13
変なタイミングでとんでもない人とばったり出会うことがありますよね
「ふぁ……」
「お、お目覚めかい? お嬢ちゃん」
アトリから少し遅れてドロシーが目を覚ます。
彼女もアトリと同じような部屋で寝かされており、薬の影響で身動きが出来ない上に腕も縛られていた。
「……」
「ああ、探しものはこれかい?」
ドロシーが何かを探す素振りを見せたので、エイトは態とらしく彼女が持っていた護身用の魔法杖を取り出す。
「……あ」
「しっかし変わった銃だな、コレ。引き金が無ければ撃鉄も見当たらねえ、オマケに銃口も空いてない……こんなのでどうやって弾を撃つんだ?」
エイトはドロシーから取り上げた杖を興味津々に観察する。
形状こそ回転式拳銃に酷似しているが、それは拳銃ではない。
弾丸の代わりに魔法を放つ列記とした魔法杖だ。
「……それは、銃じゃないよ。魔法の杖……」
「へぇ、これが噂の。ということはお嬢ちゃんは魔法使いなわけか」
「……」
「いいね、益々高値で売れそうだ」
ドロシーはエイトのそれらしい反応と発言で自分が人身売買の商品にされそうになっている事を察する。
「その杖、何処にあったか知ってる?」
「お嬢ちゃんの太腿あたりだな、いいもん見せてもらったよ」
「……えっち」
ドロシーはエイトの目を見つめ、薄く頬を染めて恥ずかしがるような素振りを見せる。
「まぁまぁ、下着は見たけどそれだけだ。俺は嬢ちゃんに何もしてねーよ」
「……一緒に居た、アトリちゃんは?」
「ああ、あの子は別の部屋。一緒の部屋が良かったか? そりゃ悪かったな」
「スコットくんは?」
「嬢ちゃんと一緒に居た男か? あー……」
エイトはドロシーに顔を近づけ、小さく笑って答えた。
「悪い、そいつは多分……いや、もう死んじまってる」
エイトの言葉を聞いてドロシーは目を見開く。
「……」
「悪いことしたとは思ってるよ? でも仕方ねえんだよ。そいつが生きてると後々面倒だからな」
「……彼を、殺したの?」
「まぁ、殺しただろうな。今すぐ証拠を見せろと言われても困るけどさぁ」
連れの男を始末された挙げ句、そして自分も商品として売られてしまう少女の末路にエイトは少し同情した。
(恨むなら、可愛らしい自分の顔を恨むんだな)
だが同情はしても特に心は痛まなかった。
痛むような良心など既に捨ててしまっているのだから。
「まぁ、安心してくれよ。男が恋しいならまた新しく紹介してやるからさ……」
そう言ってエイトは立ち上がり、買ってきたタバコに火を付ける。
彼女が上客に買われる事を心で期待しながらタバコを吸って一服した。
(……どうやら二人は無事みたいね。うーん、これからどうしようかなー)
そんなエイトの心中とは裏腹に二人の無事を確信したドロシーは思案を巡らせる。
(身体に力が入らないし、魔法も使えない。スコット君は無事だろうけど多分この近くには居ないよね……うーん、困ったなぁ)
まず薬の影響で身体の自由が効かない上に、杖を奪われてしまったので今の彼女は魔法が使えない。
エイトから杖を取り戻せれば何とかなるのだが、あの男に良心に訴えかけるような揺さぶりや説得は通じないだろう。
誘惑には応じるかもしれないが、身体が動かないので八割方こっちが損をするだけの悪手に等しい。
(……それに、あの子の顔……)
そしてドロシーはエイトの顔が気になっていた。
少し老け顔で若干面長だが眼光鋭く男らしい顔立ち。百年以上を生きてきた彼女は今まで様々な人物と関わって来た。
(……良く似てるのよね、あのお爺さんと)
偶然出会った彼の顔は、かつての彼女と交流のあった とある人物 の面影があったのだ。
「……ねぇ、聞いていい……?」
「ん? 何だよ??」
「……名前は?」
「は?」
「君の、名前は?」
ドロシーにいきなり名前を聞かれてエイトは困惑する。
「俺の名前なんて聞いてどうするんだよ」
「気になったから」
「あ、そう。エイトだ。俺の名前はエイト」
「……ファミリーネームは?」
「図々しいね、お前? 今のご身分わかってる??」
「教えて、くれないの……?」
満足に動けない身体でありながらも強請るように名前を聞いてくるドロシーに根負けし、エイトはため息交じりに自らの名前を告げた。
「エイト、エイト・ロードリック。これで満足いただけましたかね? お嬢ちゃん」
彼の名前を聞いてドロシーは驚愕した。
「……!」
「何だよ、その顔は。ダサい名前だなってか?」
「……あは、ははは」
「……あ?」
「あはははは、あはははははっ」
そして彼女は身体を震わせて笑い出す。
まるでもう会えないと思っていた古い友人に再び出会えたかのように。
「……何だよ、そんなにおかしい名前か?」
「……ううん、そんなことない……凄く、素敵な名前よ」
ドロシーが本当に嬉しそうな笑顔で発した言葉にエイトは動揺する。
そして目の前の少女が、まるで天上の使徒ように美しいと改めて思った。
「……僕が、売られるまであとどのくらい?」
「さぁね、運が悪いと今日中に買われるだろうな。嬢ちゃん達は二人共美人だから競争になるかもなぁ……精々、高値で売れてくれよ?」
「そう、じゃあそれまでお話しない?」
「随分と余裕だな? これからどうなるかわかってんの?」
「……わかってるよ。でも、それまで退屈なの。友達と離れ離れになって寂しいし……少しだけ話し相手なってくれない?」
エイトは自分を恐れるどころか馴れ馴れしく話しかけてくるドロシーを不思議に思う。
今までの商品は大抵が泣き叫ぶか、助けを呼ぶか、無駄だと知りつつも取引を持ちかけてくるのがお決まりの反応だったが今回の彼女は大きく違っていた。
彼女は自身の事など全く心配していないのだ。これから売り飛ばされてしまうというのに。
「しゃあねえな、少しだけだぞ?」
「……ありがと」
「で、お嬢ちゃんはどんなお話がしたいんですかね?」
「君は……どうして、このお仕事をしようと思ったの?」
「いきなり凄いこと聞くね?」
「気になったから……」
「気になるか? 普通は『どうしてこんな事するの』とか『何でもするから助けてー』とか言うもんじゃね? 俺がどんな仕事しようがお前には関係無いわけじゃん??」
「あはは……そうね、ごめん。じゃあ、何でもするから……もっと君のことを教えてくれない?」
「……変わった女だなぁ、お前」
妙に自分のことを聞きたがるドロシーにエイトは調子を狂わされる。
「ま、別に大した理由もねえよ。こうでもしなきゃ生きていけなかった……それだけだ」
「……よっぽど、酷いところで生まれたのね」
「そこそこな。今でも夢に見るくらいには……クソッタレな場所で育ったよ」
「この街よりも?」
「はっ、この街と比べんなよ。此処と比べられたらどこも天国になっちまうじゃねーか」
そして気がつけば聞き上手なドロシーに乗せられ、面白くもない身の上話を淡々と語り出していた。
難波の玩具店で声優の柿原徹也さんに会ったことがあります。ビビりました。
しかも玩具の買取までしてもらいました。言葉にならない声が出ました。