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ここで真のヒロインが満を持して登場します。
「うわぁぁぁあああああ!!」
スコットは叫びながら目を覚ます。
「ああ! あああああっ……あ?」
目を覚ましたのは温かな朝日が差し込む自室のベッドの上。
咄嗟に首元に触れて傷を確かめるが、ヒュプノシアに切られた筈の首には何もなかった。
「……あれ? 俺の首……ちゃんと付いてる。あれっ?」
彼はハッキリと覚えていた。
切り落とされた頭を地面にぶつけ、首のない身体を自分で見上げた瞬間を。
「ここは……俺の部屋? え、何で……」
「……あ、目が覚めちゃったんだ。スコットちゃん、おはよー!」
部屋のドアを開けて金髪の女性が入ってくる。
スコットは彼女の顔を見て硬直し、自分の目を疑った。
「どうしたのー? 嫌なことでもあったの?」
「……あ」
「それとも、すっっごく怖い夢でも見ちゃった??」
やや癖のある金髪のショートヘア。スコットと同じ色合いの青い目に、子供のように明るい笑顔。
そしてバストサイズ92cmのダイナマイトバディに抜群のプロポーション。
間違えようもない……彼女だ。
「怖い夢なんて気にしないの! 起きてる時間が一番大事なんだから、起きてる間にもっと良い夢を見ればいいのよ!!」
「……ああっ」
「どうしたの? 具合が悪いの?」
「キャサリン……ッ!」
スコットは思わず彼女を抱き締める。
もう会えないと思っていた、最愛の女性に再び会えたのだから。
「ちょ、ちょっと! いきなりどうしたのよー!?」
「……これは、夢だよな?」
「えっ?」
「ただの夢……なんだよな?」
「ふふ、夢じゃないわよ。だってー、ほらっ! こうしてまたアンタと抱き合えるんだから」
確かに感じる彼女の温もりにスコットは涙する。
今まで見ていたのは全てが悪い夢だった……その事に心から安堵した。
「……またブラジャーを着けてないのか」
「うん、着けないよ。その方が楽だし、アンタも嬉しいでしょ?」
「嬉しく、ないよ……!」
あの時、目の前で彼女を失ったのもただの悪い夢だったのだと……スコットは本気で信じた。
「大丈夫、あたしは何処にも行かない。ずっと此処にいるわ」
「……」
「でもね、一つ教えておかなきゃいけないこともあるの」
「何だよ……?」
キャサリンはスコットを離し、少し残念そうに笑いながら言う。
「アンタとはまだ一緒になれないわ」
彼女の言葉にスコットは困惑する。
「……えっ?」
「いや、決めてるわよ? あたしは結婚するならアンタしか居ないと思ってるしー、あんな商売してたあたしを本気で愛してくれたしねぇ?」
「いや、それは……うん。で、でも構わないよ! 今は一緒になれなくても……」
「……ふふふ、相変わらず鈍いやつねえ」
キャサリンはスコットの額をツンと突き、にししと笑いながら言う。
「もうアンタのお迎えが来てるって言ってんのよ。さっさと戻ってこいってさ」
「は? 何を」
「ふふっ、後ろを向いて見なさい」
スコットが彼女の言う通りに後ろを振り向くと……
「……ヨゥ、兄弟。イイ夢ハ……見レタカ?」
二本の角を生やした青い影のような大男が、歪な口を大きく裂かせてケラケラと笑っていた。
「……ああっ」
「悪イナァ、オマエハマダ……コッチニ来レナイ……行カセラレナイ」
「あああああっ」
「アノ女ガ、向コウ側デ……オマエヲ 待ッテイルカラナ……」
「あああああああああっ!!」
「……ごめんね、ダーリン」
絶望に顔を歪めるスコットにキャサリンは抱き着く。
「あたしと違って、アンタはまだ死んでないのよ……だから」
「そんな……嘘だろ? キャサリン、嘘だろ!?」
「だから、まだ一緒になれないよ。あたしは……」
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ! 夢だったんだ、あれは夢だったんだ! 君は死んでないんだ!!」
「ううん、あたしはもう死んだのよ。アンタが一番知ってるじゃない」
キャサリンが耳元で囁いた一言が、スコットを夢から目覚めさせてしまった。
「サァ、帰ロウゼ……兄弟」
青い大男は大きな腕でスコットの身体を掴む。
そしてこれ以上ないくらいに愉快げな顔で……
「俺ト、力を合ワせ……一緒ニ、頑張ロうぜ。今までみたいに、あの地獄でなぁ!!」
深い悲しみの涙で顔を濡らすスコットを最愛の女性から強引に引き離した。
◇◇◇◇
〈ヲ゛アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!〉
「……ッ!」
「今日はとんだ厄日ですな。朝の血液型占いでは2位だったのですが……」
「ねぇ、アーサー。スコット君の首は? 元に戻った?」
続けて動物屋の車を真っ二つにし、金色の魔狼はゆっくりと近づいてくる。
「スコット君は……」
「お嬢様、ご心配なく。すぐにまたスコット様と会えますので……」
「スコット君に?」
「ええ、本当です。二人の感動の再会には私も立ち会いましょう」
うわ言のように彼の名を呟くドロシーの頭をそっと撫で、老執事は優しい声で言い聞かせた。
「……ううぅ、タクロウさん……っ!」
「……悪いな、お嬢ちゃん。俺がタクロウさんじゃなくてさ……」
全てを諦めたエイト達に尻尾を振り上げながらヒュプノシアが迫る。
「……」
だが他の三人があの魔獣を見つめる中、ドロシーだけは彼を見ていた。
「……あっ」
ヒュプノシアの背後でゆらりと立ち上がる彼の姿を見てドロシーの瞳に僅かな光が灯る。
「何よ、ビックリさせないでよ。スコット。ちゃんと、首がくっついてるじゃない」
首を切り落とされた筈の彼は何事も無かったかのように再び悪魔の腕を呼び出す。
そして空気を震わす程の勢いで拳を合わせ……
「……ゥゥァァァアアアアアアアアアアアア!!!」
天に向かって嘆いているような凄まじい絶叫を上げた。