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この街に来たことを不幸だと思え
「み、見てください! リンボ・シティ14番街区の上空に、謎の重武装ロボットが!!」
「ジャスミン、危ないーっ!」
「ひゃあああああっ!?」
勇敢を通り越して命知らずなテレビ報道陣にミサイルの雨が降り注ぐ。
「あーもー! 何なんだよ、アレは!? SF映画から湧いてでたのかコンチクショー!!」
「ぎょわーっ!」
「ママ――――ン!!」
住民達は突如現れた赤い鉄塊の暴威に逃げ惑う。鉄塊は目に付く動くもの全てを見境なく攻撃し、街には大きな被害が出てしまっていた。
〈死ね、死ね死ね死ね死ね! 死に絶えろおっ! 私以外の全てが死ねばいい! 私以外の全てがぁっ!!〉
ラーカイムは絶叫しながら銃弾と砲弾を撒き散らす。
彼に搭載された武器はどれも常識外の威力を秘めており、有機物で構築された大半の住人は掠っただけで即死してしまう。
〈アアアアアアアアアアアッ!〉
かつてのデーアハト同様にこの世界の全てが怪物に見えているラーカイムに、もはや説得は通じないだろう。
チュインッ!
所構わず乱射するラーカイムに何かが着弾する。
〈……? 何だ、これは〉
何のダメージも与えられない攻撃。ラーカイムは着弾地点から相手の場所を割り出し、視界にズームアップする。
〈何のつもりだ? こんな攻撃で、この私がっ!!〉
視界に映る金髪の未確認生物はにこやかに笑いながら此方に手を振る。ラーカイムが彼女を撃ち殺そうと銃を構えた瞬間……
――――チュドンッ!
ラーカイムの身体が激しく爆発。燃え盛る炎に包まれる。
〈グオオオオオッ!?〉
爆炎に巻かれるラーカイムに二発目、三発目と追撃の魔法が撃ち込まれ、次々と爆発。そのまま彼は地面に向かって真っ逆さまに落下した。
「うーん、やっぱり悪い子はよく燃えるわね。仕事後の紅茶が美味しくなるわ」
燃え落ちていくラーカイムに眩しい笑顔を向けながらドロシーは言った。
〈グ、ガアアアアアアアアーッ!〉
ラーカイムは地面に落下する前にブースターを再点火し、ドロシーに向かって突撃。がむしゃらにガトリング砲を連射する。
ドロシーに殺到する弾丸。一発でも命中すれば死は免れない鉛の雨に晒されながらも彼女はニコニコと笑い……
「ちゃんと狙いなさいよ。馬鹿の鉄砲は数撃っても当たらないのよ? 馬鹿にはわからないだろうけど」
ラーカイムを挑発しながら魔法を放つ。放たれた魔法はラーカイムに着弾し、その身体を麻痺させて自由を奪う。
〈グ、ヌガアアアアッ!?〉
身体が麻痺したラーカイムは上手く飛べずに道路に落下。ガリガリとアスファルトを削りながらドロシーの近くで止まった。
「ハーイ、初めまして。僕の名前はドロシー、よろしくね!」
〈グ、ヌッ!〉
「貴方のお名前は?」
ドロシーは鮮やかな赤色から表面が焦げて真っ黒に変色したラーカイムを挑発するように言う。
〈……し〉
「し?」
〈死ねぇ!!〉
ラーカイムは激昂しながらドロシーに銃を向ける……
「うふふ、嫌だよ」
ドロシーに向けられた銃は背後から伸びる青い剛腕に叩き潰される。
〈ヌグウッ!?〉
「あ、紹介するね。この子は」
「スコットです! 初めまして、死ね!!」
ラーカイムの死角から現れたスコットは満面の笑みで彼を殴り飛ばす。
〈ガアアアアアアアアッ!?〉
4mはあるラーカイムの巨体がボールのように軽々と吹っ飛んで行く。
「相変わらず容赦ないね、スコッツ君は」
「社長に言われたくないですよっ!」
スコットは勢いよく駆け出してラーカイムを追う。片目に宿る青い炎は彼の感情に呼応するように激しく燃え盛り、悪魔の腕にも力が漲る。
〈オオオオオオッ!〉
「お前がどこから来たのか知らないし、誰なのかも知らねえ! 興味もねえ!!」
〈き、さまあああああああっ!!〉
「だけどぉっ!!」
ラーカイムは体勢を整え、迫り来る怪物を迎撃せんと道路を踏みしめる。
「ムカつくから、死ねっ!」
スコットはラーカイムの砲弾を至近距離で躱し、素早く反撃の拳を叩き込む。悪魔の拳はラーカイムの強固な装甲を一撃で凹ませた。
〈ガビュッ!〉
ラーカイムの胴体が車に踏まれたアルミ缶のように変形する。
(……な、何だ! 何なんだ、コイツは!!)
ラーカイムにとって今のスコットはもはや恐怖の化身にしか見えなかった。
「はっ! 丈夫な身体に生まれて良かったな!!」
大きく見開かれた青い目、背中から伸びる巨大な腕、そして……心底楽しそうに笑う彼の顔。
〈ウ、ウグッ!〉
「でも、これで終わりだぁ!!」
〈ウオワアアアアアアアアアアッ!!〉
恐ろしさのあまり重度の恐慌状態に陥ったラーカイムは再び奥の手を使用し、スコットの身体を吹き飛ばす。
「うおおおっ!?」
ゼロ距離でエネルギー波を浴びたスコットは建物の壁を突き抜けていく。
〈……ハァッ!〉
「おりゃああああああああっ!」
〈ウグウッ!?〉
スコットを吹き飛ばして油断したラーカイムの上に黒い何かが飛び乗り、手にした武器を深々と突き刺す。
「よぉ、初めましてだな! デカブツゥ!!」
〈な、ナニイッ!?〉
「いきなりだけど聞いていいかぁ!?」
突然現れた黒いウサミミ少女、アルマは赤い目をギラりと輝かせてラーカイムに問う。
「あたしの、デイジーを 何処にやった??」
デイジーが黒い鉄塊に攫われたと連絡を受けていたアルマは、目の前の奴がそれだと勘違いしたまま容赦なく黒刀を突き立てた。