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私も怖くて綺麗なお姉さんに囲まれて震え上がりたいものです。
「そうね、この依頼は6000L$で受けましょう」
ドロシーはビルの目を見ながら報酬額を提示する。
「ろ、ろろ、6000L$ですか!?」
「そう、6000L$。一括後払いでね」
「そ、そんなお金……」
「払えないなら他を当たりなさい」
「ううっ……!」
ドロシーの提示した額にビルは涙ぐむが、自分を囲む社員達に気圧されてノーと言い出せない。
「わ、わかりました……! その代わり、ちゃんと解決してくれるんですよね!?」
「任せなさい、君の依頼は責任をもって完遂するわ。君の安全も保証するし、君を悩ませる悪い子にもちゃんとお仕置きしてあげる」
「え、あっ!?」
「このドロシー・バーキンスに任せなさい?」
震えるビルの手をギュッと握ってドロシーは優しく微笑んだ。
「……今日の社長はやけに乗り気ですね」
「余程あの依頼人の見た目が気に入ったんだろうね」
「ですねぇ、お嬢様はああいうお姿の子に弱いので」
「ふふふ、聞こえてるよ? 今の僕は真剣だからあまり茶化さないでね。それじゃあ皆、仕事の時間よ」
社員の小言を聞き逃さずにドロシーは彼らに釘を刺し、パンパンと手を鳴らす。
「今日は行方不明になった子の捜索と、怪しい人影と声の主の始末で二手に別れて頂戴。スコット君はマリアと人探しね」
「えっ、俺がですか!?」
「うふふ、かしこまりましたわ」
マリアとコンビを組まされると聞いてスコットは露骨に嫌がる。
「怪しい奴らの成敗はブリジットに任せるわ。手掛かりが少なすぎるからまずはビル君と一緒に現場に向かって。僕も一緒に行くわ。アーサー、車を用意して」
「かしこまりました、社長」
「了解しました、マスター」
久しぶりに社長から仕事を任されてブリジットは目を輝かせる。
「ルナとニック君はこの家で待機よ。メリーをよろしくね」
「……」
「ふふふ、任せなさい」
ルナと留守番を任されたニックは切なげな瞳でドロシーを見るが、彼女はニコッと笑ってスルー。
「それじゃ、皆すぐに準備して」
「あー、サッパリしたー! どーよ、ドリーちゃん! 湯上がりホカホカのアルマねーちゃんだぞー! いい匂いするぞー!」
社長らしくビシッと決めようとしたドロシーに風呂上がりのアルマがベタっと抱き着く。
「アルマ先生ー? これから仕事だからふざけないでー?」
「んー、ドリーちゃんかわかわー」
「相変わらずだらしないな、黒兎。同じ仕事に就く者として悲しくなるぞ」
「あぁん? 何だってぇ!? だらしないって言葉に無駄乳がひっついてるような残念牛女がよく言えんな、コラー!?」
「聞き捨てならんな、黒兎。私の何処がだらしないというのだ。騎士である私はだらしないとは対局に位置する誇り高い女だ」
「二人ともやめてー? 怒るよー?」
「どこに誇りが残ってんだ、バカ乳女。寝言は寝て言え」
「……言ったな、黒兎。その言葉、私への侮辱と判断する!」
顔を合わせれば口喧嘩。何処までもウマの合わないブリジットとアルマを諌めるが、二人は聞く耳持たずに睨み合う。
「ねぇ、二人共ー?」
「はぁん、やんのかコラー! 来いや、テメーみたいなノロマなデブに武器なんていらねえ! 素手で十分だ!」
「ふん、安心しろ。私もウサギ如きにこの剣を抜くつもり無い!」
「マリア」
「はい、お嬢様」
「むおっ!?」
「ぐわあっ!?」
マリアはすぐに影を伸ばして二人を拘束し、ビタンと床に叩きつける。
「むもももーっ!」
「んおおーっ!」
「あー、ごめんねビル君。こう見えてこの子達はちゃんと力になってくれるから」
「……は、はぁ……」
「マリア、二人はこのまま影に沈めて運んで」
「うふふ、かしこまりました」
「むもーっ!」
「んんおーっ!」
黒いミノムシと化した問題児二人は水中に沈むようにとぷんと床の影の中に飲み込まれ、伸びた影もするするとマリアの足元に戻る。
「え、何今の!? 何今の!?」
「気にしないでー、ただの手品だから。アーサー、車よ」
「はい、今すぐに」
「て、手品!?」
「そう、手品よー」
ドロシーは席を立ち、マリアの異能力に怯えるビルの頭をポンと叩く。
「マリア、杖を用意して。エンフィールドⅢを二丁と、今日はライフル杖も持っていくわ」
「うふふ、長物の銘柄は何に致しますか?」
「ウェストリーリチャーズのモンキーテイルMR騎兵杖。予備の術包杖も多めに用意してね」
「禁術指定は如何致しますか?」
「そうね、それも持っていくわ」
「かしこまりました、お嬢様」
アーサーを追うようにマリアもいそいそと準備に取り掛かる。
「えーと……社長、俺は」
「スコット君は玄関で待ってて」
「えっ、アッハイ」
一人だけ手持ち無沙汰で棒立ちしているスコットを先に玄関に向かわせ、ドロシーはふふんと鼻を鳴らす。
「じゃあ、行くわよビル君。問題の場所まで案内してもらうわ」
「アッハイ……」
「怖がらなくてもいいのよ、ちゃんと僕達が守ってあげるから」
ドロシーはビルの手を取り、彼を安心させるようにニッコリと笑うが
(……やっぱりこんな所来るんじゃなかった……)
当のビルは完全に怯えきっており、ドロシーを訪ねた事を心の底から後悔していた。