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レギュラーより準レギュラーの方がキャラ造形に力を入れちゃう時がありますよね。
『それでは空からの落ちもの、不意の銃弾、隣人のペットにお気をつけて! 今日も良い一日を!!』
朝のニュースを見終え、食後の一服であるカップ一杯のカフェオレを飲み干す。
「ふぅ」
その一杯が、男にとっては至極のものだった。
190㎝を越える長身で全身を強化外骨格と人工筋肉で覆った強面の男。
瞳の色は明るいブルー、服装には拘らないのか袖を捲ったシンプルな白地のカッターシャツとデニム生地のズボンを着用している。
彼、タクロウ・クロスシングは街の路地にひっそりと建つ喫茶店の経営者。
年齢は32歳、アルバイトは時給7L$で時々募集中だ。
L$(リンドル)とはこの街独自の通貨単位であり、US$(米貨)に近い呼び方になっているが全くの別物である。
為替レートもUS$と大幅に異なり、円換算で1L$=約132円。
「今日はいい一日になりそうだ」
タクロウは穏やかな表情を浮かべて言う。
彼にとってはまさしく穏やかな顔なのだろうが、他人から見ればその顔はかなり怖いものだった。
「ふふふ、いい天気ですからね」
そんな彼とは対極的な優しく愛らしい笑みを浮かべてテーブルの食器を片付ける少女。
彼女の名はアトリ・クロスシング。
この店の看板娘でタクロウの妻で17歳……まだ未成年である。
淡い紫の長髪が朝日に煌めき、表現しがたい美しさを醸し出している。
その瞳も髪と同じ色合いの綺麗な紫色で、まるで上質なアメトリンにも勝る輝きを秘めている。
そして彼女を語る上で欠かせないのが実に聞き飽きた表現かもしれないが、人間離れしたその美貌。
身長154㎝と低めながら豊満なバストにモデル顔負けのプロポーション。
服装は夫とお揃いのものだが彼女の薄地のシャツは豊かな胸をこれでもかと強調し、デニム生地のズボンも魅惑的なヒップラインをくっきりと浮かび上がらせている。
「きっと今日も素敵な一日になりますよ」
これだけの美貌を誇りながら彼女はまだ未成年である。
「アトリさんもそう言うなら、間違いなくいい日になるな」
「あはは、あんまり期待されると困ります」
今日も仲睦まじいクロスシング夫妻はこの街でもちょっとした有名人だ。
勿論、誰かと違って良い意味で。
「ふー、こんなもんかね」
店の開店準備を終えてタクロウは一息つく。
訪れる客は大体いつも同じ顔ぶれだが、だからこそ精一杯のおもてなしをしようといつも心に決めていた。
店に訪れる人の笑顔を見るのが夫婦にとって一番の楽しみなのだから。
「ふふ、新しい窓ガラスも綺麗に馴染みましたね」
「あー、うん。そうね」
窓ガラスを見るとタクロウは否応にも不機嫌になった。
「ガラスを張り替えるのはこれで何回目かなぁ……」
この街では ちょっとした荒事 は日常茶飯事だ。
だから店もそれに巻き込まれても何とかなるようとにかく頑丈な素材で出来ている。
特に店内を外から覗ける窓ガラスの選別はかなり手間暇をかけた。
その特殊ガラスはバットで殴られようが、銃で撃たれようが、車が突っ込もうが、果てはよくわからない怪物に突進されようと割れない程の逸品だ。
……そんな自慢の特殊ガラスを とある金髪の魔女 がよく台無しにするのだが。
「そんな顔しないの、お客様が怖がっちゃいますよ?」
「お、おう……」
タクロウは精一杯気分を変えて笑顔を作るが、そんな夫の顔を見て妻は笑う。
「ど、どうかな?」
「ふふふっ」
「……いい感じ?」
「はい、今日もタクロウさんは可愛いです」
くすくすと笑うアトリに照れながら、タクロウは店の看板を出す。
喫茶店 ビッグバード、それがこの店の名前だ。
夫婦は空色の生地に白い鳥を模した刺繍を施したエプロンを身に付け、それぞれの定位置に立つ。
タクロウは厨房前のカウンター、アトリは店のドアの前だ。
「この場所で、皆を待つのが好きなんです」
「ああ、よくわかるよ」
「ふふふ、はじめの頃はタクロウさんがここでお客様を待っていたんですよね」
アトリは懐かしみながら幸せそうに言う。
この眩しい笑顔が目当てで二人の店を訪れる者も多い。
彼女は未成年にして既に人妻だが、その美しさに見惚れた者達がまたその姿を目にしようとやってくるのだ。
もっとも、来客は看板娘だけを目当てに来るのでは勿論ない。店長も顔は怖いが人を惹きつける温かな魅力があるのだから……
そして時刻は午前10時、開店の時間だ。
「さて、今日も頑張りますかー」
「ですねー。あら?」
開店と同時に客が入ってくる。
そんなに楽しみにしてくれたのかと夫婦は嬉しく思った。
「「いらっしゃいませ!!」」
夫婦は笑顔でその日最初のお客様を歓迎した。
「おはよー、たっくん。元気────」
台詞を全部言う前に、その日最初の来客である金髪の少女はタクロウに店外へつまみ出された。
「えっ、あれ?」
バターン
「……たっくん?」
ガチャガチャ
ガチンッ
「たっくーん!?」
タクロウは少女を追い出した後、一切の無駄がない流れるような動きで店のドアを施錠する。
『ちょっとー! 入れてよー! 僕だよ、友達のドロシーだよー!!』
「うん、これでよし」
「……タクロウさん?」
『たっくーん! 僕だよー!?』
「あ、あの、今、お客様が」
「アトリさん、今日は開店時間をいつもより遅くしよう。場合によっては臨時休業しちゃうかも」
店に入れてと懇願する少女の声を全力で無視し、タクロウは困惑する妻に満面の笑みで言った。
chapter.5 「二兎追う者だけが二兎を得る」begins....