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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.22「あなただけがいない街」
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ゴリラがゴリラで何が悪い!

「……さて、と」


 フィッシュアンドチップスを包み紙ごとゴミ箱に捨ててスコットは鞄からガイドブックを取り出す。


「多分、この辺りには居ないだろうな……」

「誰が? アンタの新しい彼女さん?」


 ガイドブックを覗き込むキャサリンに何も言えないままスコットはページを捲る。


 この世界の彼女が居るとすればロンドンだろうという理由だけでここまで来たものの、実際に居るかなど知りようもない。

 もし居たとしても手掛かりもなしに探し回って見つかるはずもない……



(……でも、きっと何処かにいるはずだ)



 だが、この大都市に足を踏み入れてからスコットは根拠のない確信を感じていた。


「とりあえず此処に行ってみようか」

「イーリング区? こんなところに何しに行くの?」


 スコットが手を止めたのはイーリング・ロンドンのページ。

 ロンドン西部に位置する自治区で、日本人が多く住む日本人街が有名だ。ロンドンは全部で33の区に別れており、このイーリングは13番目の区になる。偶然にもそのページには日本人が経営する喫茶店の特集が組まれており、名前こそ違うが店の外観はあのビッグバードそのままであった。


「キャサリンは日本の料理を食べたことあるか?」

「んー、無いわね。美味しいの? 寿司くらいしかしらないけど……あたし生の魚は苦手だし」

「実は俺もないんだけどさ……ちょっと知り合いがやってる店とよく似たところがあったからさ。とりあえずそこに行こうか」

「……そのお店の料理はさっきのアレより美味しいの?」


 キャサリンはフィッシュアンドチップスが捨てられたゴミ箱に目をやる。


「安心しろ、料理の味は期待していいぞ」


 スコットはビッグバードの料理を思い出しながら言った。



「本日定休日だって」

「……そんなのありかよ」


 地下鉄に乗ってイーリング区アクトン・タウン駅まで移動し、意気揚々と店まで向かったスコットを出迎えたのは無慈悲な『CLOSED』の看板だった。


「……今日は何曜日だっけ?」

「水曜日ね」

「……そういや、俺の世界でも水曜日は休みだったかな」


 スコットの居た世界とシンクロしているのか、この【DINING 大鳥屋】の定休日もビッグバードと同じだった。相変わらず容赦のない神の悪戯にスコットはガックシと項垂れる。


「……店のドアを叩いたら話聞いてくれるかな」

「どんな話をする気なのよ」

「別の世界から来たスコットですけど、実は別世界の貴方達とは知り合いでして少し話を」

「笑われるか警察呼ばれてオシマイじゃないかしら」

「だよね……」

「あら、お客様ですか?」


 スコットが重い溜め息をつきながらその場を後にしようとした時、背後から誰かが声をかけた。


「……え?」

「ごめんなさい、今日はお休みなんです。また今度来てくださいね」

「ごめんなー。明日は朝からやってるから、また明日来てくれ」


 聞き覚えのある優しい女性の声と、ハキハキとした男性の声。思わず後ろを振り向くと申し訳無さそうに頭を下げる二人組の男女が立っていた。


「……あ、アトリさん?」


 そして大柄の男性が連れる美しい女性を見てスコットは思わずその名を呟いた。淡い紫の長髪を後ろで結った髪型、女神の如き美貌、白地のシャツとデニムパンツという見慣れた衣装……


 彼女の姿はあのアトリ・クロスシングそのままだったのだから。


「えっ?」

「お、アトリさんの知り合いか?」

「い、いえ……初めて会う人です」

「じゃ、じゃあまさか……そっちの人はタクロウさん?」

「アレ? 何で俺の名前まで知ってるんだ?」

「ほあああああああああっ!?」


 スコットは珍妙な叫び声を上げる。


 そんなまさかと思いながら聞いてみたがこの黒髪の男性がタクロウだとは。大柄な体格はそのままだが、黒い髪と彫りの深い顔と茶色い瞳はとてもあのタクロウと同じ人物とは思えない。


「ど、どうしたんですか、タクロウさん! 何でそんな顔に!? 前よりおっかなくなってるじゃないですか!!」

「え……そんな顔って。この顔に何か問題でもあるのかい? んん??」

「いきなりどうしたのよ、スコット! あの人達が困ってるじゃない!」

「あっ……す、すみません。つい……」


 ……と言ってもここは別世界。


 彼は名前が同じだけの別人なのだからスコットの反応は失礼にも程がある。しかしキャサリン、両親、アトリと見知った顔が続いた後に知人と同姓同名の全然知らない厳つい顔のオジサンが現れれば面食らうのも無理はないだろう。


「すみません、ちょっと……知人にそっくりだったもので」

「そ、そうなんですか」

「知人ねぇ。でも、いくら知人にそっくりだからってそんな顔とか言っちゃうのはどうかと思うよ。俺じゃなきゃ殴られてたよ?」

「す、すみません……」

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ちょっとコイツ、酷い目に遭いすぎて頭がおかしくなっちゃってて! 悪気はないと思うけど……ごめんなさい!」


 キャサリンは二人に頭を下げて謝り、スコットの手を引いて急いで店から離れる。


「もー、何考えてるのよ、スコット!」

「す、すまん。あの女の人はそのまんまだったんだけど、男の人がなんか知らないゴリラになってたからつい……」

「ついじゃないわよ! どうすんのよ、あの店もう入れそうにないわよ!? オジサン凄い顔で睨んでるし!」


 スコットが恐る恐る振り返ると店の前でタクロウが不機嫌そうな顔で此方を見つめており、とてもじゃないが話を聞いて貰えそうにない。また後日訪れても門前払いされてしまいそうだ。


「……いや、でも……いつもあんな感じだったな」


 しかしその不機嫌そうな顔は、彼の知るタクロウとそっくりだった。


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