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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.6 「独りぼっちが、一番だよな?」
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3

忘れたくても忘れられない思い出は沢山ありますよね。そういう記憶が蘇った時はアールグレイを飲んで緩和しましょう。

「実はねー、今日の道筋はファミリーじゃない人があの家に辿り着けるように、そして近くにファミリーの部屋を含めた【接続点(リンク・ポイント)】がない時の為に用意されたものなのよ」


 ドロシーは腕を組んでさり気なく生意気なバストを強調しながらスコットにも解るように説明する。


「……えっ? り、リンク・ポイント?」

「僕の家は色んな事情があって正確な場所が教えられないようになっているの。だから、場所を知られずに【お客様】を招けるように色んな仕掛けがしてあるのね。空間連結システムもその一つよ」

「……へ、へぇ」

「今日の道筋というのは【お客様】がその空間連結システムを一時的に使用できるようにする為の合言葉(パスワード)手順(プロセス)のようなものね。毎朝ランダムで決まるから、その日によって驚くくらいに簡単だったり面倒だったりするけどー」

「……それで、リンク・ポイントというのは?」

「今日の道筋とは違って、ファミリーだけが使える空間連結システムの使用可能ポイントよ」


 その言葉を聞いてスコットは寒気を覚えた。


「あの、社長……ひょっとして」

「僕がファミリーと認めた子の住処は自動的に接続点(リンク・ポイント)として設定されるから、こんな感じで気軽に行き来出来るのよー」

「この部屋もですか!? え、俺はファミリー認定されて」

「勿論、スコッツ君はもう僕たちのファミリーよ! 安心して!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!?」


 スコットは叫んだ。叫ぶしかなかった。


 彼に安息の場所など、最初から無かったのだから……



 ◇◇◇◇



「……」

「どうしたんですか、先輩? 最近、元気ないですが……」

「そっとしておいてくれ……」


 場所は変わって異常管理局セフィロト総本部 第一執務室。

 自分の執務机(デスク)の上で暗い顔になっているジェイムスに後輩が声をかけた。


「ええと、何か嫌なことでも」

「聞かないほうがいいよ……」

「で、でも」

「ロイド、君はまだ若い。この街には知らないほうがいいことが沢山あるんだ。もし一度でも知ってしまえば、底なし沼にハマることになるぞ……」

「俺、先輩とそんなに歳離れてませんよ……」


 赤毛の新米職員であるロイド・D・クレイヴンは御歳26歳にも関わらずこの街の暗黒面(ダーク・サイド)を知り過ぎてしまったジェイムスを本気で心配する。


「……聞きたいのか?」

「えっ……」

「……どうしても聞きたい?」

「アッハイ」


 若干食い気味ながらもYESと答えてしまったロイドにジェイムスは語りだす。


「いやね、ちょっと前に13番街区で怪物騒ぎあっただろ?」

「ああ、あの事件ですか……死ぬかと思いましたね」

「うん、俺も死ぬかと思った。というより死ぬ覚悟決めてたよ」

「確か、あの騒ぎの発端には外側(アウトサイド)の有名な資産家も絡んでいたとか……」

「ああ、それは別にいいんだ。この街に入ってきた時点で 自己責任 だからね。自分の薄汚い命で責任取ったということで結果オーライよ」

「は、はぁ」

「……問題はその騒ぎの発端の生き残りだよ」


 ジェイムスはあの日を思い出し、顔を青くして俯く。


「そ、その生き残りがどうかしたんですか……?」

「知り合いの性悪ヴィッチに捕まってな。重要な参考人だから殺さずに渡してくれと伝えておいたんだが……」

「まさか、殺されたとか……?」

()()()()()()()()になって運ばれてきた」


 運ばれてきた重要参考人の無惨な姿がフラッシュバックしたジェイムスは震えながら頭を抱える。


「……いや、前々から悪魔だの魔女だのクソヴィッチだのと思っていたが流石にあれはやりすぎだろ。完全に狂ってるよ、あのビッチ。殺すなとは言ったけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とかどうかしてるだろ。あんなの生きてるって言わないよ、生き物という尊い存在を冒涜してるよ。マジで悪魔だよ、転生したスターリンだよ」

「先輩、先輩! 落ち着いて! すみません! もう十分です! もう十分ですから!!」

「それでそんな状態のヤツからどうやって話を聞くんだと思ったら、そいつのメイドがその重要参考人の脳味噌から直接情報を吸い出して」

「もうやめてぇ! ごめんなさい、ごめんなさい! もう勘弁してください!!」


 ロイドは思わず号泣しながらジェイムスに話を止めるよう懇願する。

 その僅か一分の会話で彼の心に一生忘れられないトラウマが植え付けられた……


「……どうだ、聞かなきゃ良かっただろ」

「……うっ、うううっ!」

「ほら、もうすぐ昼休みだ。持ってけよ……」

「こ、これは……」

「昼飯代と、記憶処置一回分の代金だ。ちゃんと忘れてから飯を食うんだぞ……」

「先輩……ッ!!」


 ジェイムスの重過ぎる気遣いにロイドは再び涙が溢れる。


 忘れられないトラウマと同時に忘れがたい思い出も生まれてしまった彼は渡された300L$をどうするべきかと苦悩した。


「で、でも先輩はどうして記憶処置を受けないんですか? そんな酷い記憶は忘れたほうが……」

「……俺ね、もう記憶処置効かないんだよ。受けすぎて耐性付いちゃってさ……」

「……」

「ははは、ヤンナルネ。もうお酒の力で誤魔化すしかねえよ」

「……先輩、この建物は、禁酒です……!」

「ははは、知ってるよ……」


 哀れにも程があるジェイムスの切ない笑顔にロイドは固く心に誓った。


 記憶処置を受けるのは止めよう……この受け取った300L$は大事に取っておこうと。


ちなみにアールグレイは厳密には紅茶ではありません。私も最近まで知りませんでしたが

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