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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.20「汝の愛を選び、汝の選びを愛せよ」
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14

やってまいりました、本日の世界の危機。

「……準備は万全か?」

「ああ、問題ない。手筈通りだ」


 異常管理局総本部に程近いマンションの一室。カーテンで明かりが遮断された室内で数人の男達が怪しく目を光らせる。


「これがあればあの忌々しい異常管理局も跡形もなく消え去るだろう」

「ようやくあの目障りな建物が綺麗さっぱり消え失せる……何と素晴らしい」

「心が踊るな」


 男達は謎の液体で満たされた容器に浮かぶ【金色の種】を眺めながらほくそ笑む。


「奴らに勘づかれていないだろうな?」

「もしバレているなら俺たちはとっくに消されている。今日まで無事ということは怪しまれてすらいないという事だ」

「バレたとしても……この部屋には俺たち以外誰も入れないがな」


 バァーン!


 突然、部屋のドアが大きな音を立てて吹き飛ぶ。幾重もの防御結界が施された鉄壁の城門が男達の目と鼻の先を掠めて壁に突き刺さった。


「はっ……!?」


 呆気に取られる男達の前に黒いロングコートを目深く着込んだ少女が現れる……


「な、何だ、お前は!? どうやってあの結界を……!?」

「……闇に紛れて、闇を討ち」

「なっ……!?」

「……我らが求むは救いに非ず」


 黒コートの少女は自分の背丈以上もある巨大な十字架を構え、赤い目を輝かせながら男達に告げる。


「……求むは、穢れし罪人の血なり」


 男達の前に現れた少女は掃除屋(クリーナー)。この街に潜む危険因子を秘密裏に処理する役目を担う闇の処刑人。


「悪い奴は悪さをする前に消すのが一番なのです。死んでください」


 そう言って掃除屋(クリーナー)の絢香は躊躇なく引き金を引いた。


「ま、待っ……!」


 一人の男が命乞いをした時にはもう彼の目前に銀色の砲丸が迫っていた……



 ◇◇◇◇



「で、最近どうだ?」


 総本部の近くにある喫茶店でジェイムスは言う。


「まぁまぁですね」


 数週間ぶりにコーヒーを口にしたスコットは上機嫌に答えた。


「……そうか」

「この前まで住んでた部屋が台無しになったのを除けば、そこそこ快適に過ごせてます」

「もうすっかりこの街に順応したな。ドロシーから逃げたがってたあの頃が懐かしいよ」

「ええ、本当に……」


 奢ってもらったコーヒーを味わいながら彼はあの頃を懐かしむ。


「もう、逃げられないんですよね……」

「アイツと寝ちゃったんだもんな」

「軽蔑します?」

「同情はするよ」


 かのドロシー・バーキンスと一線を越えた関係になったスコットにジェイムスは尊敬の念すら抱いていた。


 幼少期からドロシーと交流があったとはいえジェイムスは彼女を異性として意識することはついになかった。その美しさに惹かれる事はあっても、それを台無しにする悪魔じみた性格が原因で距離を置くようになったのだ。


「……君の前だといい女になるのか?」

「まさか、社長は何処でも社長ですよ」

「それなのに惚れたの? 凄いね?」

「……自分でもビックリです。おかわりいいですか?」

「うん、いいよ」

「すみません、コーヒーをおかわりー」


 ジェイムスの言葉を受け流しながらスコットはコーヒーのおかわりを頼む。


「……何で惚れたのかはよくわかりません。でも、どうしても彼女を放っておけなくて……」

「……」

「彼女の方が強いのに、身体が勝手に守ろうとしちゃうんですよ」


 自分の手を見つめながらスコットは言う。


「お待たせしました、コーヒーのおかわりです」

「あ、どうも」

「身体が勝手に守る……か。俺とは真逆だな」

「そうなんですか?」

「俺は考える前に身体がアイツから逃げようとするからな」

「……本当に嫌いなんですね」

「正直に言うと顔も見たくないレベルだ」


 そんなスコットにジェイムスははっきりとドロシーへの嫌悪を顕にした。


「……そこまで言わなくても」

「そうだな……すまない。ただ、俺も本当に心から嫌ってる訳じゃないんだ。それがまた面倒くさいところだが」

「……」

「まぁ、俺が君に言えることは」



 ────ドゴォォォォォンッ!



 ジェイムスが何かを伝えようとした瞬間、まさに狙ったようなタイミングで凄まじい爆発音が響き渡る。


「うぉおおおおっ!?」

「な、何だぁー!?」

「あのマンションだ! あのマンションから……!!」

「……また今度に言うよ。代金は俺が払う」


 重い溜息をついてジェイムスは席を立ち、徐に財布から100L$札を取り出してテーブルに置く。


「えっ、ジェイムスさん!?」

「釣りは要らない。好きなだけ飲んでいけ、この店のコーヒーは美味いぞ」


 スコットを残して店を出ると、喫茶店のすぐ近くにある高層マンションから黒煙が立ち上っていた。


「ん? あのマンションは確か……」


 煙の発生地点と思しき場所からメキメキと黒い木の枝のようなものが生えてくる。


 黒い枝はある程度まで伸びると無数に枝分かれし、金色に輝く果実のようなものを実らせた。


「……あ?」

「うおおおおーっ! 何か生えてるぞー!」

「何だありゃあ!?」

「おい、待て。あの金色の実はまさか……」


 金色の果実を目にした瞬間にジェイムスは目を見開く。


「お前達、すぐにここから離れろぉおおお────っ!」


 ジェイムスが叫んだのと同時に一個の果実は木の枝から落下し……



 ────コォォォォォォンッ!!



 眩しい閃光と共に、落下した周囲の空間を()()させた。


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