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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.20「汝の愛を選び、汝の選びを愛せよ」
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11

「また綺麗になったね、サチコちゃん」


 総本部の何処かにある特別階級検査室。検診衣姿のドロシーがサチコに声をかける。


「……気の所為です」

「そんな事ないよ、僕はちゃんと見てるもの。大人になってからどんどん綺麗になってるよ」

「……そうですか」

「胸も大きくなったんじゃない?」

「はいはい、静かにしてねー」


 喋り終わる気配のないドロシーにマチルダが言う。


「マチルダ先生も綺麗よー」

「ありがと、貴女に言われると皮肉に聞こえるから微妙な気分ね」

「皮肉を使う相手はちゃんと選ぶわ。ブレンダよりもずっと綺麗で器量もいいからモテモテでしょう」

「ふふふ、やっぱり皮肉じゃないの。本当に嫌な子ねー」


 マチルダは苦笑しながらドロシー専用の検査台【白の聖櫃(ホワイト・アーク)】のロックを解除。白い棺のような検査台がゆっくりと展開し、歪な形状のベッドが迫り出してくる。


「さぁ、準備できたわ。入りなさい」

「嫌いなのよね、このレトロベッド。これに入ると一人で眠れなくなっちゃう」

「いいから入って。すぐ終わるから」


 ドロシーは本気で嫌そうな顔をした後、すうっと息を吸ってベッドに乗る。


「……ッ」


 するとベッドから骨のような拘束具が現れてドロシーをガッシリと固定する。


「……やっぱり、やだ。これ解いて」

「終わったら解けるわよ、じゃあ始めるわね」

「サチコちゃんー、助けてー……嫌な夢見ちゃうよー」

「……」


 ドロシーは半泣きでサチコに助けを呼ぶが、彼女は何も言わずに目を閉じる。


「それじゃ、リラックスして」

「ふやぁぁぁ~っ」


 展開した【白い聖櫃】はドロシーの身体を飲み込むように固く閉ざされ、無機質な表面に金色の紋章が幾重も浮かび上がる。


「……まぁ、確かにこんな物の中に何度も入れられるのは嫌よね」

「……」

「中でどうなってるのかはわからないけど、ドロシーの反応を見る限り寝心地がいいものでは無さそうだし」

 

 マチルダがドロシーの検診を担当するようになって数年が経つが、この中で何が起きているのかは知らされていない。彼女どころか秘書官のサチコでさえそれを知る権限が無いのだ。


「その点は、私も同感です。でも……」

「でも?」

「正直、清々しています」

「あはは、言うじゃないの」


 ボソッと彼女らしからぬ事を呟くサチコを見てマチルダは笑った。


「貴女はドロシーみたいな子は苦手そうだものね」

「……そういう訳ではありません」

「あれ? そうなの?」

「彼女は友人ですから」

「あら、意外ね。仲が良さそうには見えなかったけど」

「あのように振る舞わないと彼女は調子に乗るんです。それに……」


 サチコは小さく溜息を吐き、眼鏡の位置をクイッと整えて言う。


「正直、今のドロシーさんは惚気過ぎて気持ち悪いですから」

「あははっ、そうねえ。確かに浮かれてるわね、今のドロシーは!」



 ◇◇◇◇



「あー、あー、あーっ、退屈だぁー……」


 場所は変わってウォルターズ・ストレンジハウス。留守番中のアルマが黒いウサギの耳を揺らしながら退屈そうにボヤく。


「あたしもついていけばよかったかなー?」

「アル様はぐっすりおやすみ中だったので仕方ありませんわ」

〈めぺー、めぺーっ〉

「ほら、メリーちゃんが遊んでと言ってますわよー」


 マリアはソファーで寝転がるアルマのお腹にメリーをぽすんと乗っける。


「おいー、何処に乗せてんだよ」

〈めぱー、めぷぁっ〉


 アルマのお腹の上を歩いて顔の前まで近づき、メリーは愛らしい羊のような顔をグパッと裂かせて大きな口を露出させる。 


「あーあー、口をあけんなメー坊。結構怖いんだよ、その顔」

〈めぱぁぁー〉

「あははー、お前もドリーちゃん達が居なくて寂しいかー」


 メリーを持ち上げてアルマはにへらと笑う。


 ふかふかと手触りの良いメリーの感触に癒やされながらも、可愛いドロシーの事を考えると憂鬱な気分になる。


「……」

〈めぱっ、めぱあっ〉

「あらあら、アル様。メリーちゃんが降ろしてと言ってますわ」

「あ、ごめんー」

〈めぱーう〉

「ふふふ、そこまで心配なら今からでも総本部に向かえば良いのでは?」

「えー、やだよ。あたしはあそこが大嫌いなんだ。嫌な思い出しかねーもん」


 喜んで同行したルナとは対照的にアルマは嫌悪感を顕にする。


「ロザリーともあんまり会いたくねーし」

「ふふふ、大賢者様は会いたがってそうですけど。お嬢様の次くらいにアル様を可愛がられてますし」

「だから嫌なのー、いつまでも子供扱いするからさー。あたしはルナの姉ちゃんだぞ? おかしくねー?」

「……」

「なー、ニックもそう思うだろー?」


 アルマの枕元に置かれたニックに声をかけるが、彼はボンヤリと天上を見つめるだけで何も答えない。


「あれ、ニックー?」

「……そうだね、うん」

「あらあら、どうしたんですの? 先程からぼーっとしてますが、風邪ですか?」

「いや……ただね。どうしてアルマは僕までお風呂に入れたのかなって」


 鼻らしき部位からつーっと光る液体を垂らしてニックはボヤく。


「え、だってお前しか居なかったから。デイジーちゃんは家だしー」

「一人で入ればいいじゃないか……」

「ええー、一人より二人の方がいいじゃねーか」

「うふふふ、相変わらずニック様はいい反応をしてくれますわね。スコット君といい勝負ですわー」

〈めぱーっ〉

「うううっ……!」


 目に焼き付いてしまったアルマの眩しい裸体に悩まされつつ、ニックは久しぶりに不自由な自分の身体を恨む。


「じゃあ、ニックは今度からじーさんと一緒に入るか? 女の裸が見たくねーなら」

「……それはそれで嫌だよ。どうせ一緒に入るなら……」

「ふふふ、正直なのは良いことですわ。ニック様も男の子ですわねー」


 だからと言って女性と一緒に入浴するのが嫌だとは言えない。何だかんだで人並みの煩悩を宿すニックなのであった。


勇者も男の子なんだよ


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