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怪物、触手、可愛いヒロインとくれば……答えは一つですよね。心得ております。
>ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ<
「うわぁっ、制御が効かない! 落ちますぅううーっ!!」
機械の触手に捕縛されたヘリコプター内に警告音が鳴り響く。
機体はミシミシと悲鳴を上げながら徐々に潰され、内部の職員達は絶体絶命の危機に陥っていた。
「うわぁああああーっ!」
「は、早くあの触手を何とかしないと……っ!」
「ママ────ン!!」
「ああ、クソッ! みんなもっと俺の近くに来い! 操縦士! さっさとこっちに来るんだ!!」
ジェイムスは皆を自分の周囲に集め、首に下げたネックレスを千切って意識を集中させる。
「……何処に跳ぶかは運次第だ! みんなで祈れ!!」
────グシャッ
「あっ……」
「お、おいおいおい! あのヘリコプター潰されちまったぞ!?」
「……多分、大丈夫でしょ。管理局の職員はあれくらいじゃまだ死なないよ」
触手は捻り潰したヘリコプターを怪獣の頭があった部分に運ぶ。
すると下顎しか残っていなかった頭部周辺にビッシリと牙が生え揃った新たな口が形成され、そのままヘリを捕食した……
「……」
「く、食わっ……! 食われましたよ!? あのヘリコプター食われちゃいましたよぉおおー!!?」
「可哀想に、これは流石に駄目ね。安らかにお眠り……」
「貴方達の犠牲は無駄にしないわ……、ゆっくり休んで」
「管理局の皆様、今までお務めご苦労さまでした……アーメン」
「人が死んだのに涼しい顔で受け入れないでくださいよぉぉぉ───ッ!!」
駆けつけた管理局職員達の尊い犠牲をあっさりと受け入れ、静かに十字を切るドロシー達にリュークは思わずツッコミを入れる。
バキン、バキバキバキ、ボリン
続いて怪獣は黒塗りの高級車を頬張り、ビターチョコレートか何かのようにボリボリと美味しそうな音を立てながら摂食した。
〈……ヴォッ、ヴォグググ、グッ……ヴォギャアアアアアアアア!!〉
餌を取り込んで回復したのか、怪獣は新しい頭部を再生する。
より醜悪に、より凶暴な風貌になった怪獣はギョロリと大きな目で此方を睨みつける。
「……警部、今から僕がデカブツに魔法を撃ち込んで怯ませるわ。その隙に新人君を連れて逃げて」
「いや、逃げてもすぐ捕まりそうなんだが……」
「アーサー、二人をお願い。出来るだけ遠くへ逃して」
「了解しました」
「アルマはデイジーちゃんを」
「オーケー、任せな。あたしが助けてやるよ」
アレックス警部から拝借した警棒でアルマは新しい黒刀を精製し、深く腰を落とした独特の構えを取る。
「スコッツ君はルナをお願いね」
「……」
「大丈夫、君なら絶対に守れるから」
そしてドロシーは杖を構えて狙いをつけるが……
「うわわわっ!!」
「!」
怪獣は捕まえたデイジーを胴体付近に吊り下げ、まるで彼を盾にして挑発しているかのような動きを見せた。
「……」
「あっ、あの野郎!」
「デ、デイジーさん!!」
ズガンッ、ガガガガガガッ
デイジーを盾にしながら怪獣は触手で攻撃するが、ドロシーの展開した色ガラスのような防御障壁に防がれる。
やがて触手の攻撃では彼女の障壁を貫けないと察し……
「ぐあっ、あっ、ああああああああ!」
デイジーの身体をギリギリと締め上げ、大きな目を歪ませて『障壁を解け』『武器を捨てろ』と言葉なしに脅しかける。
「ああああああああああああっ!!」
「!!」
「しゃ、社長! デイジーさんが!!」
「……」
「デイジーさんがっ!」
「あの野郎! よくもあたしの可愛いデイジーを! ぶっ殺してやる!!」
「社長!!」
ドロシーは目の前で締め上げられるデイジーの姿を見ても表情一つ変えなかった。
「社長……!?」
「お、オレに構うな! 撃てっ! 撃てーっ!!」
「な、何言ってるんですか! デイジーさん!!」
「いいから撃て! オレごとっ……うあっ、うああああああああっ!!」
やがてデイジーの肩口に血が滲み出す。
その気になれば怪獣は彼をいとも容易く捻り潰すだろう。
「……仕方ないね」
ドロシーはすうっと息を吸い込む。
そして残念そうに笑い、怪獣の要求通りに杖を降ろすかと思えば……
「ちょっと怖いけど我慢してね、デイジーちゃん」
そのまま杖先から白い光弾を放った。
「……はっ?」
スコットは目を疑った。
ドロシーはデイジーに向かって何の躊躇もなく魔法を放ったのだから。
(……嘘だろ? え、嘘だろ??)
(本当にあの人ごと……ッ!?)
そのまま光弾はまっすぐとデイジーの目と鼻の先まで迫り……
「……ッ!!」
死を覚悟して目を瞑った彼の目前で拡散し、背後の怪獣に全弾命中。
────キュドドドドドドォオオン!
そのまま怪獣の大きな手足だけを爆破した。
〈ヴァギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!〉
自らの巨体を支えられなくなった怪獣は、千切れかけた手足をおかしな方向にひん曲げながら地に伏した。
「はぁっ!?」
「アーサー、アルマ、行って」
「仰せのままに」
「はっはーっ! 任せろおーっ!!」
怪獣がダウンしたのを合図に、アーサーとアルマは互いに逆方向に駆け出す。
「失礼いたします」
「うおっ!」
「えっ、ちょっ!?」
アーサーは大の大人である警部達を担ぎ上げ、そのまま全速力で走り去った。
「え、えええええええっ!?」
あまりの事態に思わずスコットは声を上げる。
自分が目にした光景が信じられず、首を忙しなく動かしながら前後を何度も見直した。
「流石、アーサーね。歳をとっても力持ちだわ」
「いや、あんな軽々と大人二人を!? 何者なんですか、あの人!!」
「アーサーも凄いのよ。今はその言葉だけで察しなさい、後でゆっくり話してあげるから」
ルナは表情一つ変えずに混乱するスコットを宥めた。
「ふわわぁぁぁぁあああーっ!」
「はっはっ、今助けてやるぞ! デイジーッ!!」
アルマは機械の触手を黒刀で切り払い、宙ぶらりんになったデイジーのところに急ぐ。
しかしいくら切り落としても次から次へと生えてくる触手に阻まれ、一向に距離を縮められない。
「ぐあーっ! 鬱陶しいー! 邪魔すんなぁぁ!!」
「アル姐さぁぁああああああん! オレはもう駄目だぁあああああー! 今までありがとおおおおー!!」
「諦めんな、お前! 大丈夫、あたしが助けてやる!!」
「ぶぇえええええええーん!」
「泣くなーっ! 帰ったらベッドで慰めてやるからーっ!!」
恐怖のあまりデイジーは大声で泣き出す。
そんな彼を慰めながらアルマは襲いかかる触手をスパスパと切り落とし、時には身を躱しながら疾風のように駆け抜けた。
ヒロインを捕らえた相手が酷い目に遭います。