだ、と何度も何度も思った。けれど、そう思うたびに俺はこうも思っていた。
楽しい、と。
普段は全く喋らないようなクラスの女子達と話すようになった。いつもは真剣に取り組まずダラダラと練習をしていた部活動にも真剣に取り組むようになり、気づいたら部活動に夢中になっていた。元々友達が少なかった俺に、いつの間にかたくさんの友達ができていた。そして、あいつとたくさん話すようになった。
本当に、本当に楽しかった。あの時の俺は、今までの人生で一番輝いていた。
だが、今はどうだ。
長くなった髪は寝癖だらけ、風呂には週に3日しか入らないため体臭がキツくなり、歯もろくに磨いていないため口臭もひどい。
今までバカやったり楽しく話していた友達は俺を見放し、クラスの女子達は軽蔑の眼差しで俺を見てくる。もちろん、部活動にはいっていない。というか辞めた。
おまけに今まで俺を大切に育ててきた親を殴ってしまった。反射的だったとはいえ、殴ってしまった事実は変わらない。
どうすればいい。俺は、こらからどうすればいい。
あー、こういう時、あいつが側にいてくれたらなんて言ってくれただろうか。辛かったね、と俺を慰めてくれるだろうか。もう、何やってんの!と俺を叱ってくれるだろうか。それとも、優しく頭を撫でてくれるだろうか。
わからない。今の俺には、全くわからない。だって、俺はあいつを、あいつを……
「はぁ、情けね……」
夕闇はどんどん夜の暗さに変わり、それに伴い街も夜の街へと姿を変えていく。
「今から帰っても、合わせる顔なんてねーよ……」
そして俺はこの日初めて、
家出をした。
◆
どのくらい時間が経ったのだろうか。1日か?いや、2日か?てか俺はいつまでここにいるんだ?
そう、俺は未だに病気の前から動いていない。いや、動けなかった。
あいつが、美桜がもしかしたらここまで迎えに来てくれるかもしれない――そんなありもしない淡い期待を抱いて今日まで過ごしていたからだ。
だが、それも今日で終わりにしようと思う。
「……結局、あいつ来なかったなー。いや、俺が会いに行かなかっただけか」
そしてそんなことを呟いて病気の敷地から出ようとした瞬間、
「……拓巳?」
それは突然の出来事だった。
声は後ろから聞こえた。それも俺の好きな、いや、大好きなあいつの、美桜の声だ。
「……美桜?」
そこには、まるで骸骨にでもなってしまっのではないかと錯覚するほどの、痩せかけた女性が立っていた。
間違いない。美桜だ。
あぁ、美桜。すごく、すごく会いたかったよ。なんで、なんで今まで俺の前に現れてくれなかったんだよ。どうして、どうして……
「ちょっ、拓巳なんで泣いてるの?!」
何バカなこと言ってんだ。俺はまともに水分なんてとってないんだぞ?涙なんかが出てくる水分を体に蓄えてるわけ――
「美桜ぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
俺、号泣。
「えー?!ちょっと、拓巳そんな姿で抱きついてこないでよ?!ちょっ、鼻水!せめて鼻水はつけないでぇぇーー!!!」
……あぁ!!美桜だ、美桜がいる!会いだかった、会いだかったよー、本当に――
「寂しかったよぉぉぉ!!!」
「わかった!わかったから、一旦離れて!ちょっ、胸!胸に顔突っ込むな!!」
ペチンッ
俺の頬から、乾いた音がした。そして、やっと俺は冷静になった。
周りを見渡してみると、色々な人からヤバいやつを見るような目で見られていることに気付いた。
は、恥ずかしいぃぃぃ!
お、俺、今何した?!え、なんかめっちゃ鼻水が顔面についてるんですけど?!うわっ、きったな!!
「はぁ、やっと離れてくれたよ……」
ハッとして、前を見る。
やっと、やっと思いを伝えられる……
そして美桜に向かって前進し、
ぶっ倒れた。
◆
「……知らない天井だ」
なんだ、ここ。俺は確か美桜に会って――
そ、そうだ!美桜、美桜に会ったんだ!どこだ?!俺の美桜はどこだ?!
「もう、起きたと思ったら、何変なこと言ってるの?」
その音を聞いた瞬間、俺は寝ていたベッドから跳ね起きた。そして、音の正体を確かめるため横を見てみると、
「……やっぱり、天使か」
「て、天使って、何照れるようなこと言ってるの?!じゃなくて!美桜よ、美桜!」
あぁ、美桜か。そうか……美桜か。
「美桜……」
「そうだよ、拓巳……」
沈黙
俺たちの間に、とてつもなく気まずい雰囲気が漂ってきた。
"逃げたい"
そう、思った。いや、思ってしまった。
ダメだ。それじゃ、前と変わらないじゃないか。逃げるな、俺。
目の前には、俺の最愛の人がいるんだから。
深呼吸、まずは気持ちを整えろ。よしっ、後は、伝えるだけだ。逃げるな、俺なら絶対できる。
「……美桜、俺はお前に彼氏として、いや、人間として最低なことをしてしまった。……だから、だ、から……ううっ……」
ダメだ。涙が止まらない。さっきあれほど泣いたのにまだ涙が出やがる。クソ、なんでだよ……!早く、早く伝えなきゃ。喋らなきゃ――
「無理しないでいいよ。私は、いつまでもここにいるから」
そう言って、ニッコリと優しく微笑んでくれる美桜。
あぁ、そうだ。俺はその微笑みに大好きだっな。そうか。もう一度見れるなんて、俺はとてつもなく、いや、世界で一番な幸せ者だ……
幸せな気持ちを大切に噛みしめながら、俺は言葉を、思いを届ける。
「……お前に対して酷いことを、いや、酷いという言葉では言い表せないほどのことを俺は美桜にしてしまった。けれど、それは後で謝らさせてくれ。俺はそれよりも、もっと伝えたいことが、届けたい思いがある」
「……うん、いいよ」
あぁ、こんなクソ男の思いを聞いてくれるなんて。まったく、俺には本当もったいない女だよ。美桜。
「美桜」
「……はい」
「俺は、美桜のことが好きだ!いや、愛してる!すごくすごくすごくすごく愛してる!」
「……ぐすっ、うん!」
「だから、だ、から……ううっ」
泣くな、俺!
止まるな、俺!
まだ、俺の気持ちを全て届けてないぞ……!
「だから!俺と、俺と!」
「うん!」
「もう一度!」
もう一度。
本当に俺はそれでいいのか?そんな、軽い思いを伝えるんじゃなくて、もっと、もっと、
「いや、やっぱり今のは無しだ」
「……え?」
おいおい美桜。そんな悲しい顔をするんじゃねーよ。これから一番大事なものを届けるんだから笑って受け取ってくれよ。いや、
――俺が笑顔にしてやる、だから受け取ってくれ
「俺と――
――結婚してくれ!!!」
「……!!はいっ!!喜んで!!」
あぁ、そうだ。やっとわかったよ。
俺は、俺は、
――君の笑顔を見るために生まれてきたんだ