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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.22「あなただけがいない街」
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22

みんなで一緒なら怖くない

「……」

「うふふ、安心してください。倒せなくても皆さん一緒に天国に行けるのですから怖くありませんわ」


 ニックの言葉にルナは沈黙で返し、マリアは冗談めいた事を言って場を凍りつかせる。


 空を睨みつけるドロシーの背中を不安げに見つめ、ルナはざわめきが止まらない胸にそっと手を当てて静かに目を瞑る。


「……大丈夫、彼は戻ってくるわ」

「……夢で見たのかい? 彼が戻ってくるのを」

「いいえ、でも私は信じてる」


 ルナはそう言って瞼を開き、光りに包まれる空を見上げる。それと同時に空からは無数の手が突き出した。


「私は信じているわ」

「ははっ、そうか。それなら私も信じよう……彼の帰還を」


 ニックはそう呟いて剣を構える。


 その場に集った全員が臨戦態勢に入ったのを肌で感じ、ドロシーはすうっと深呼吸しながら手にした杖を空に掲げる。


「……我、人の名において天の御使いに宣告す」


 輝きを失った瞳で光りに包まれる空を見つめ、ドロシーは呪文を詠唱する。


「刻むは天理に背きし外法。心砕く祝詞。畏れを知らぬ叛逆の誓……」


 天使が降臨する度に口ずさむ言葉。


 天使を殺すための祝詞。


 今まで何度唱えただろうか? それはもう彼女にもわからない。恐らく以前のドロシーも覚えていないだろう。


「この印を刻みし我らは 今より理外を屠る獣と成る」


 ただこの日が訪れる度、彼女(ドロシー)達は天の使いに向かって呪文(のろい)を呟く。今ある日常を守るために、この街に暮らす人々を守るために。天使達を滅ぼすために。


 それが彼女()の役目だから。


 そのためだけに彼女は人ならざる力を与えられたのだから。


「その身に刻め、魂狩の金印(アニム・スフラギラ)


 彼女が呪文の詠唱を終えると共に、その場に集った者達の武器に金色の文字が刻まれる。



 〈……るるんっ〉



 上空に浮かぶ天使門から這い出た天使が産声を上げる。それに呼応するように無数の天使が門から出現し、一斉に翅を羽ばたかせた……



 ◇◇◇◇


 ヴェーッ、ヴェーッ、ヴェーッ!


「うう……はっ!? 何だ、一体どうなった!?」

「ヤモ……」

「ヤモモモ……って、何処だここは!?」

「わかんないけど、どこかの空ー! それから、えーと……んーとー多分、この船落ちてるよぉーっ!!」

「ヤモーッ!?」


 船内に鳴り響く警告音。実験中のトラブルで意識を失っていたヤリヤモ達が目を覚ますと、宇宙船は見知らぬ街の地面に向かって落下中だった。


「バ、ババ、バラウンサー全開ー! 反重力マハトマ推進機全開放! 何とか墜落を阻止しろー!!」

「「「ヤモーッ!」」」


 目覚めたヤリヤモ達は一斉に携帯電話サイズの補助制御盤(ドータータブレット)を操作する。

 

 補助制御盤を通じてメインデッキに設けられた制御盤(マザータブレット)に命令が送られ、無人の操縦席が一人でに稼動。見知らぬ街に向かって落下中だった宇宙船は船底から無数の姿勢制御用バーニア球を展開し、青白い光輪を発生させて空中に踏みとどる。


「あわわわわっ、船の真下に大きなウィクスコ()があるよー!」

「ヤモモーッ!」

「ふんばれーっ!」


 見知らぬ街を押し潰しそうになる寸前で宇宙船は上空100mの位置でギリギリ制止。高さ100mを少し越えていた建造物を少々壊して瓦礫をばら撒いてしまったが、今の彼女達にそこまで気を配る余裕はなかった。


「はーっ、はーっ……な、なんとかなったぞ!」

「ヤ、ヤモ……ヤモ……」

「し、しかし、一体何が……」

〈……座標α……に跳躍、完了。対象の反応……100メル付近……、誤差g……〉

「!?」


 聞こえてくるノイズ混じりの機械音声。デモスが声の方を見るとシュバリエの刃が突き刺さったまま機動するデ・メンション跳躍籠の痛々しい姿が目に飛び込んできた。


「ま、まさかこの状態で動いたのか!? 今までどんなに手を尽くしても駄目だったのに!」

「あわわわっ、刺さってる! 凄い刺さってるよぉー!!」

「どうしてこれで動くんだ!? 理解できない! 今までの苦労は何だったんだ!」

〈……〉


 刃が突き刺さっているのはデ・メンション跳躍籠の基礎回路。


 どう考えても傷ついてはいけない場所なのだが、何故か装置は作動している。逆に刃を突き刺したシュバリエはその状態で完全に停止し、身動ぎ一つしなかった。


「よ、よくわからないが……な、何とかなったのか?」

「シュバリエはどうなった!? 全く動かないぞ!」

「さ、触っちゃだめー! そのままにしておいたほうがいいよー! そんな気がするー!」

〈……対象の反応……100メル、付近……〉

「た、対象……はっ!」


 デモスは慌ててディスプレイを見る。


 意味深な赤いマーカーで指し示されたのは地面に落下した大きな瓦礫。デモスが息を呑んで凝視していると、目測で数トンはありそうな瓦礫が一人でにひっくり返る。


「あ、ああ……っ!」


 瓦礫の下から現れたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()


 それはまさしく彼女達が探し求めたあの青年だった。


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