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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.19「顔のない髑髏」
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 場所は変わって異常管理局セフィロト総本部 第一執務室。


二桁区(ダブルナンバー)で流行していた危険薬物【ソーマ】の製造現場が異常管理局職員に制圧されました。現場からはソーマの原料となった異界の……』

「管理局職員に……か。何だか複雑だなぁ」


 昼休憩中のジェイムスはタブレットでニュースを見ながら複雑な心境を吐露した。


「どうしかしましたか、ジェイムスさん」


 隣の席で昼食を取っていた職員が憂鬱気な彼に声を掛ける。


「いや、このニュースを見て少しな……」

「ああ……仕方ないですよ。彼らの存在は世間に知られちゃいけませんからね」


 褐色肌の若い職員も何とも言えない調子で答えた。


「ジギーはまだ会ったことないのか? 掃除屋(クリーナー)には」

「ええ、直接会ったことはありません」


 褐色肌の彼の名前はジギー。フルネームはジギー・マクラウェル。


 少し前に起きた【マッケンジー獣害事件】で非常に重要な役割を担った人物だ。本人に自覚はないが、彼の存在無くしてあの事件の解決はありえなかっただろう。とある年の差カップルには密かに【恋のキューピッド】呼ばわりされていたりするが、自覚のない彼は知る由もない。


「まぁ……会ってもいい気分にはならないけどな」

「噂では銀髪の美しい女性だとか……顔のない大男だとか言われていますが」

「いやいや、俺が知ってるのは」

掃除屋(クリーナー)について話すのは規則違反って知ってる? 二人とも」

「はっ!」

「あっ、いえ! すみません!!」


 たまたま執務室に顔を出していた赤毛の女性が二人の背後に忍び寄り、彼らの肩に指でなぞりながら妙に色気だつ声で釘を刺す。


「いくら協力関係にあると言っても、彼らの素性は人に話さないのが決まり。向こうにバレると消されちゃうかもしれないわよ?」

「そうですね……気をつけます」


 彼女の名はマチルダ・カーマイン。生物部に所属する職員で、あのブレンダ・カーマインの妹だ。


 姉と同じ赤色の髪とスクエア眼鏡が特徴の長身美女。モデル並のプロポーションに映える白衣のようなコートから覗くスラリとした脚にジェイムス達の目が泳ぐ。


「と、ところでどうしてマチルダさんがこの部屋に?」


 マチルダも医術を学んでいるが、彼女は医者ではなく新動物学者だ。


新動物(ニューボーン)に限らず異界の動植物に関する膨大な知識を持ち、その優秀さが大賢者の目に留まって管理局にスカウトされた経歴を持つ。色々と問題の多い姉とは対象的に彼女は真面目な常識人であり、姉妹の仲はあまり良くない。


「ちょっと書類を届けにね。はい、目を通しておいて」

「何の書類ですか?」

「ソーマの材料になった異界の植物について纏めておいたわ。もし街中で見かけるようなことがあれば、すぐに報告しなさい」


 ジェイムスはマチルダから手渡された書類にある植物の写真を見る。


「……見た目はそんなに害があるようには見えないんだけどな」

「そういうのが一番危ないのよね。見た目は綺麗……というのがね」


 その植物は白い花弁を持つタンポポに似た小さな花で、その美しい外見からはとてもあのような危険薬物が精製されるとは思えなかった。


「……これからどうやってあんな薬が?」

「聞くより見たほうが早いわ、興味があるなら後で研究室に来なさい」

「……俺は、いいかな」

「……自分も遠慮しておきます」

「ふふふっ」


 二人の嫌そうな反応を見てマチルダはくすりと笑った。



 ◇◇◇◇



「それじゃあ、またね。今日も美味しかったわ」

「ごちそうさまでした」

「ありがとうございます、また来てくださいね!」


 アトリは満足そうに店を出たドロシー達をとびっきりの笑顔で見送った。


「……もう来ないでほしいなぁ」


 そんなアトリとは対照的にタクロウはドロシーを忌々しげに睨む。


「タクロウさん?」

「じょ、冗談だよ……」

「ふふふっ」


 時刻は午後2時。ビッグ・バードはまだ多くの常連客で賑わっており、美味しそうに料理を食べる皆を見てタクロウの表情も和らいだ。


「こうして見てると、店を始めて本当に良かったと思えるなぁ」

「本当ですね」

「もう少し顔がマシだったら、もっと人が来てくれるかな……」

「今はとっても可愛い顔になってますよ? さっきは物凄い顔してましたから」

「あー……はいはい。反省してます、してますとも」


 黒歴史を暴かれた怒りのあまり荒ぶる暴力ゴリラと化して畜生眼鏡を襲撃し、畜生眼鏡二号の診療所にもカチコミしようと目論んだ彼であったが【愛の力】で本来の自分を取り戻せたようだ。


「ああ、今日もアトリちゃん綺麗だな……」

「本当だな……」

「いいなぁ、店長は。どうやったらあんな綺麗なお嫁さん貰えるんだ?」

「運命だよ。俺たちは出会うべくして出会って、結ばれるべくして結ばれたんだ」


 妻に見惚れる常連達の質問にタクロウは満面の笑みで即答した。


 彼の発する言葉には一点の淀みも、羨むジャック達への蔑み等の悪感情は一切なく、ただただ確信に満ちた力強いコトダマが宿っていた。


「……」

「……」

「……」


 しかしその一言が三馬鹿のプラ版よりも繊細な心を傷つけた。


「そんな顔すんなよ、事実なんだから」

「わかってるよ……うん、わかってるよ! でもさぁ!!」

「もうちょっとこう……さぁ!」

「あれだよ!」

「何だよ」

「「「言い方考えろよ!!!」」」


 三馬鹿は血の涙を流しながら叫ぶ。鬼気迫る馬鹿の勢いにドン引きし、タクロウは思わず一歩下がるが勢い付いた三人は泣きながら彼に縋り付く。


「そもそも運命ってなんだよぉ! 何で自信満々にそんな台詞言えんのぉ! おかしいだろ、ここリンボ・シティだよぉ!?」

「い、いや、だって事実だし……」

「あんな娘に出会うべくして出会ったぁ!? そんなの夢だよ妄想だよ幻想だよぉ! 十代の人妻なんて妄想の産物だろぉ! ふざけんなよぉおおおー!?」

「そう言われても、これリアルだし……」

「そんな子に出会わない結ばれないのがこの世のリアルだるるぉ! 普通なら結婚詐欺とか怪しいお仕事の勧誘とか悪質なイタズラとかで地獄を見るもんだろ! 何だよ、二人とも一目惚れでゴールインって!!」

「いやぁ、もうこの子しかいねーと思ってつい」

「「「ありえねーからぁ! そんな幸せありえねーからぁ!!!」」」


 暑苦しい常連三人組に絡まれてタクロウは困り顔で頭をポリポリと掻く。


「あははっ、これもちょっとした名物よねー」

「本当だねぇ」

「まぁ、そう言いたくなる気持ちもわかるよ。アトリちゃんは本当に可愛いから」

「……」


 その様子を他の常連は微笑ましく見守っており、アトリも照れ臭そうに頬を染めて結婚指輪を弄った。


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