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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.21「ウサギはウシに追いつけない」
494/542

6

「アーサー、そのままバックし続けなさい」

「かしこまりました」


 老執事が巧みなハンドル捌きで光弾を回避しながらバック走行を続ける中、ドロシーは杖を構えて助手席に移動する。


「う、うわわわっ!?」


 ビルは助手席に移るドロシーの下着を特等席で見てしまい、顔を赤くしながら目を逸らす。


「み、見てませんよ!? 見てませんから!」

「ん、何がー?」

「社長の下着でしょ。ちなみに俺も見てませんからね」

「やだー、二人のえっちー」

「「見てないですって!!」」


 後部座席の二人の反応を楽しみながらドロシーはサイドガラスから身を乗り出して前方に杖を向ける。


「人の多い街中で爆発魔法なんてナンセンスな事しないの」


 老執事の激しい運転に身体を揺らされながらもドロシーはクスリと笑って挨拶代わりに魔法を一発。


 放たれた魔法は爆煙を突き抜け、黒フードの一人に命中。額を撃ち抜かれた男はそのまま崩れ落ちる。


「人を黙らせるのに大技を使う必要はないわ」


 ドロシーは続けて二発、三発、四発と連射。放たれた魔法は黒フードの連中の頭に命中し、次々と無力化していく。


「軽めの魔法を一発、一発。殺意を込めて急所を狙えばいいのよ。簡単でしょう?」


 爆煙と破片で視界を遮られながらもドロシーの魔法は正確に標的を撃ち抜く。相変わらずの腕前を見せる彼女にスコットも息を飲んだ。


「まー、『派手だろう』『強いだろう』『カッコイイだろう』を追及したい子供心もわかるけどね。そういうのはもっと大きな相手に使いなさい」

「お見事です、社長」

「聞こえてないだろうけどね」


 ドロシーは車内に戻り、ふーっと悩ましい溜息を吐く。


「全滅はさせてないわ。混乱している内に車の向きを変えて奴らを撒きなさい」

「かしこまりました」

「何で全滅させなかったんですか? 社長」

「スコット君も見せ場が欲しいでしょ? せっかくのお仕事なんだから」


 クスクスと笑ってドロシーは言う。老執事も微笑みながら車の向きを変え、スピードを維持したまま角を曲がる。


「……いや、別にそういう訳じゃ」

「冗談よ。全滅させたらお話が聞けないし、相手の狙いもわからないからね」

「……」

「ビル君はどうしてあんなのに狙われてるの? 心当たりはある?」

「いえ、全然!」


 ビルは即答した。


「うーん、それじゃどうして攻撃してくるのかしら」

「単純に目障りだったから撃ってきたんじゃないですかね」

「それなら話が早いんだけどねー」


 ドンッ。


 走行中の車の天井に何かが着地する。


「うわわっ!?」

「あれ、何かな?」

「さぁ、鳥ですかな? 少々お待ちください」

「只今戻りましたわ」

「ひいいっ!?」


 老執事が確かめようとすると後部座席の窓からマリアが顔を出す。いきなり窓の外から美女が覗き込んで来てビルは思わず悲鳴を上げた。


「おかえり、マリア。どうだった?」

「首尾よく行きましたわ。アル様達は彼らの根城らしき建物の外に置いてきました」

「エクセレントよ、マリア。よく見つけたわね」

「うふふ、お役に立てて光栄です」


 マリアを屋根に乗せたまま黒塗りの高級車はスピードを上げ、わざと大回りしながら再びビルのアパートへと向かった。



「うぐぅ……! ど、何処だ、ここは!?」

「この……いい加減に退けよ、牛女! 重いんだよ!!」


 ブリジットとアルマは組んず解れつの状態でボロマンションの前に放り出されていた。


「ぬあああーっ、この馬鹿乳がぁ! いちいち揺れんなぁー! 目障りだぁぁぁーっ!!」

「ぬおっ! 何をする!?」

「うるせー! さっさと退かねえからだ、牛女!!」


 上に乗っかって目と鼻の先で不愉快な駄肉を揺らすブリジットを乱暴に押し退け、アルマは不機嫌そうに立ち上がる。


「あーもー『後はお任せします』ってどういう意味だぁ!? こんなボロいマンションに何があるってんだよ!」

「ふん……この建物に依頼人を悩ませる不届き者が屯しているのだろう。お任せしますとはそういう意味だ」

「ああん!?」

「もっともこの場を任されたのは私であって黒兎ではない。もう帰ってもいいぞ」

「あああああん!?」


 ブリジットの発言が更にアルマの機嫌を損ねる。


「ノロマな牛女だけじゃ頼りねーからあたしをここに置いていったんだろ! それぐらいわかれよ、乳性単細胞!」

「それは無いと断言出来るな。むしろ私は黒兎の方が心配だ」

「かーっ! 一々、ムカつく女だ! もう我慢できねえ、その乳もいで……」


 アルマがブリジットの胸に手を伸ばそうとした瞬間、感じたのはナイフのように鋭い殺気。


「むっ!」

「ちぃっ!」


 同じく殺気を感じ取ったブリジットも素早く後ろに跳ぶ。先程まで二人が立っていた場所には青い光弾が着弾し、ボコンと大きな穴を穿った。


「上かぁっ!」


 アルマは足元に転がってきた破片を拾い上げ、数本の黒い投げナイフを生み出して投擲。ナイフは3階の窓から此方を狙っていた数人の魔法使いに突き刺さった。


「はっ、このアルマさんを狙うとはいい度胸だ! ひぃひぃ泣かせてやるから覚悟しろよぉーっ!」

「奴らが狙っていたのは私だ。わざわざ小さく狙いにくい的を選ぶ理由がない」

「はぁぁぁぁぁん!?」

「では、私は奴らを成敗してくる。ついて来ても構わないが……足は引っ張るなよ」


 ブリジットは自慢の剣を抜き放ち、黒フードの魔法使い集団の根城であるボロマンションに突撃。


「こっ、このっ……! マジで後で泣かす! 絶対に泣かしてやるぅううーっ!!」


 怒髪天を衝く勢いで黒い耳をいきり立たせ、アルマもブリジットの後を追うように建物へと乗り込んだ。


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