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かなり間が空いてしまいましたが、ようやく更新できました。紅茶のお陰です。
「はーい、お久しぶり。元気にしてた?」
特別面会室で待っていた大賢者にドロシーは笑顔で挨拶する。
「お久しぶりね、ロザリー。サチコも。元気そうで何よりだわ」
「……」
「あー、その、ええと……どうも、お久しぶり……です」
ドロシーとルナに挟まれながら現れた望まぬ来客に大賢者達は沈黙。
(ああ、帰りたい! 今すぐここから出ていきたい!)
当然ながらスコットの心中は穏やかではなかった。
「どうして、貴方が居るのかしら?」
「ええとですね! これには深い事情がっ!」
「いいじゃない、叔母様。彼は僕の伴侶なんだから。本当の家族になった以上は此処に連れてきても問題ないでしょう?」
「社長ーっ!?」
最悪のタイミングで悪魔的なカミングアウトをやらかすドロシーにスコットは突っかかる。
「なんて事言うんですかあああー!?」
「だって事実じゃない。堂々としなさい、君は僕のダーリンなんだよ?」
「ダーリンとか言わないで!? 死んでしまいます!」
「そ、そう……そうなのね」
大賢者はふらつきながら目頭を押さえる。
「だ、大賢者様! しっかりしてください!」
「大丈夫よ、サチコ……少し目眩がしただけ」
「可愛いドリーがお相手を選んだのよ? ショックを受けてどうするの。折角、家族が増えたんだから喜びなさい」
「……ルナこそ。そんなにくっついてどうしたの。そこまで彼と仲良くなったの?」
「え、ええとですね! これはっ」
「ええ、もう裸の関係よ」
「ルナさぁぁぁーん!?」
笑顔のルナが更なる追い討ちをかける。既にスコットの精神は限界を越えつつあった。
「……意外ね、まさか貴女が彼以外の男に心を許すなんて」
「違うんです、違うんです! 誤解しないでください! 俺とルナさんはそんな関係じゃないですから!」
「ええ、自分でも驚いているわ。私にもまだ女らしさが残っていたなんてね」
「どうしてそんなこと言うのぉぉぉー!?」
「ちょっとお義母様? 僕のスコット君にあんまり色目を使わないでね? スコット君は僕のだよ? 僕の方が身体の相性だっていいんだから」
「もうやめてぇええ――――っ!」
二人の魔女は的確にスコットを追い詰めていく。
マルチーズが如くキャンキャンと吠える彼の姿にルナはご満悦な笑みを浮かべるが、大賢者の表情はドンドン凄まじいものになっていく。
「……」
「どうするんですか、この空気! 大事な話があったみたいなのに台無しじゃないですか!」
「君と僕の関係を伝えるよりも大事な話があるわけないでしょ」
「どうしてこの空気でそんな台詞が出てくるんですか!? 少しはあの人の」
「そろそろいいかしら?」
大賢者は部屋全体を凍らせるようなゾッとする声で言う。
「……!」
「いいよ、話して」
「話すも何もここに呼んだ理由は電話で伝えた通りよ。もうあの部屋に繋げているから手荷物はここに置いていきなさい」
「はいはい」
ドロシーはコートを脱ぎ、護身用の杖と一緒に面会室のソファーに置く。
「じゃあ行くよ、スコット君」
「待ちなさい、ドロシー。彼も置いていくのよ」
そのままスコットを連れて行こうとするドロシーを大賢者は即呼び止める。
「え、どうして?」
「逆に聞かせてくれる? どうして彼を連れて行こうとするの?」
「スコット君だから」
「あまり私を困らせないでちょうだい」
真顔でそんな事を言うドロシーに大賢者も段々と語気が強まる。
「いいじゃない、彼も」
「あの社長、流石にここは言う通りにしましょう。俺はこの部屋で待ってますから」
「えー……」
「駄々を捏ねてもいい答えは返ってきませんよ。たまには社長らしくビシッとキメるとこ見せてください」
「むむっ」
スコットにも言われてドロシーは顔を膨らませる。
「そこまで言うなら、ビシッとキメてあげるわ。君はここでルナと待ってなさい」
「はい、社長」
「いってらっしゃい、ドリー」
ドロシーは不本意ながらもスコットの言葉を受け入れ、部屋の奥にある白い扉を開けた。
「……ところで、あの扉の向こうはどこに繋がって」
「少しルナと話があるから貴方は部屋を出ていきなさい」
「えっ」
「あの扉の向こうについて貴方には話せないわ。そして、これから話す内容もね」
大賢者は静かに両手を組み、スコットに冷たい視線を向ける。
「……スコット君。ごめんなさい、今はロザリーの言う通りにして」
ルナも彼女の真剣な表情に何かを感じ取ったのか、スコットにやんわりと部屋を出るよう促す。
「……わかりました」
スコットはこちらを睨む大賢者に目を細めながら面会室を出た。
「サチコ、貴女はドロシーの所へ。必要ないとは思うけど一応用心しておきなさい」
「わかりました、大賢者」
スコットに続いてサチコも退室する。
「……こうして二人きりになるのはいつぶりかしら」
「さぁ、10年……ひょっとするとそれ以上かもしれないわね」
面会室に残った二人は互いの目を見つめ合う。
二人の姿はウサギの耳の有無と髪型と瞳の色を除けば鏡写しのようであり、双子というよりもまるで同一人物。
血が繋がった親族で終わらせるにはあまりにも似すぎていた。
「それで、私を呼んだ理由は何かしら?」
「もうわかっているんじゃないの?」
「わからないわね」
「そう……それじゃあ聞かせて頂戴」
大賢者は組んだ両手で口元を隠し、ルナを見つめながら言う。
「ドロシーと、スコット・オーランドの関係について。包み隠さず、詳細に」
大真面目な顔でそんな事を言う大賢者にくすりと笑い、
「ドリーがもう話してくれたでしょう? お母様。彼があの子の運命のお相手……【青い大男】よ」
そっと頬に手を当てて、ルナは満足げに言い放った。
お嬢様は空気を読まない!