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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.4 「今が良ければオールライト」
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4

紅茶は温かい内に飲んでも美味しいし、冷めてから飲んでも美味しいものです。

「……友達ですか」

「うん、友達よ」


 スコットはふと先日のアレックス警部の言葉を思い出す。


『……スコット、悪いことは言わない。今すぐこの魔女に辞表を渡して逃げろ! あの魔女と一緒にいると死ぬぞ!!』


『あの女がどんな奴なのかも知らずに一緒にいたのか? よくそれでアイツの会社に入れたな』


『人間が少女の姿のまま百何年も生きるわけ無いだろ、あの女は化け物だよ。女の子の皮を被った正真正銘の化け物だ』


 何処をどう解釈しても、アレックス警部の言葉から彼女に対する親愛の情は読み取れなかった。


 そう話す警部の表情にもあからさまな嫌悪の感情が滲んでいたし、初めてスコットに会った時も本気で自分の身を案じているかのような顔を見せてくれた。


「アレックス警部とはあの子が小さい頃からの友達でね。今は厳つい顔になっちゃったけど目元だけは昔と変わらないの。よく見るとすごく可愛い目をしてるのよねー、警部の奥さんもあの可愛い目にやられちゃって僕に相談してきたのよ。警部の方も奥さんに一目惚れで何とかお近づきになれないかって僕に相談を」


 自分が警部に嫌われている事に気づいていない上に、アレックス夫妻の赤裸々な馴れ初めまで嬉々として話すドロシー。

 そんな彼女と子供の頃から付き合いのある警部の苦労を察し、スコットは静かに涙を流した。


「あれ、泣いてるぞあの童貞」

「……いえ、なんかちょっと感動しちゃって。あと俺はスコットです」

「意外と涙脆いんだね、スコッツ君」

「スコットです」


 彼が感動したのはそんな警部の心労を全く理解できないドロシーの無自覚な悪魔ぶりである。


「ぐすっ……」

「えっ、デイジーも泣いてんのかよ!?」

「ごめんなさい、ちょっと友達って言葉にグッときちゃって……アイツらとまた会えても、もうオレだって気付かないんだろうなと思うと……っ! ううっ!!」

「よーしよしよし。泣くな、泣くなデイジー。むしろデイジーの友達は喜ぶと思うよ。すげー喜ぶと思うよ」


 スコットとは全く違う理由で尊い涙を流すデイジー。

 隣に座るアルマは彼を抱き寄せ、まるで実のお姉さんのようによしよしと頭を撫でて慰めている。



(……アルマさんってああ見えて優しいんだな。ちょっと怖いところあるけど、本気でデイジーさんを慰めてくれてるし)


「ううっ、ありがとうございます……アル姐さん」

「後であたしの部屋に来な? 慰めてやるから」

「それは遠慮しま」

「部屋に来な?」

「……はい」


 だが、彼のアルマに対する評価は僅か数秒後に覆された。


「そうそう、友達と言えばたっくん! 彼とも結構長い付き合いがあってねー。彼とアトリちゃんの出会いも」

「もういいです、社長。その辺にしてください。涙が止まらなくなります」

「うふふふ、スコット君は人情話に弱いのねぇ。悪魔なのに」

「その悪魔って呼び方やめてください。お願いします」


 マリアはうふふと笑いながらスコットの古傷を抉る。

 彼はこれ以上精神的苦痛を味わう前に話を終わらせようとするが……


「……悪魔? 悪魔って何ですか」


 そこにデイジーが食いついてしまった。


「スコッツ君の異能力よ。彼には悪魔が憑いてるの、物凄く強いんだよ」

「へぇー、そんなに強いんだ。ちょっと気になるな」

「あの、その……あれは」

「でもスコッツ君の異能力発動には何らかの条件があって、自分の意志じゃ発動出来ないみたい。発動後に自分で制御するのも難しい感じね」


 ドロシーは子供のように燥いでいるように見えて、あの僅かな間でもしっかりと彼の異能力を観察していた。


「彼の異能力を分類すると【攻撃系】、それも任意に発動できないし能力自体に独立した意思があるみたいだから【自律型攻撃系】ね。管理局がそこそこ警戒するタイプよ。物理的なダメージを与える以外の能力は無さそうだし、そこまで階級(クラス)は高く設定されてないとは思うけどね」

「へ、へぇ……ここではそんな呼び方が……」


 外の世界では悪魔、もしくは悪霊と忌避されて終わるスコットの超常的な力もリンボ・シティではかなり研究が進んでおり、詳細な分類分けがされている。


「ルナの異能力は相手を癒やす【回復系】、アルマ先生の異能力は触れたものを変化させる【変化系】、ブリちゃんの異能力は魔法なんだけど僕達とは術式系統と発動の仕組みが違うし、攻撃だけに特化してるから【攻撃系】に分類されるね。このデイジーちゃんも異能力者で【支配系】っていうかなり面白いタイプだよ」

「な、なるほど……」

「まぁ、僕はわざわざ野暮ったい専門用語を使わずに 悪魔ちゃん と呼んであげてもいいと思うけどね」


 しかしドロシーは違った。


 わざわざ説明しておきながら彼の能力を悪魔というシンプル・イズ・ベストの一言に尽きる呼び方で終わらせた。


「悪魔ちゃん!? ちょっとふざけないでくれませんか!?」

「えー、だって悪魔って呼び方は可哀想じゃないの。異能力ちゃんなんて呼び方もナンセンスだしー」

「そういう意味じゃないですよ! もっとこう! 俺の能力について詳しく説明してくれるとか!!」

「僕にわかっていることはそれだけだよー。いきなり背後から出てきて相手を思いっ切り殴る能力……それ以上の説明は僕にも無理ー」

「何だかそれだけ聞くとものすごい 地味な異能力 に聞こえるな、スコット」

「地味ぃ!?」


 デイジーはまるで期待を裏切られたかのような顔で呟く……


 彼の何気ない呟きが、スコットの繊細な心を酷く傷つけた。


「地味、地味とか言わないでくださいよ! この力の所為で俺が今まで、今までどれだけ苦労したか……っ!!」

「あっ、ごめん! 泣くな、泣くなって! オレが悪かった!!」

「あーっ! 今度はスコッツ君が泣いちゃった!!」

「情けねぇな、童貞! 本当のこと言われたぐらいで泣くな!!」

「泣いてません! 泣いてませんって……っ! うぉうううぅぅっ!!」

「あらあらあらぁ、いけませんわよー。男の子がそんなにすぐ泣いてしまわれてはー、うふふー」

「仕方ないわね。スコット君、私のところに来なさい……癒やしてあげるわ」

「結構ですぅぅうう! もう放っといてくださいぃいい! うわぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁん!!」


 デイジーに続いて今度はスコットが泣き出してしまい、ドロシー達は総出で彼を慰めだした。


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