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白兎はファミリーにて最強!
「……どういう、ことだ……」
スコットは頭を抱えていた。
「いやいや、おかしいだろ。ちゃんと俺は言ったよね? お願いしたよね? 寝る前に土下座して床に頭を擦り付けながら『今夜は一人にしてください』ってお願いしたよねぇ!」
小鳥のさえずる心地よい朝7時。暖かな朝日に照らされながらスコットは叫んだ。
「なんで寝てんだよっ!?」
自分の隣でルナが幸せそうに寝息を立てているからだ。
「いや、まだ社長ならわかるよ! 社長ならっ!」
「……んっ」
「なんでルナさんなんだよ!?」
正直に告白すると最初から一人で寝れるとは思っていなかった。当然だ。今までそう言って一人で寝れた事などありはしなかったのだから。
……だが、夜を共にしたのはまさかのルナ。ドロシーの母親の麗しの未亡人が、娘の想い人と裸で同衾。流石に叫びたくもなる。
「あー、やってらんねーぇ! もう限界だ! 今日こそ新しい部屋見つけてぇー!」
「ふふっ……おはよう。スコット君」
「ひょぅぁあああっ!?」
「よく眠れたかしら?」
スコットの声で目が覚めたルナが微笑みながら彼に抱き着く。
「ル、ルナさん!? ちょっとくっつかないでくださいよ! 誤解されるから!」
「もう少しだけいいでしょう? 貴方の身体は落ち着くの」
「はいいいっ!?」
「貴方とは相性が良いから」
ドロシーそっくりな甘えたそうな顔でそんな事を言われ、スコットは顔を真っ赤にする。
(ま、まずい! これはまずい! このままじゃ……!!)
このままでは喰われる! と彼が己の危険を悟ったのと同時にベストタイミングで開かれるドア。
「はーい、おはよー! 良い夢見れたかな、スコッツくーん!」
「ありがとうございます、社長────ッ!」
九死に一生を得たスコットは泣きながらドロシーの参上を泣きながら喜んだ。
「ふふっ、おはよう。ドリー」
「おはよう、ルナ。ところでどうかしたの、スコッツくん?」
「言いたいことは沢山ありますけど、とりあえずありがとうございます!」
「僕に会えたのがそんなに嬉しいの?」
「嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいです! それはそれとして言いたいことがありますけどね!!」
スコットはさっとルナから離れ、速歩きでドロシーの所まで歩く。
「どうしてルナさんが俺と一緒に寝てるんですか、社長ーっ!?」
「えー、だってルナが君と寝たいっていうからー」
スコットの訴えにドロシーは涼しい顔で即答。
「許しちゃ駄目でしょぉー!? あの人は社長のお母さんですよぉー!?」
「これからは君のお母さんでもあるのよ」
「待って!? 会話が成り立ってないですよ!? 俺のお母さんってどういうこと!? 質問してるそばから新しい疑問を生み出していくのはやめてくれませんん!!?」
「だって君は僕のパートナーだし。ルナがお義母様になるのは必然でしょう?」
「いやいや、いやいやいやいや! そうであってもですねぇ!」
「もー、素直になれない人ねー」
ドロシーは動転するスコットの顔をガシッと掴み、その唇を強引に奪う。
「……ぽあっ?」
「んっ……僕と一緒が良かったなら最初からそう言えばいいのに。余計なこと言うからよ?」
小悪魔的な笑みを浮かべながら、ドロシーはペロリと口元を舐める。
「え、いや……そういう意味では……」
「それに光栄に思いなさい。ルナが男と二人で寝たいって言うのは相当気に入られた証拠だからね。若い頃のアーサーやジェイムス君以来の快挙よ?」
「……社長はいいんですか、それ。つまり俺はあの人に」
「いいのよ、それにこれでよくわかったから」
ルナの方をちらりと見た後にドロシーはスコットから手を離し、くるりと背中を向ける。
「やっぱり僕が一緒に寝ないと落ち着けないでしょう? 僕が一番君と相性が良いんだから」
そっと唇に指を当て、ドロシーはルナにそっくりな妖しい笑顔で言った。
「アーサー、スコッツ君とルナが起きたわ。朝食を用意して」
「かしこまりました」
「あー……えーと……」
「ふふふ、またあなた好みの素敵なレディになったでしょう?」
「ほぅあっ!?」
呆気にとられるスコットの後ろから手を回して抱き着きながら、耳元でルナが囁く。
「ちょっ、ルナさん!? いい加減にしてくださいよ! 心臓が止まるじゃないですか!」
「ふふっ、ごめんなさい」
「……ていうか、本当にこれからはやめてくださいよ?」
「わかっているわ。貴方はドリーのお相手だもの。横取りしたりしませんとも」
意味深に笑いながらルナはスコットを放し、彼の隣にゆっくりと移動する。
「……あの、そろそろ服を」
「安心しなさい、着ているわ」
「えっ! あっ……すみません!」
いつの間に着替えを済ませていたのかと首をかしげたが、深く考えないことにした。
「ま、まぁ、気をつけてくれるなら良いんです。社長のお相手呼ばわりされるのは抵抗ありますけど」
「ええ、気をつけるわ。ドリーを怒らせたくないもの……でも」
しかし、ここで油断したのがいけなかった。ルナはドロシーに続いてスコットの唇を奪う。
「ふふふっ」
「……ほあっ?」
「貴方も気をつけなさい? これ以上、私を虜にしないように」
「えっ、えっ!? はあっ!?」
「貴方と私は相性が良いんだから……ドリーに負けないくらいね」
そう言ってルナも部屋を出る。
「……はい?」
一人部屋に残されたスコットは口元に残る感触に触れながら呆然と立ち尽くす。
「え、えーっ……えーっ!?」
「うふふふっ、やってしまいましたわねぇ。スコット君?」
「うぉあっ!? マ、マリアさん!?」
「その気になった奥様は怖いですわよぉ? うふふっ、うふふふっ」
いつの間にかスコットの隣に立っていたマリアが意地悪そうに笑う。
「その気って何ですか!? 俺は彼女に何もしてませんよ! してませんよね!?」
「さぁー、どうでしょう? 何もしなかったら奥様は貴方にあんなことは言わないんじゃないかしら?」
「あの人は社長の母親ですよ!?」
「母親である前に、あの方は女ですわよ?」
「嘘だぁぁぁぁ────ッ!」
今日もウォルターズ・ストレンジハウスにスコット青年の悲痛な叫びが木霊する。
昨晩、ルナとの間に何があったのか。それを知る術は彼には無い……
「うふふっ」
「何か今日のルナはすげー上機嫌だなー、良いことでもあったのか?」
「ええ、アルマ。とても良い夢が見れたわ」
ただ、白兎の満足げな笑みだけが全てを物語っていた。
chapter.20「汝の愛を選び、汝の選びを愛せよ」 end....