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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
Chapter.1 「笑うあなたに幸運を」
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ちなみに紅茶の次にオススメする飲み物はMONSTERです

「車はまだか! 早く寄こせ!! 人質全員殺しちまうぞ!!」


 リンボ・シティ13番街区。

 その中心部に位置する大型銀行の窓ガラスから男が顔を出して不機嫌そうに叫ぶ。


 彼は今朝の10時、開店と同時にこの銀行に押し入った強盗犯の一人だ。顔を布のマスクで覆った男性。何処からか手に入れた小銃を乱射し、逃走用の車をしつこく要求している。


「早く車を寄越せ! とにかくデカくてスピードの出る奴だ!!」


 常識的に考えて大勢の警察官や最新装備で身を固めた特殊魔導装甲隊員の包囲網を車一つで逃げるのは不可能だ。退路は完全に絶たれているし、そもそも彼の要求通りに車を用意する理由も無い。


 しかしあの男には馬鹿げた要求を押し通せる確固たる自信があった。


「それともあれか!? お前ら、()()を見ても俺たちを何とか出来ると思ってんのか!?」


 男が叫ぶと同時に銀行の自動ドアが開き、赤黒い毛に覆われたオオカミに似た大型獣が現れる。


〈ヴルルルルルッ!〉


 体長は4m程で、血塗れの()()()()()を咥えている。

 獣は唸りながら数歩進んだ後で咥えた肉を放り投げ、肉塊は銀行の前に陣取っていたパトカーに落下する。


 その肉塊は先程、説得の為に銃を捨てて銀行に足を踏み入れた警察官だった。


「くそっ……! ハーマン!!」

「畜生……、またやられた! 畜生、畜生!!」


 パトカーをバリケード代わりにして様子を窺っていた警官達も堪らず目を逸らす。


 バリケード付近には生々しい肉片や人体の一部、そしてバラバラになった巨大な強化外骨格(スケルトン)のパーツが散乱し、軽い地獄の様相を呈していた。


 銀行が彼らに占拠されてから2時間、その間に人質を救出しようと何人もの警官や駆けつけた特殊魔導装甲隊員が乗り込んだが誰一人として生還しなかった。

 その理由があの赤黒い獣(モンスター)だ。


「いいか! これが最後だ! 車を寄こせ……じゃねぇと次に餌になるのは人質だぞ!!」


 男はその言葉を残して窓のシャッターを締めた。

 赤黒い獣も再び銀行の中に姿を消し、その様子をカメラに収めた報道陣達も混乱している。


「何だよ……何なんだよ! あの怪物は!!」


 顔中に汗を浮かべた若い警察官が声を震わせる。


 彼、リューク・グレイマンはつい最近リンボ・シティに転勤して来たばかりの新人だ。

 髪色こそ特徴的な灰色だが彼は普通の人間でまだ経験も浅く、あのような怪物(モンスター)を間近で見るのも人生初の経験だろう。


「ああいう化け物を実際に見るのは初めてか?」

「あんなのが……本当に居るなんて……」

「混乱するのも仕方ないだろうな。だが、ああいった化け物が普通にいるのがリンボ・シティだ」


 彼の上司、リンボ・シティが誇る鉄人(アイアンマン)ことアレックス警部が呟いた。


 筋肉質の体格とやや後退気味な茶色い頭髪がトレードマークの彼はリンボ・シティ中央警察署で長い間勤務しており、この手の事件にもうんざりするほど関わってきた。


「あんな化物……どうしろっていうんですか!」

「どうしろって? 頑張るしかないだろう。俺たちは警官だ、人質救出のために最善を尽くす……それだけだな」

「あんなに強そうな装備で固めた特殊部隊員でも無理だったんですよ!? 生身の俺たちじゃどうにも……」

「リューク、怖いなら逃げてもいいぞ? もう何人か逃げちまってるからな」


 リュークが後ろを振り向くと騒ぎを聞きつけてやってきた報道関係者と野次馬で人集りが出来ていた。その中には犠牲者の家族らしき者達も……


「……逃げられませんよ、こんなの」

「良いのか? 逃げるなら今だぞ」

「……警部はどうする気ですか」

「俺は()()警察官だからな、逃げられないんだ」


 警部はそう言って力なく笑い、手にした自動拳銃の残弾を確認した。


「あれ、何だ……?」


 一人の男がふと空を見上げると、こちらに向かって飛んでくる()()を見つけた。


「え、何? 空飛んでる……」

「ちょっ、こっち来てるぞ」

「おい、カメラ! 上だ! 上!」

「……お、おい。あれってまさか……!」

「ああ! ヤバい! ()()()だ、アイツが来た……!!」


 騒然とする観衆の視線を独占しながら魔法の乗り物に跨ったドロシーが警部達のすぐ近くに降り立った。


「……あ、あの警部」

「ああ、心配するな。無茶はしないさ……ちょっと話し合いに行くだけだ」

「そ、その……」

「ここは任せたぞ、リューク」

「空から、女の子が……」

「警部ごめーん、ちょっと遅れちゃったー」


 ドロシーは乗り物を元の鞄の状態に戻し、今正に銀行に突入しようとしていた警部に声をかける。


「……」

「ごめんねー、道が混んでて。途中からは急いで空を飛んで来たんだけどね」

「ちょっ……! な、何だ、君は! ここは危険で────」


 バシィィーン!


 警部は無言で振り返り、ドロシーの頭を引っ叩いた。


「はびゃっ!?」

「ちょっと遅れたじゃねぇよ! 大遅刻だよ、何してやがったんだ!!」

「ひっ……どいなぁ。いきなり頭を叩くのは警官としてどうなの? あはは、訴えるよー?」


 出合い頭に思い切り頭を叩かれたというのに、ドロシーは特に怒る様子を見せない。


 それどころか警部を見上げ、『あはは』と可愛らしく笑ってみせた。


ただしMONSTERと紅茶は混ぜてはいけません。美味しいのは一口目だけです。

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