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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.20「汝の愛を選び、汝の選びを愛せよ」
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16

触れたら即死? そいつは素敵だ、大好きだ。

「……絢香っ!」


 高層マンション近くのビルで様子を見ていた小夜子が心配のあまり飛び出す。


「あんなものをどうやって手に入れたの……!?」


 彼女達に与えられた仕事は危険因子であるカルト集団【ヒューマンズ・プライド】の排除だ。


 純人類至上主義を掲げ、異人(ワンダー)は愚か異能力者まで目の敵にして弾圧する過激派組織。

 『魔法使いに純人類種の気持ちが分かるはずがない』『異能力者が人間世界の治安維持を担うなど以ての外』という理由で異常管理局すらも攻撃対象にしている。


 一桁区を中心に勢力を拡大してきており、異人と友好的な関係を築いている無能力者にも危害を加えるようになった為、ついに掃除屋(クリーナー)の処理対象となった。


「……もっと早く掃除しておくべきでしたね。ああいうのは出てきた瞬間に叩かないと、病気みたいに蔓延るんだから。管理局の人は人間様に期待しすぎです」


 小夜子は対応の遅れた異常管理局に小声で愚痴を言う。


 この街の暗部を散々見てきた彼女は人種に関係なく人間の汚い部分を目の当たりにしており、危うくなってから対処するという管理局の姿勢に不満を感じていた。


「……駄目よ、小夜子。感情的にならないで。早く絢香を助けないと」



 ────コォォォンッ!



 小夜子のすぐ側に金色の果実が落下。足元の地面を消し飛ばされて彼女は足場を失う。


「ッッ!」


 武器の刀を抜いて前方に突き刺し、間一髪で落下を免れる。


「全く、こんなものを使って何がしたかったのかしら!」


 突き刺した刀を踏み台にして小夜子は飛び上がり、急いでマンションへと向かう。


「うおおーい! 何してる、早くそこから離れろ! 死ぬぞーっ!!」


 そんな小夜子に誰かが声をかけるが、彼女は無視してマンションの中に入った。



「あー、くそぉ! 何考えてるんだ、アイツは!!」


 相手が小夜子とは知らずに心配して声をかけたジェイムスは苛立ちながら頭を搔く。


「あの中に入っていきましたよ!?」

「もう知らん! あの中に入った以上は自己責任だ!!」


 ジェイムスは黒い樹木の苗床と化したマンションに背を向けて歩き出す。


「ジェ、ジェイムスさん!? どこへ行くんですか!?」

「本部に戻る! もう俺に出来ることはないからな!」

「そんなっ! まだ人が残ってますよ!?」

「言っただろ、どうしようもないんだよ! どうにかなるなら背中なんて向けるか!?」


 スコットは完全にあのマンションを切り捨てる気でいるジェイムスに落胆したような視線を向ける。


「……」

「スコットも本部に戻れ! ドロシーを待ってるんだろ!? そいつを連れて帰るんだ!」


 ふと黄金の果実が消滅させた地点を見る。


 まるで最初からその場所には何も無かったかのように綺麗に削り取られており、もしもあの果物に触れると死んだことにも気づかず消え去るだろう。



(おいおい、俺は何を考えてるんだ?)



 スコットの顔に無意識の内に笑みが浮かぶ。


「……おい、スコット?」

「あ、すみません。ちょっと用事があるので先に戻っててください!」

「は? 用事って……君はドロシー達の付き添いで」

「いやいや、本当にすぐ終わりますから! 気にしないでください!」


 ジェイムスは妙に嬉しげなスコットに嫌な予感を覚える。


「……すぐに終わるのか?」

「はい! わざわざ社長に知らせなくても大丈夫です! マジで一瞬ですから!」

「そ、そうか。それじゃあな」


 そしてジェイムスが後ろを向いた瞬間、スコットは勢いよくマンションの方向に走り出す。



(はっ、俺は何を考えてるんだ? あれに触れたらヤバいんだぞ?)



 あのマンションに取り残された人達を助けに向かった訳では無い。



(きっと、触れた瞬間にあの世行きなんだろうな。死体も残らないだろ)


(……)



 消滅の危機に瀕してもマンションに向かった小夜子に感化された訳でもない。



(……やっぱり馬鹿だな、俺は)



 願ってもみなかった最大のチャンスが訪れたから動き出しただけだ。


「おい、スコット! 念の為に、言っておくがあの木をぶん殴ろうとか思うなよぉぉぉぉ────っ!?」


 嫌な予感が拭えずにスコットの方を振り向いたジェイムスは絶叫した。


 あれだけ触れるなと言った金色の果実に向かって……



「こんなのに触れるだけで死ねるなら!」



 嬉しそうに笑いながら手を伸ばすバカの姿が見えたからだ。


「苦労はしないってのになぁぁーっ!」


 彼はドロシーに惹かれていた。それは決して嘘ではない。


 だが、それだけの理由で彼女(キャサリン)の居ない世界を好きになるほど強くはない。


 これに触れる事で彼女に会えるなら、そうしない理由などない。


「もしこれで俺が死ねたら……笑ってくれよ、キャサリンッ!」


 心の中でそうなる事を願いながらも、スコットは悪魔の腕を呼び出して落下してきた金色の果実を掴んだ。



 ────ポンッ



 何とも、間の抜けた音を立てて金色の果実は悪魔の拳の中で消滅した。


「はっ……はははははは! やっぱりなああああああーっ!!」


 スコットは死ぬつもりで手を伸ばした。全てを消し去る金色の果実に。


 それなのに、それなのに。


「悪ぃ、キャサリン! やっっぱ俺、死ねねぇわ! ははははっ! クソがあああああーっ!!」


 彼は今日も死ねなかった。


 やはり自分は神様に嫌われているのだと、彼はまた思い知らされた。


「あはははははははあああああーっ!!」


 スコットは狂ったように笑いながら悪魔の腕を振り回し、落ちてくる金色の果実を掴み取ろうとする。


 ────ポン、ボボポポポポンッ!


 しかし、果物は掴めない。彼を嘲笑うかのように滑稽な音を立てて消え去っていく。


「……はぁ、知ってたよ。知ってましたとも」


 スコットは最後に落ちてきた果実を自らの手で掴もうとしたが、触れる瞬間に悪魔の腕が払い除けた。


「あーあ……わかりましたよ。もう少し、もう少しだけ苦しんでやりますよ。畜生め」


 悲しんでいるとも、安堵しているとも取れない複雑な笑みを浮かべながら、スコットは黒い樹木を見上げた。


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