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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.20「汝の愛を選び、汝の選びを愛せよ」
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21

愛 が 重 い

「……はい、わかりました。一先ず本部に戻ってください」


 場所は変わって賢者室。サチコは落ち着きのない様子で大賢者に報告する。


「……対滅の果樹が駆除されたそうです。その……スコット・オーランドに」

「……」

「……すぐに調査班を派遣して現場を詳しく調べさせます。ジェイムス氏にも詳しい話を聞いて、それから……」


 大賢者は無言で目頭を押さえた。


「……目眩がするわ」

「だ、大丈夫ですか?」

「ふふふ、対滅の果樹よ? 攻撃のエネルギーを取り込んで成長する接触禁忌生物種……過去にあの植物のせいでどれだけの被害を被ったと思ってるの。それを、駆除したですって?」


 同じくSクラス接触禁忌生物種のヒュプノシアほど理不尽な相手ではないにせよ、どちらも世界を滅ぼしかねない力を持った存在だ。

 対滅の果樹は過去にも数度出現し、その度に大きな被害を齎した。此方には駆除する手段が存在せず、現れても何も出来ずに消え去るのを待つしか無かったのだ……


「やはり彼は危険すぎるわ」


 それを倒せる程の力を持つ青年、スコット・オーランド。


 ただでさえ要警戒対象とされていた彼の脅威度はこの一件で更に高まった。


「現時刻を以てスコット・オーランドをSクラス特異能力者に指定。彼に敵意があろうと無かろうと関係ないわ。彼を最大脅威対象として登録しなさい」

「……わかりました」

「ジェイムス・K・アグリッパの他にも監視役を増員……いえ、掃除屋(クリーナー)にも連絡を入れなさい。もう一度、彼の情報を集められるだけ集めて。彼の親族も含め、彼に関係する情報全てよ」

「わかりました、大賢者様」


 ジリリリリン、ジリリリリンッ


 賢者室の固定電話が鳴り響く。


サチコは口元を僅かに引き攣らせながら受話器を取る。


「……はい……はい。少々、お待ち下さい……」

「サチコ、誰から?」


 サチコは何も言わずにそっと受話器を大賢者に渡した。


「……もしもし」

『聞いてよ、ロザリー叔母様! スコッツ君がまた凄いことしちゃったのよ!!』


 受話器から聞こえてくるドロシーの嬉しそうな声が大賢者の精神を更に摩耗させた。


「……」

『あのオバケ植物を物理攻撃でやっつけちゃったのよ! 凄くない!? ノーベル物理学賞と超物理学賞に空間学賞のトリプル受賞間違いなしの偉業よ! あははっ! やっぱり僕の目に狂いは無かったわ!』

「……そう」

『彼は最高よ!!』


 延々とお惚気を聞かされる大賢者を見ていられずにサチコは目を逸らす。


 大賢者からは既に感情が消失し、可愛いドロシーの言葉も殆ど耳に入らない状態まで追い詰められていた。


「……そう、そう……凄いわね。良かったわね」

『本当に凄いよー! それで、叔母様に聞きたい事があるんだけど』

「……何かしら」

『スコット君の脅威度、Sクラスに上がってたりしないよね?』


 ドロシーの声色が急に変わり、ここからが本題と言わんばかりの真面目な口調で言った。


「勿論、上げたわ。当然でしょう?」

『どうしてというのは野暮かな?』

「野暮ね。彼の力は人が持つには危険過ぎる。既に野放しにしておける領域ではないわ」

『そこまでじゃないでしょう? たかが魔法や物理攻撃が効かない相手にも有効打を与えられる程度じゃない。この街の皆に迷惑をかけるほどじゃないよ』

「そういう問題じゃないわ。与える被害の大きさじゃなく、問題なのは潜在的な脅威度の方よ。もし何かの拍子で彼が暴走したら誰が止めるの? あの力がそのまま貴女や世界の脅威になるのよ?」

『そうならないから言っているのよ』


 ドロシーは自信に満ちた声で言った。



「僕は叔母様と違って能力だけで男を判断しないよ。ちゃんと目を見て人となりを確かめてから判断するタイプなの」


 高層マンションから管理局総本部を眺めながらドロシーは話を続ける。


「彼はその力を僕や世界に向けるような男じゃないわ。ましてや力があるってだけで調子に乗ったり、弱いものいじめするような男でもね。そんなのに僕が惚れるわけないし、この街で一ヶ月も生きられる筈もないじゃない」

『……その根拠は?』

「もしそうなら出会った瞬間に僕が殺すからよ」


 ガラスにそっと手を触れてふふんと挑発的に笑う。


「僕が見逃してもアルマが殺すし、ブリジットが殺すし、アーサーが殺すし、マリアなら殺すより酷い目に遭わせる。もし彼が()()()()()()()()()()()()()()()()()ならね」

『……』

「彼が信じられないなら、可愛い僕を信じて? ロザリー叔母様」


 ドロシーは可愛らしい顔からは想像も出来ないような恐ろしい台詞を吐く。スコットに向けられるあまりにも重い愛情に大賢者も沈黙した。


「心配はいらないわ。それでも1000歩譲って叔母様の期待通りの展開になるなら……」


 窓にはーっと息を吹きかけ、指先で大きなハートマークを描く。


「その時は喜んで彼を殺して、その後に僕も笑って死ぬわ。僕が死ねばインレは目的を達成できないし、もう叔母様が悩む必要もない。後始末に苦労することになるかもしれないけど……世界は救われるわ」


 そしてハートを象った窓からルナに介抱されるスコットを指差し、ぱぁんと可愛らしく見えない愛の言弾を放つ。


「それが前のドロシーに彼を託された僕のケジメよ、ロザリー叔母様」


 ドロシーはそう言って通話を切った。



「……はぁ」


 大賢者は重いため息を吐いて受話器を机に置く。


「だ、大賢者様……」

「……スコット・オーランドの脅威度は現状維持。Sクラスへの昇格も一時取り消して」

「……」

「あくまで、一時的にね」


 冷めた紅茶に一口つけ、怒っているとも呆れているともつかない複雑な表情で窓を見る。


「……本当に、誰に似たのかしらね」


 大賢者は窓から見える大きな穴あきチーズ(高層マンション)を見つめ、小さな声で呟いた。


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