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「今行くぞ、デイジーッ!」
迫る触手を掻い潜り、ついにデイジーの真下まで迫ったアルマは地面を蹴って跳躍。
「ねっ、姐さんっ!」
〈ヴァアアアアアアアアアアアアッ!!〉
もう少しでアルマの手がデイジーに届こうとしたところで怪獣は更に触手を伸ばし、餌に釣られたアルマも捕縛しようとする。
「ちいっ!」
アルマは空中で身を翻して迫る触手の間をすり抜け、触手を足場にして更に跳躍しつつ怪獣の攻撃を黒刀で切り払う。
「くっそ、この野郎っ! 次から次へとっ! うっぜぇんだよぉおおー!!」
アルマの人間離れした機敏な動きを捉えきれずに触手は次々と切り落とされていくが、彼女の死角を突くようにして背後から迫った一本の触手がついに彼女を捕らえる。
「うおっ!?」
触手に縛られて身動きが取れなくなったアルマに機械の触手が迫る……
動けない彼女を槍のように尖った先端で貫こうとした瞬間に触手達は青い光の弾丸に撃ち抜かれた。
「僕のこと忘れちゃ駄目よ、デカブツ。さっさと終わらせて帰りたいんだから無駄な抵抗しないで」
ドロシーはアルマを縛る触手を魔法で撃ち抜く。
アルマは地面に落下する前に巻き付いた触手を振りほどいてストンと着地した。
「サンキュー、ドリーちゃん!」
「ふわあああああっ!」
パンッ、パンッ
「わわわっ! やった、助かったー!!」
次にドロシーはデイジーを縛る触手を撃ち抜くが、開放された彼を新しく生えた触手が再び拘束した。
「……って、何でだよ畜生ぉおおおお────ッ!!」
大きな瞳から煌めく大粒の涙を散らし、デイジーは再び囚われの身になってしまった。
「あーっ! デイジーッ! あのクソデカブツ! マジで殺す! 絶対殺す! ぶち殺す! このクソゴミ☓☓☓腐れ△△△△ガラクタ○○○○野郎が!!」
〈ヴァアオオオオオオオオオオオオオッ!〉
怒りのあまり物騒な発言を連呼し、ついにNGワードを織り交ぜた冒涜的な仇名をつけ始めたアルマに対して怪獣は『こっちの台詞だ』と言わんばかりに吠え返す。
〈ヲヴァッ!!〉
そんな怪獣にドロシーは再び爆発魔法をお見舞いした。
「はわぁぁぁぁーっ!」
「しゃ、社長! デイジーさんの服が爆風と熱で酷いことになってますよ!?」
「うーん、諦めてさっさとデイジーちゃん放してくれないかなぁ。デイジーちゃんが可哀想じゃないのー」
「そのデイジーさんが今ヤバいことになってますけど!」
「ふやぁぁああああああーっ! もうやだぁあああああー! お嫁に行けないぃいー!!」
爆風と熱で服がボロボロになって肌を露出させながらデイジーは大泣きする。
泣きながら辛うじて動かせる脚で必死に身体を隠そうとし、お嫁にいけないことを心配するその姿はもはや完全に乙女であった。
「頑張れ、デイジー! あとお嫁で良いのか! お婿じゃなくて!?」
「お婿ですぅううー!!」
「ぱぎゃああああああああああああああああっ!!」
彼の悲鳴に混じって聞こえてきたのは人間が絶叫するような声。
ドロシーが目を凝らすと大きく抉れた怪獣の胴体部から藻掻くように這い出す人型生物の姿があった。
「あ、何か出てきた!」
「……なるほど、あれが【本体】か。怪獣みたいな姿はアレを守るためのキグルミみたいなものだったのね」
「あれもまた酷い姿ね。まるで豚みたい」
鈍く光る銀色の球体が顔面に食い込んだ豚に似た人型生物はこちらを指差してギャアギャアと叫ぶ。
「ぽぎゃあっ! ぽぎゃ、ぽっ」
「死ねぇぇぇぇー!」
「ぷぎゃあああああああああああーっ!!」
追い詰められた本体は人質を何とも思わないドロシーに物申そうと出てきたようだが、そんな本体にアルマは黒刀を黒い槍に変化させて投げつける。
黒槍はブクブク太った腹部に突き刺さり、醜悪な本体は豚のような悲鳴をあげた。
「どおりで中々死なないわけだよ」
ドロシーは露出した本体にトドメを刺そうと魔法を放つが、まるで本体を守るかのように胴体を頑丈な外殻が覆い、彼女の魔法を防いでしまった。
「あ、あいつ! また隠れやがった!!」
「……そこは大人しくトドメを刺されてくれない? 何の為にそのブサイクな面を見せたのよ、『早く殺してください』って意味じゃないの??」
「往生際の悪い子ね。あんな姿になってまで生きたい理由なんてあるのかしら……いい迷惑だわ」
あからさまに苛ついているドロシーに、遠回しに早く死んでと呟くルナ。
「ざけんな、オラァアアー! 出てこいや、コラァアアアー! ぶっ殺してやぁぁぁぁる!!」
そして怒り心頭で執拗に怪獣の胴体に蹴りを入れるアルマ。
「……」
色々と吹っ切れた女性陣を前にスコットは立ち竦んでいた……その時だった。
「う、うわっ! うわぁああああーっ!!」
デイジーを捕らえていた触手が怪獣の口元に運ばれていく。
「!」
「ああっ、デイジーさんが!」
ドロシーは急いで彼女を捕らえる触手を撃ち落とそうとするが……
カキンッ
その杖先からは虚しい音が鳴り響いた。
「……ッ!!」
最悪のタイミングで弾切れを起こした魔法杖を手放し、ドロシーはコートからエンフィールドⅢを取り出して魔法を連射する。
しかし視界を遮るようにして襲いかかる触手に阻まれて上手く狙いがつけられない。
「ああっ、おいコラ! やめろ! デイジーッ!!」
「あああああああああああーっ!」
アルマの制止する声が怪獣に届く筈もなく、デイジーはそのまま飲み込まれてしまった。
「あ……」
スコットの目の前でデイジーが食われても、悪魔はまるで反応を示さなかった。
何度も捕まって状況を更に悪化させるのはヒロインの得意技です。仕方ないね。