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本日のビックリドッキリアイテムは此方になります。
「マイハニィィィ────ッ!!」
「ドリーちゃーん!!」
タクロウとアルマが叫びながらやって来る。
「ドリーちゃぁーん!!」
「うおおおお、マイハニィィィー!!」
「あ、どーも……」
「何だぁ、お前ぇ!? おま、何勝手に俺の嫁さん抱き上げてんだオラァァー! 返せ、オラァァァァー!!」
「ど、どーぞ」
タクロウはアトリを抱き上げたまま呆然としていたエイトに喚き散らしながら強引に妻を奪還する。
「あぁぁぁ! マイハニー! マイハニィィィー! 俺だよ、タクロウだよぉー!!」
「う、ううん……あっ、あう? あっ!」
「アトリさぁぁぁーん!」
「た、タクロウ……さん?」
「俺だよぉおおー!」
「タクロウさ……タクロウさぁぁん!!」
ついに感動の再会を果たしたクロスシング夫婦は抱き合う。
「うぅうう、怖かったなぁ……怖かったなぁ! もう大丈夫、大丈夫だ! 俺が来た! 俺が来たからぁ! もう大丈夫だよ、マイハニィィィー!!」
「あぁぁあ、あぁぁぁぁあっ! タクロウさんっ……! 会いたかった、会いたかったぁぁ……!!」
「俺もだよ、アトリさぁぁぁーん!!」
「タクロウさぁぁぁん!!」
「……うわぁ」
泣きながら互いの名を呼び合い、誠の愛を確かめ合う二人にエイトは顔をしかめる。
愛の何たるかを知らないエイトにはただの暑苦しい光景にしか見えなかったようだ。
「ドリーちゃん、大丈夫かぁー!」
「おや、アルマ様」
「あ、アルマ先生も来たのね。僕は大丈夫よー」
「心配したぞぉーっ!!」
アルマはドロシーに勢いよく抱き着く。
その頬にチュッチュとキスをして可愛いドリーの無事を心から喜んでいた。
「あぁん! 何だよ、そのダサい服装は!? あの可愛いのはどうしたの!!?」
「あー、うん。ちょっと色々あってね……」
「色々ぉ!?」
「ど、どうも、アルマさん」
「おい、童貞ェー! ドリーちゃんの服が変だぞ!! どういうことだぁ!?」
「あっ……本当だ! どうしたんですか、社長!?」
「あぁん!? とぼけんなや、コラァー! まさか童貞があたしのドリーちゃんを」
「いやいやいやいや、それはないです! 絶対に無いですから安心してください!!」
ドロシーの服装が変わっているのを変な方向に邪推したアルマはスコットに突っかかる。
当然ながら彼は弁明を試みたが……
「……ふふっ、スコッツ君も男ってことだよ」
ドロシーが笑顔で発した余計な一言が事態を更に面倒臭くした。
「社長ぉー!?」
「やっぱりか! やりやがったな、コラー!!」
「いや、誤解ですから! 俺は何もしてませんって!!」
「ホントにスコッツ君は凄かったよー。ねぇ、アーサー?」
「はっはっ、確かに。それはそれは激しい一戦でしたな」
「童貞ぇぇーっ!!」
「違うから、違うからぁー!!」
《こちら、異常管理局セフィロト総本部です。あと10分で13番街区を廃棄致します。避難出来る住民の皆さんは他の区に大至急……》
既に一件落着ムードになっている彼らだが、13番街区廃棄まで既に残り時間はあと10分を切っていた……
「はっ、そうだ! 社長、俺達も早く逃げないと!!」
「あー、そういえばそうだったね」
「何故にそんなに余裕なんですか! 13番街区って此処ですよ!?」
「何を慌ててんだ、非童貞! 話を逸らそうとしても無駄だぞコラァ!!」
「やめてくださいよ、その呼び方ァ! ていうかアルマさんも少しは危機感を」
「大丈夫よ、スコッツ君! 僕に任せなさい!!」
非情なタイム・リミットが刻一刻と迫る中でもドロシーは余裕を崩さず、ふふんと生意気に胸を張った。
◇◇◇◇
「……」
リンボ・シティ一番街区 異常管理局セフィロト総本部。その最上階にある賢者室で大賢者は悲しげに手を組んでいた。
「……大賢者様、そろそろお時間です」
「わかっているわ、サチコ。準備の方は?」
「……出来ています」
秘書官のサチコがあるものを持ち出す。1から33までの番号が振られた透明なパズルでリンボ・シティを模った不思議なオブジェ。
足りない番号のピースが幾つか見られる歪な地図こそが、この街の運命を左右する魔導具だ。
「まさか、またコレを使うことになるなんてね」
「……」
「……仕方ないわね、他の街区の子を危険に晒すわけには行かないもの」
この魔導具の名前は【アルビテルの街盤】
街の要する超大型空間連結システムの制御盤。
番号が振られた透明なパズルのピースはその一つずつが同じ番号の街区と連動しており、作動キーである【サピエンの指輪】を嵌めて操作することで任意に場所を変更することや街を修復する事も出来る。
そして、街盤のピースを破棄する事はその番号の街区が丸ごと破棄される事を意味する。
「……残り5分です」
「全く、古の賢者共は酷いものを作ってくれたわね」
大賢者は深く息を吸う。そして13番街区の者達が一人でも多く避難している事を祈り、冷めきった紅茶に一口つけた。
>ジリリリリリリン<
そんな時、賢者室の電話が鳴り響く。
「……」
「……私がお取りします」
この賢者室の固定電話に繋がる番号を知るものは極僅かだ。
外の世界の指導者達、街の権力者、管理局の重役など。
「はい、もしも……」
白い塗装に金の模様が入った受話器を取った瞬間にサチコは停止した。
「サチコ?」
「……少々、お待ち下さい」
「誰から?」
「……」
サチコは口元を少し引き攣らせながら大賢者に受話器を渡す……
「もしもし、私よ」
『こんにちは、ロザリー叔母様。私よ、ドロシーよ』
電話を寄越してきた相手の声を聞いた途端に大賢者は目を見開いた。
「……何の用かしら」
『あはは、実はねー……今、13番街区で緊急コードが発令されてるじゃない?』
「ええ、それがどうかしたの?」
『キャンセルしてくれない?』
ドロシーが発した巫山戯た要求に大賢者は目を閉ざす。
「……理由は?」
『えとね、実は私たち13番街区に居るのよ』
畳み掛けてくるドロシーについに大賢者は目頭を抑えた。
「……」
『あはは、安心して。ちゃんとした理由があるから!』
「……どんな理由かしら? 納得できるものを用意してくれない?」
何を隠そう大賢者はドロシー、そして彼女の義母であるルナとアルマの親族だ。
その詳しい血縁関係は管理局の最重要機密とされているので、大賢者専属秘書官を含めた極々一部の幹部しか知ることが許されない。決して許されない。
もしも深く詮索しようとすると、世にも恐ろしい処罰が下される事になるという……