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よくわかんないけど元気が出ない。そんな時に読むと元気になれる作品を目指していきます。
「……なんだこりゃぁ」
リンボ・シティ11番街区にある廃棄物処理施設で働く異人の作業員が、施設に運び込まれてくる緑色の血が滴るスクラップの山を見て呟いた。
「ああ、昼前に異界門から出てきたよくわからん奴らの残骸だ」
「街で暴れる前に魔法使いさんが倒してくれたらしいぞ」
「うへぇ、これからアレを処理すんのかよ……」
作業員達は頭を抱える。
ここには粗大ごみや産業廃棄物の他にもこういったものがよく運ばれてくるのだ。
「よぉ、お疲れさん! で、コイツはどう処理したらいいんだ!?」
残骸を運んできた大型トラックの運転手に作業員が声を掛ける。
「んああ、このままおたくご自慢の超火力バーナーで焼却しろってよ!」
「もう魔法使いさんが魔法使って燃やせばいいじゃねえか!」
「はっはっ! 違いねえや、でも街中でこんなもんボーボー燃やすわけにもいかねえってんでな! 今日も頼むわー!!」
運転手がハンドル近くの赤いボタンを押すと、トラックの荷台付近に取り付けられたコンテナから金属製のアームがキリキリと音を立てて伸びてくる。
アームは荷台の残骸をむんずと掴み、焼却場行きと書かれたスペースに投棄した。
「だから運んできたもん投げんなって!」
「はっはっ、じゃあ後は頼んだー! あ、そうだそうだ! これを引き取る時に職員さんから言われてたんだったー!!」
「何だよ!?」
「その残骸には絶対に触るなだってよ!」
運転手はそう言い残し、荷台から伸びる金属アームを器用に操作してバイバイしながら処理施設を後にした。
「……いや、誰も触らねぇよ。あんなもん」
「見るからにヤバイ気配がするしな……」
「おーい、誰かリフトちゃん持ってこーい! ショベルくっつけた特製の奴!!」
「アイサー!」
ギャラギャラとけたたましい音を立てながら作業員謹製の大型フォークリフトが姿を現す。
正面に設けた巨大なショベルで運ばれてきた残骸を豪快に掬い上げ、ボタボタと緑の液体を垂らしながら焼却場へと向かっていった。
「あーあ、何で俺たちこんな街に来ちゃったんだろうなぁ」
「ここしか居場所がなかったんだから仕方ねえだろ。おら、突っ立ってないで動け! まだまだ仕事は山積みなんだからよ!!」
「あいあい、働けるだけ幸せですよってな……ん?」
ボヤきながら作業に戻ろうとした異人の作業員は緑色の水溜りの中に光る物体を発見した。
「……」
嫌な予感を覚えながらも好奇心に負けてその光る物体に近付く。
眩い銀色に輝くそれは何らかの機械部品にも見え、恐らくは先程運ばれた残骸の一部だと思われる。
「何だ、ただのガラクタの一部かよ」
〈ピギャアッ〉
落胆した作業員の男が蹴り飛ばすと、その銀色のパーツは甲高い悲鳴を上げた。
「うわっ、何だ!?」
「おら、サボってんじゃねーぞ!」
「い、いや……何かあのガラクタから声が……ッ!」
「はぁ!?」
蹴っ飛ばされた銀色のパーツはそのままゴロゴロと転がり、ある人物の足元で止まる。
「コラァアア、クズ共ォ! 何をのんびりしてやがる! さっさと作業を進めろ!!」
その人物は転がってきたパーツを踏み付け、耳を塞ぎたくなるほどの大声で怒鳴った。
「うわ、やっべ!」
「す、すみません監督!」
見ようによっては豚の異人にも見える小太りの彼はこの施設の現場監督。
他の作業員と違って普通の人間であり、異人に対して強い差別意識を持っている。
「クズ共が、給料減らされたくなかったら働け!」
「は、はいぃー!」
「ったく、異人共は要領が悪い! まだ野良犬の方が使えるぞ、役立たずが!!」
監督は足元の部品をゲシゲシと踏み付けながら喚き散らす。
銀色の部品からはピギピギという鳴き声が聞こえていたが、彼は構わず踏んづける。
そして豚足のように太く短い足を上げ、今一度思い切り踏みつけようとした瞬間……
〈ピグァ〉
銀色のパーツがパクリと裂け、内部から鈍く光る無数の触手が現れた。
「おっ、あっ……なぁああああああ────!?」
触手は監督の足に巻き付いて地面に引きずり倒し、ついにはその全身をぐるぐる巻きにした。
「あーっ! 監督ゥー!!」
「うっ、あっ! お、お前ら! 助けろぉ!!」
「やばい、何かヤバイぞ! 逃げろぉー!!」
「うわーっ、監督がやられたぁーっ!」
監督は作業員達に助けを求めるが、彼らは無視して即座に逃げだした。
「お前らっ……うごぉっ!」
銀色の部品は助けを呼ぶ監督の顔面に覆い被さる。
部品から伸びる触手はやがて鈍く輝く銀の繭のような物体を形作り、繭の中からは監督の言葉にならない悲鳴が聞こえたが その声も程なくして聞こえなくなった。
「ああ……監督……」
「嫌なヤツだったよ……」
「次の監督はいいヤツだといいなぁ……」
作業員達は離れた位置で上司の最期を看取った。
彼らの顔はとても晴れやかで、中には隣の作業員とハイタッチする者もいた。
不謹慎にも程がある態度だが、あの現場監督はそれだけ恨まれていたという事だろう。
〈……ヴァゲ……ゲッ、ゲギャギャッ!〉
繭の中から不気味な声が聞こえてくる。
まるで林檎の皮を向くように銀の繭の表面にするりと切れ目が入り、キリキリと金属が擦れるような不快な音を立てながら繭が解ける。
〈ヴァギャァアアアアアアアアァアアアアア!!〉
そして銀色繭の中から、機械と生き物が混ざりあったかのような醜悪な怪物が姿を現した。
「うわぁああああーっ!?」
「な、何だ!?」
「うわっ、ばっ、化け物だぁああーっ!!」
怪物は背中から機械の触手を伸ばして周囲の重機や機械部品を掴み、ズルズルと自分の方に手繰り寄せる。そして次から次へと自分の身体に取り込んで身体を巨大化させていく。
「な、なんだあいつ……機械を、食ってやがるのか!?」
「ど、どどどどうするよ!」
「ど、どうするって……どうするの!?」
〈ヴァァァギャァアアアアアアアアアアアアアア!〉
「ひいぃっ、もう無理! 俺は逃げる!!」
作業員の一人が逃げ出し、他の者も後に続いてその場から逃げ去った。
周囲に散らばる重機を取り込んで巨大化しながら怪物は大きな眼球をギョロリと動かし、逃げていく作業員達を憎々しげに睨んだ。