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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.20「汝の愛を選び、汝の選びを愛せよ」
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5

良い子は真似できないね!

「えええええっ!? ル、ルナさん!?」

「だって、本当に素敵な男の子なんだもの」


 ルナはスコットの腕を抱き寄せ、頬を染めながら言う。


「……こんな事を言うと、貴方に嫌われてしまうかしら?」


 ルナが切なげな顔で言い放った一言が、スコットの胸を撃ち抜いた……



『はーい、お前ら集合ーっ!』


 スコットの脳内で急遽開かれた緊急会議。顔を真っ青にした進行役のスコットAがパンパンと両手を叩く。


『どう思うよ、これぇー!?』

『ヤバイよ、ヤバイよぉ!』

『う、うろたえるな! スコット・オーランドはこの程度でうろたえない!!』

『これもうアレじゃね!? マジな奴じゃね!?』


 スコットBは震え上がり、スコットCは動揺しつつも虚勢を張り、スコットDは満更でもなさそうな顔で言う。


『俺はこれも巧妙な罠だと思うんだが……』

『こんなの無理だよ、勝てるはずがないよぉ!』

『罠だとわかってるなら耐えればいいだろ!?』

『いやいや、俺はもうこのまま身を委ねてもいいと思ってるよ!』

『……』


 青い悪魔は会議の様子を後ろで見守っていた。


 しかし今回は悪魔にも落ち着きがなく、上半身をユラユラと揺らす。すぐにでも答えを出さないと全員殴り殺しそうな勢いだ。


『ど、どうしよう! 俺、負けちゃいそうだよ!!』

『Bくん、負けちゃっていいと思うよ! このままルナさんに委ねようよ!』

『お前ら何を言っているんだ!? 俺達には社長が居るじゃないか!!』

『で、でも……っ!』

『スコットCも見ろよ! あのルナさんの顔を!!』


 スコットDは真っ暗な空間に映し出される映像を指差す。


『うぅ……!?』

『あれを見て耐えられると思うか!?』


 大々的に投影されるルナの麗しい顔。


 柔らかい胸を腕に押し当て、頬を染めながら切なげな顔でじっと此方を見つめる彼女を見て否定派のスコットCも大いに揺らぐ。


『だ、だがここで手を出せば彼女の思うツボだぞ!? 社長を傷つけるだけじゃなくて、社長の目の前で母親に手を出すクソヤローとしてこれからずっと後ろ指を指される羽目になるんだぞぉ!? 』

『それでいいじゃない! 女の誘いに乗らずして何が男だ! 大体、前から選ぶなら社長よりルナさんの方だって』


 ボギャン!!


 スコットCを圧していたルナ派のスコットDを悪魔が撲殺する。


『おああーっ!?』

『ええっ!? アイツ何か悪いこと言った!?』

『……』

『くっ……やはり悪魔は抗えと言っているぞ! ルナさんに負けるな、俺! 社長の為に頑張』


 ベギョン!!


 そして何故かドロシー派のスコットCも撲殺。


『ナンデ!?』

『……』

『おい、悪魔! ひょっとして俺達を殴りたいだけじゃ』


 バゴンッ!!


『オイイイーッ!?』


 悪魔の理不尽な行いに物申そうとしたスコットBも撲殺され、進行役のスコットAだけが残された。


『お前、何のつもりだ!?』

『……』


 青い悪魔はスコットAを指さして『お前はどうだ?』と言いたげに目を大きく見開く。


『え、俺? 俺は……えーと……』

『……』

『そうだな、俺も』


 スコットAは大画面に映し出されるルナの顔をもう一度見て喉元まで答えが出そうになったが、今朝のドロシーの幸せそうな笑顔を思い出して踏みとどまる。


『……俺は……っ』


 答えに悩むスコットAに落胆しながら悪魔は拳を振り上げた……


『俺は、どっちにも手を出していいと思う!』


 だが、スコットAの言葉を聞いて鼻先で拳を止める。


『……』

『……いや、正直に言うと俺はもう社長を選んじゃってるよ? でもあのルナさんの顔を見ちゃうとグッとくるものがあるんだよね。あの顔が俺の誠意を試そうとしているものだとしても。それに……』

『……』

『社長は言っていた……愛人は5人までならOKだと』


 スコットAは顔中に冷や汗をかきながら引き攣った笑みを浮かべる。


『社長はお母様は駄目とは……言わなかったよなあ?』


 スコットAの答えを聞いて青い悪魔は大きく口を裂かせて満足げに笑った。


『……わかってるじゃぁ、ないか……、ブラザー……!』


 悪魔はサムズ・アップした後、【決断(decision)】と書かれた赤い扉を指し示す。


『……割りと最低な答えだけどな』

『だがぁ、()()()()()最高だろぅ? ひょっとしてブラザーは自分を立派な人間様だとでも思ってたのか? ハッハッ! そんな訳ねえよなぁ!?』

『そのとおりだよ、クソッタレ』

『立派になったところでギャラリーに尊敬されるだけだぜ? そんなのが欲しくて此処に来たんじゃないだろぅ??』


 肩を震わせながら悪魔はスコットAに顔を近づける。


『だったら、堕ちな。笑いながら、楽しみながら。お前は天国なんざ望んでねえ。お前には……地獄がお似合いだ!』


 楽しそうにゲラゲラと笑う悪魔に背中を叩かれながら、スコットは扉の向こうへと進んでいった……



(ああ……そうだな。そうだったな……畜生……何を勘違いしてたんだ。俺が今更、真っ当な人間になれるわけないじゃないか)



 現実に帰還したスコットは黒い天井を仰いで覚悟を決める。


「確かに……これは、嫌いになりますね……」


 ルナの胸から腕を強引に引き抜いた後、彼女の身体をやや強めに抱き寄せる。


「あっ……」

「今までルナさんの事は手の届かない高嶺の花とか、天上の女神様とかそんな風に見てたんですけど……その言葉でかなりランクダウンしましたね。ガッカリですよ、ルナさん」


 そして先程までとはまるで別人のような挑発的な笑みを浮かべ……


「俺にはもう貴方が唯の女にしか見えなくなりました」


 ルナが期待していた以上の、強烈な殺し文句を言い放った。


真似しちゃいけませんけどね。

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