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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.5 「二兎追う者だけが二兎を得る」
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7

 時刻は午前10時、喫茶店 ビッグバードにて


「ふふふ、それじゃ お留守番お願いしますね」

「ほ、本当に着いていかなくていいのか?」

「大丈夫ですよ、ドロシーさんと一緒ですから」


 お出かけの準備を終えたアトリは心配そうに見つめるタクロウに言う。


「で、でも……」

「それに新人さんやアーサーさんも来てくれるそうですから心配ないですよー」

「うむむむ……」

「大丈夫、私だって自分の身は自分で守れますから!」


 アトリにそう説き伏せられ、元々彼女には頭の上がらないタクロウは渋々留守番に徹する事にした。


「あ、ドロシーさん達が来ましたね」

「何かあったらすぐに電話してくれよ、アトリさん」

「はい、わかってます」

「何かなくても電話してくれよ、アトリさん!」

「はい、タクロウさん」

「30分ごとに電話して!!」

「もう!」


 アトリは自分が心配で気が気でない夫の頬に軽くキスをする。


「ホアッ」

「いい子でお留守番していてくださいね、()()()

「!」

「ふふふ、行ってきますー」

「えっ、待って! 今何て言ったの!? ちょっともう一回言ってみて!?」

「ふふふふっ」

「アトリさーん!?」


 タクロウを店に残してアトリは外に出る。外では長身の老執事が笑顔で彼女を待っていた。


「お迎えにあがりました、アトリ様」

「ふふふ、今日はよろしくおねがいします」

「はっはっ、それでは車へどうぞ」


 老執事が(DB11X)のドアを開けると笑顔のドロシーが彼女を迎えた。


「あらっ!」

「ふふふー、いらっしゃーい」

「どうしたんですか、ドロシーさん! 凄く可愛い!!」

「あははー、煽てても駄目よー。アトリちゃんには敵わないからー」

「そんなことないですよー!」

「そんなことあるのよー」


 後部座席でキャイキャイと仲よさげに盛り上がる二人を助手席のスコットは何とも言えない顔で見つめる。


「……」

「お待たせしました、それでは発車いたします」

「はーい、お願いねー」

「ふふふ、お願いしますー」

「あ、アトリちゃん。たっくんが見てるよ」

「あっ、本当ですねー」


 二人は店の中から此方を見つめる愛妻家のゴリラに手を振り、それを合図に黒塗りの車は走り出した。


「……あの二人、本当に仲が良いんですね」

「意外ですかな?」

「ええ、まぁ……少し……」


 まるで歳の近い友人のようにお喋りする二人を見てスコットは不思議がった。


「はっはっ、スコット様もまだまだですな」

「な、何がですか」

「ああ見えて社長は貴方が思っている以上に素敵なお方なのですよ」

「そうですかね……」


 二人の性質は対照的で、実年齢よりも遥かに外見が幼く無邪気で小悪魔的な性格のドロシー、実年齢よりも大人びて誰にでも優しく献身的な性格のアトリ。

 普通なら反発しあいそうなものだが彼女たちの仲は非常に良好だった。


「ふふふー、今日のドロシーさんはいつもと違いますね!」

「わかるー? わかっちゃうー?」

「わかりますよー、ふふふ。やっぱりあの……」

「駄目よー、駄目駄目。聞かれちゃうから!」

「ふふふ、わかりました。それじゃ聞かれないように……(ヒソヒソ)」

「やだー! まだ三回しか会ってないのにそこまでわかっちゃうの!?」

「わかりますよー! うふふふー!」


 ガールズトークに花を咲かせる後ろの二人に寒気を感じながらスコットはフロントガラスから見える景色に集中する。


「今日は何処に行くんでしたっけ」

「13番街区の雑貨屋に魔導具店、そして食料品店をメインにお回りになるそうです」

「……で、俺が連れて来られた理由は?」

「荷物持ちですな」


 老執事にハッキリと言われ、スコットは目の色を濁らせる。



(はっはっは、やりますなスコット様。あのお嬢様がお洒落をしてまで貴方を呼ぶ理由など二つとありますまい。それを敢えて気付かないフリで済ますとは……中々女心をわかっておられる)



 この老執事も浮かれるお嬢様の乙女オーラに毒されたのか、その研ぎ澄まされた慧眼を非ぬ方向に発揮してスコットの真意を曲解する。


「56点と言ったところです」

「? 何がです?」

「いえ、何でもございません。お気になさらず」


 お嬢様第一の執事にとってドロシーの選択は絶対、彼女が選んだ男はその時点で伴侶扱いなのだ。



(俺は荷物持ちかよ……やだなぁ。魔法が使えるんだから荷物を魔法で軽くするとかして……ていうか執事さんに持たせればいいじゃないか。俺を連れてくる理由ないじゃん)



 当然、スコットがドロシーに好意を()()抱いていない事など全く思っていない。


「ねー、スコッ()くーん」

「スコットです」

「あの、スコットさん。一つ聞いていいですか?」

「スコッ()で……あっ」

「スコットじゃなかったの?」

「……」


 スコッツと呼ばれすぎて正しい名を自分で言い違え、両手で顔を覆うスコットに二人はうふふと愉快げに笑った。


「ねー、可愛いでしょー?」

「本当ですね、可愛いー!」

「……き、聞きたいことは何ですか! 言ってくださいよ!!」

「あ、ごめんなさい。ええとー……ふふふっ!」

「何ですか!?」

「ごめんなさい、忘れちゃいました!」

「はぁ!?」

「怒っちゃ駄目よ、スコッ()くーん。アトリちゃんは怖がりなんだからー」

「俺はスコッ()だって……はっ!」


 再び名前を言い間違えて顔を真赤にする彼を見て二人は更に楽しげに笑う。


「くそぉ、もう限界だ! 執事さん、ここで降ろしてください!!」

「運転中の降車はご遠慮ください、スコット様」

「いや、停めてくださいよ!」

「そう言われましても、私は社長の執事ですので」

「クソァ! だったらこの車をぶっ壊して停めてやるぁー!!」

「あ、出るよ! スコット君の悪魔が!!」

「そうそう、それが気になっていたんです! 是非、見せてください!」

「……!!」


 スコットは悪魔を呼び出して車を無理矢理止めようとしたが、ここで後ろの小悪魔達が畳み掛けてくる。


「……きょ、今日の悪魔は、まだ眠っているようです」


 二人の本気で期待しているかのような眼差しに耐え切れず、スコットは発動寸前だった悪魔の力を抑えてそっと席に着いた。


美しいユウジョウの前に年齢差は問題ありません。

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