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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.22「あなただけがいない街」
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15

忘れないであげてね、あの子達のことを!

「……今日もドロシーは部屋に籠っているのか」


 ウォルターズ・ストレンジハウスのリビングで同族達とお菓子を食べながらデモスは呟いた。


「ええ、スコット君が居なくなってからずっとあの調子ですわ。奥様が一緒に居てくれていますが……」

「えー」

「ヤモモ……」

「うむむ、何とかしてあげられないだろうか」

「スコット様のお声掛けでも無ければどうにもなりませんでしょうな」


 ドロシーの寝室を見つめながら使用人とドロシー顔の客人は溜息を吐く。


 スコットが姿を消してからもう1週間近くになる。彼が居なくなってからドロシーは塞ぎ込んでしまい、アルマとデイジーは諦め切れずに今尚街中を捜索している……


『うぅわああああああああああ――――――!!』

「ヤモッ!?」

「むむっ、何だ!? 上の階から叫び声が……!?」

「あら、また始まってしまいましたわね。出番よ、アーサー君」

「はぁ、またですか。参りましたな」

「早く行って慰めてあげなさい、このままだとあの子が自刃してしまいますわ」


 アーサーは自分の肩を軽くトントンと叩くと困りげな笑みを浮かべて2階へと向かう。


 あの叫び声の正体はブリジットだ。彼女はスコットを救えなかった事で自己嫌悪と罪悪感のあまり自傷癖を発症。定期的にアーサーが声をかけなければ愛剣で自分を切りつけかねない程に追い詰められてしまっていた。


「……あの子一人いなくなっただけでこの有り様です」


 マリアはファミリーの惨状を憂いながら呟く。


 スコットがこの街に来てからまだ一月程度だが、共に過ごす内にいつしか彼女達にとって彼はかけがえの無い存在となっていたのだ。


「……魔法でどうにかならないのか?」

「ここは絵本の世界ではないのですよ?」

「じゃー、ダイケンジャーに頼んで道具を貸してもらえば? 探せば何かあるでしょー、あの建物には色んなものがあったよー」

「あの人はスコット君が嫌いですの。期待しない方がいいですわ」

「ヤモッ、ヤモッ!」

「そうですね。彼を追って異世界に行ければ良いのですが……それができれば苦労はしませんわ」

()()()()()()()()()


 デモスはそう言って口元を拭うと、勢いよくソファーから立ち上がる。


「そうしましょうとは?」

「つまり彼がいる世界まで行ってこの世界に連れ戻せばいいんだな」

「ですから、それが出来るなら」

「私達の技術なら可能かもしれない」

「はい?」

「昔、私たちは星が滅びる前に、こことは違う別の世界にコンテクトする実験をしたことがあるー。異世界に避難すれば宇宙に旅立つなんてリスクの大きいことをしなくてもいいからー」


 デモスに続いてヤリヤモ達も立ち上がり、アンテナのような癖毛をみよんと立てて語り出す。


「結果として実験は失敗し、実験に参加した大勢のヤリヤモ達はアストラルのみが異世界に移行して二度と肉体には戻ってこなかった」

「それ以降何度か実験は繰り返されたが結局成功しなかった。やがてその実験は凍結され、私達は滅びゆく星を見捨てることになった」

「ヤモッ!」

「今でも成功する確率は低いけどー」

「……そうでしたか。それなら仕方ありませんわね」

「「「でも、試してみる価値はある」」」


 この星を遥かに超える技術力を持つ彼女達でも失敗したと聞いてマリアは諦めそうになる。しかしヤリヤモ達は口を揃えて言った。


「でも何度も失敗したんでしょう? やめなさい、危険ですわ」

「これ以上、元気のないドロシー達を見たくない。彼女達は恩人だ」

「そうだ、そうだ。恩返ししなければ」

「ヤモッ、ヤモッ!」

「それにスコットがいないと私たちも寂しいから!」


 ヤリヤモ達は互いの顔を見合わせてふふんと笑う。


 すっかりその気になった彼女達に元気だった頃のドロシーを幻視してマリアは何とも言えない顔になる。


「だが、もし違う世界に行ってもそこに彼が居るかはわからない」

「同じ個体かどうかもわからないからな。この世界の彼の情報をサンプリングして、彼と同じ情報が存在する世界に繋げるようにしなければ」

「ヤモモー!」

「あの別種族の情報が詰まったものないー? 身体の一部とかー、体液とかー」

「身体の一部、ですか。それなら……」


 マリアはスコットの情報が詰まったサンプルを求められ、ドロシーの閉じ籠もる寝室に目をやる。


「……ふふ、これを使ってくださいませ」


 しかし少し考えてから視線を戻し、ポケットから赤い液体の詰まった小瓶を取り出した。


「むむっ、それは!」

「スコット君の血液ですわ。こっそり採取してましたの」


 マリアが取り出したのはスコットの血が容れられた小瓶。ご丁寧に採血した日付まで書かれており、ドロシー達にも内緒で彼の部屋にこっそり忍び込んで血を貰っていたようだ。


「それだけあれば十分だ!」

「ヤモーッ! ヤモーッ!」

「わーい!」

「ありがとう、マリア!」


 大喜びしながらデモスは小瓶を受け取ろうとするが、マリアは瓶を持つ手をすいっと上に避ける。そしてヤリヤモ達が目を見開いて硬直するのを愉快げに見つめ


「……大事に使ってくださいね?」


 意味深な含みを持たせてデモスの手のひらにポンと小瓶を置いた。


「ま、任せろ! 行くぞ、みんなー!」

「お帰りになる前にお嬢様に一声かけて行ってくださいませ」

「わかったー!」

「ヤモー!」

「ありがとー! がんばるー!!」

「……それと、ちゃんと帰ってきてくださいね? 貴女達はお嬢様の大切なお友達なのですから」

「「「勿論だ!」」」


 心配するマリアにヤリヤモ達は力強くサムズアップしながら答えた。


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