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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.18 「いつの日かなんて、決してやってこない」
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〈う、ぐ……っ!〉


 魔法の集中砲火に加えてラーカイムの奥の手まで至近距離で浴びたデーアハトは満身創痍だった。



(……修復が間に合わない……! くそっ、どうして俺、は……!!)



 ここで彼は何故魔法使いに反撃しなかったのかと疑問に思う。


 確かに魔法という不可思議な力で動きを封じられてはいたが、彼は全身の至る所に武器が搭載されている。

 魔法使い達の攻撃を受けながらでも反撃するチャンスは幾らでもあった。


 だが、彼は撃てなかった。彼らの傍にはデイジーがいたから。



(……)



 デイジーと出会ったのはほんの1、2時間前。互いに初対面な上に一度は殺しかけた相手だ。



(……撃てない、な……俺には)



 デイジーと過ごした1、2時間が、デーアハトの精神に大きな変化を齎してしまった。


〈フ、フフフ……〉

〈……!〉


 動けないデーアハトにラーカイムが接近する。彼も損傷を受けているが、デーアハト程では無い。


〈私の、勝ちだな! アハト!!〉


 ラーカイムは再びブレードを出してデーアハトの胴体に深々と突き刺す。


〈私に勝てたとでも思ったか、アハトオオオオオオ!〉

〈ガ、グ、アアアアアアッ!〉

〈死ぬのは私ではない! 貴様だ! 私は貴様を殺して、最後まで生き残る!!〉

〈ガガガガ、ガ……ッ!〉

〈最後の一人になるまで生き残ってやる! 私以外の全てを殺して、私は生き残る! 私だけが!!〉


 ラーカイムもかつてのデーアハトと同じく世界の全てが敵に見えていた。


 デーアハトとラーカイムは同じ日に生まれた兄弟だ。だが、二人が手を取り合うことは一度も無かった。

 生まれ落ちた時から互いに敵と認識し、今日まで殺し合ってきた。

 そうしなければ此方が殺されると思い込んでいたからだ。


 彼らの種族がいつからそうなってしまったのか……それはもう誰にもわからない。


〈……ガ、ハハッ……〉

〈!?〉

〈ハハッ、ハハハハハハハッ……!〉

〈何だ……何が、おかしい……!?〉

〈おかしいさ、ラーカイム……! ()()は本当におかしい!!〉


 胴体に深々と刃を突き立てられて瀕死の重傷を負った今、ようやくデーアハトは自分達の愚かさを理解した。


〈お前だけが生き残る? 生き残って、どうする……? お前一人で……何が出来るって、言うんだ……!?〉

〈……何を、言っている?〉

〈ああ、そうだな。殺していたら……、わからなかった。本当に俺は、馬鹿だ……〉


 殺して得られる安堵など、誰かと寄り添う幸福に比べるべくも無い。


 孤独で得られる安心など、誰かと語り合う喜びに適うはずが無い。


 今際の際でようやくそれに気付いたデーアハトは、デイジーに出会えた奇跡に心から感謝した。


〈ありがとう……デイジー……、君のお陰で……〉

〈何を言っている? 何が言いたいんだ、アハト! 言っている意味がわからないぞ!!〉

〈……お前には、教えるものかよ。ラーカイム〉


 ラーカイムを挑発するようにデーアハトは点滅する目をグニャリと曲げ、最初で最後の最高の笑顔を浮かべて言い放った。


〈お前は『可愛くない』からな……!〉



「早く! こっちだ! 急がないとアイツが殺られちまう!!」


 デイジーはドロシー達を連れてデーアハトの所に急ぐ。


「うーん、判断に悩む所ね。その子の境遇には同情するけど、危険なのは変わらないし。関係ない子まで殺してるしね」

「で、でもっ! あのままだと可哀想過ぎるじゃないですか! 生き残るには殺すしか無かったって……そんな生き方あんまりですよ! スコットもそう思うだろ!?」

「……さぁ、俺からは何とも言えませんね」


 デイジーの話を聞いてもドロシーはそれほど、スコットは全くデーアハトに同情は出来なかった。


「な、何でだよ!」

「デイジーちゃんのお願いだから聞いてあげるけど、期待はしないでね。流石に僕でも保護区(セイフ・ランド)で暴れた子を庇いきれる自信はないから」

「そ、そこを何とかお願いします! アイツには殺すこと以外の事を知って欲しいんですよ! だって、だってアイツも……!!」


 そしてデイジー達はデーアハトの所に辿り着く。


「……あ」


 だが、デイジーが戻ってきた時にはデーアハトは胴体を切り裂かれて動かなくなっていた。


「……デーアハト」


 デイジーはフラフラとデーアハトに近づく。そして傷ついた彼にそっと触れ、何も言わずに抱き着いた。


「……ッ!」

「その子が、デーアハト君?」

「……何で、何でっ!!」


 彼は触れただけで理解した……デーアハトは既に息絶えてしまったのだと。


「ううううううっ!」

「……そうらしいですね」


 機能を停止した黒い鉄塊に泣きつくデイジーをスコットとドロシーは静かに見守る。


「別に、別にコイツはそこまで悪くないじゃねえか……! ただ、死ぬのが怖くて、殺されたくなかっただけで……! 殺す事しか知らなかっただけなんだよ! ただ、ただ皆が怖かっただけなんだ……っ!!」


 デーアハトが今までどんな気持ちで過ごして来たのか、どれだけ自分以外のものが恐ろしく見えたのか……それを知るのはデイジーしかいない。


「……殺すこと以外の、もっと、もっと楽しい事を知る時間くらいくれてやってもいいじゃないかよ……! コイツだって、コイツだって()()なんだっ! オレと同じ……っ!!」


 デーアハトと記憶を共有したデイジーにしか彼の気持ちはわからない。


「あんまりだ……こんなのっ、あんまりじゃないか……っ!」


 デーアハトが死んで悲しむのは、この世でデイジーしかいなかった。


「……社長」

「なぁに? スコッツ君」

「実を言うと俺、アイツをぶち殺してやるつもりだったんですよ」


 悲しむデイジーに聞こえないようにスコットはボソッと呟く。


「でも、どうしてですかね……」

「なーに?」

「何か、気が変わりました。どういうわけか、今は()()()をぶち殺したい気分なんですよ」

「ふふん、奇遇ね。実は僕もなのよ」


 スコットの不機嫌そうな呟きにドロシーは不敵な笑みで返す。


 確かにこの二人にとってデーアハトはデイジーを攫った本日のトラブルの根源。云わばメインターゲットだ。


「気に入らないわね。嫌いになる前に勝手に死なれるのも、お話する前に誰かに殺されるのも……」

「でもそれ以上に社長はアレでしょ?」

「そうね、デイジーちゃんを悲しませる奴はもっと気に入らないわ」


 だが、デーアハトの死に悲しむデイジーを前にスコットとドロシーは本日のターゲットを静かに切り替えた。


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