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「おのれえええっ!」
黒フードの一人が倒された仲間の死体から魔法杖を取り上げ、攻撃魔法を連射する。
「うおおおっ!? あっぶねーなぁ!」
「この異世界人共が、殺してやるっ!」
「はっ、殺せるもんならな!」
「舐めるなああああっ!」
激昂した黒フードは両手の杖に魔力を込める。杖先に青白い魔法陣が発生し、男の周囲にバチバチと青い稲妻が走る。
「おおっ!? これは……やべえかなっ!?」
アルマは危険を察知したのか、耳を逆立てて距離を取る。
「逃がすかぁっ!」
黒フードは逃げるアルマに狙いを定め、極大の雷魔法を放たんとする……
「────夢幻剣」
男が魔法を放つ直前。ブリジットは刃に手を添えてまるで弓を構えるような姿勢で剣を引き、意識を剣先に集中させる。
「穿光矢」
そして魔法が発射されるのと同時に剣を突き出し、剣先から一筋の閃光が放たれる。
光は極大の雷を霧散させながら直進し、瞬きをする暇も与えずに黒フードを貫く。
「……なっ、に?」
男は何が起きたのか理解できないまま絶命。アルマ達の迎撃に出た者達は全滅し、周囲の殺気が消えたのを確認してからブリジットは剣を納めた。
「ふん、それなりに魔法の心得はあったようだが相手が悪かったな」
「あ、こいつ結構イケメンだな。勿体ねー」
「む?」
「ああっ、こいつめちゃくちゃイケメンじゃん! あー、やっちまった!」
アルマは倒した黒フード達の素顔を確認して残念がる。
「こんなに泣いて可哀想にー! だからこんなダサいフード取れって言ったのにー! イケメンだとわかってたら手加減してやったんだぞー!?」
「何をしている、黒兎」
「んー? 見りゃわかんだろ。忘れる前に顔を確かめてんだ。せっかく殺したんだから顔くらい覚えてやらないとなー」
「悪趣味な女だ。ルナ様の双子とは思えんな」
「あーん? 何だってぇ!?」
コンプレックスを刺激され、アルマは青筋を立ててブリジットに突っかかる。
「ルナと双子で悪いか、ああーん!? 言っておくがルナも結構ヤバい女だからな!?」
「そうか、それは知らなかった。私にはどうでもいい話だが」
「はぁぁあん!?」
「ルナ様は尊敬に値するお方だが、黒兎は違うからな。あの方に黒兎と似たような部分があったとしても私はあの方を敬うが、黒兎にあの方と似たものがあっても尊敬の念は浮かばない」
「おまっ、ちょっ……マジで……しぬ? ここで死んどく? 今すぐにでもその乳を三枚おろしにしてやんぞ、この無能牛乳女ァ! 何時までも死んだ男の背中ばっか追いかけてる未練たらしい根暗が舐めた事言ってんじゃねーぞ!?」
「……聞き捨てならんな」
敵地のど真ん中だというのに二人の口論は激化し、ついにブリジットは剣に手をつける。
「その言葉、領主様へ捧ぐ忠誠への侮辱と判断していいな!?」
「何が忠誠だ、バーカ! 死んでようやくノロマな牛女から開放されたのに未だに追いかけられる男が不憫で仕方ねえわ!」
「 斬 る ! 」
「 上 等 ! 」
ブリジットが剣を抜いたのと同時にアルマは小刀を構えて飛びかかる。
「むっ!」
「遅えぞ、ノロマ!」
アルマは一切躊躇せずに小刀を振るう。
首筋を狙った斬撃を剣で防ぎ、ブリジットはアルマと鍔迫合う。
「ご自慢の 淫なんとかエロスパゲティー もこれじゃ使えねえなあっ!」
「……ぬうっ!」
「このまま首ぃ、落としてやるぅーっ!」
小柄ながらアルマの力はブリジットを上回り、徐々に黒い刃がブリジットの首筋に迫る。
「舐めるな、黒兎っ! 夢幻剣!」
「おおっとぉーっ! させねぇよぉーっ!」
アルマは鍔迫り合いの状態でも技を発動しようとしたブリジットの胸ぐらを掴み、そのまま片手で彼女を投げ倒す。
「ぬわあっ!?」
「はっはぁー! いただきぃーっ!」
完全にキレていたアルマは憎き爆乳に本気で小刀を突き刺そうとする。
「貴様如きにっ!」
が、ブリジットは無防備になったアルマの横腹に蹴りを入れる。ブリジットの反撃で狙いが大きく逸れたアルマの小刀は彼女の肩を掠って床に突き立てられた。
「いってぇ! やりやがったな、コラァー!」
「こちらの台詞だ、黒兎ぃ!」
ブリジットは剣を拾って素早く起き上がり、アルマも小刀を構え直す。
「どうした、来いよぉ! 牛女はここでおしまいだ! ドリーちゃんにはイケメンの顔に油断して情けなく殺られたって伝えておいてやるよ!」
「そうか、ならば私は正直に伝えよう。黒兎が正気を失って襲いかかってきたので成敗してやったとな!」
「うるせぇ! ぶっ転がれぇぇぇーっ!」
「転がるのは、お前だぁぁー!」
ブリジットとアルマが同時に刃を振るった瞬間、二人の足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「なぁっ!?」
「ぬわあっ!?」
魔法陣から赤黒い鎖が出現して二人を拘束、その動きを完全に封じる。
「な、ななっ! 何だ、こりゃあっ!?」
「ほ、解けんっ! それに力が抜けて……こ、この鎖はっ!?」
「……吸魔の縛鎖。その鎖に巻かれれば最後、お前たちはもう身動き一つ出来ん」
「き、貴様はっ!?」
上階へと繋がる階段から黒フードのリーダーらしき男が杖を構えて現れる。
「異世界人に名乗る名前などあると思うか?」
ゴミを見るような視線を二人に向けて、男は吐き捨てるように言った。
油断して捕まるのも強者の特権! 油断しない強者など強者ではないのだ!!