13
「はわううううーっ!」
デーアハトの腕の中でデイジーはボロボロと涙を溢れさせる。
2体の鉄塊は保護区内で激しい戦闘を繰り広げ、静寂なる森は銃弾砲弾飛び交う凄惨な地獄へと成り果てた。
〈ガアアーッ、ガアアアーッ!〉
〈キョルルルルルッ!〉
〈クエエエエーッ!〉
保護区に生息する動物達は悲鳴を上げて逃げ惑う。そのどれもが貴重な優先保護動物種であり、一匹でも無断に狩猟もしくは殺傷すれば重罪は免れない……
ズドドドドドドドドッ!
だが、異界の戦闘民族にそんな事などわかるはずもない。
罪なき動物達は容赦なく戦闘に巻き込まれ、その銃弾の餌食になる。
「ああ……っ! アハト、此処で戦っちゃ駄目だ! 早くこの森から離れろ! もう空を飛んでもいいから!!」
〈そうしたいのは、山々だがっ!〉
〈アアアアアアアアッ!〉
赤い鉄塊、ラーカイムは右腕からチェーンソーに似たブレードを出してデーアハトに切りかかる。デーアハトもすぐに腕に収納されていたブレードでラーカイムと切り結んだ。
〈私から、逃げられると思ったのか……アハトオオオオオオオオオオッ!〉
〈く……ッ!〉
「うわああああっ!」
〈私が生き残るために、私の安寧の為に……お前が死ねぇぇぇぇぇぇっ!!〉
〈死ぬのは、貴様だぁぁッ!〉
デーアハトは声を荒らげながら肩部に隠された小型キャノンでラーカイムを砲撃。ラーカイムに着弾した砲弾は赤い装甲に深く食い込み、その身体を大きく吹き飛ばした。
〈グアアアアアアッ!〉
吹き飛んだラーカイムは木々をへし折りながら転げ回る。倒れた宿敵にトドメを刺すべく、デーアハトはブーストを点火して突撃した。
〈これで終わりだ、ラーカイム……ガッ!?〉
突然、デーアハトの体が風のロープに拘束される。バランスを崩したデーアハトは激しく転倒し、デイジーから手を離してしまった。
「うわああああっ!」
〈デ、デイジーッ!〉
「あああああ……あっ!?」
空に放り出されたデイジーを風がクッションのように包み込み、ゆっくりと地面に下ろす。
「あっ、えっ!? 何……」
「ふーっ、ギリギリセーフだな」
「ああっ……アンタは!」
デイジーの前に杖を構えたジェイムスが現れる。額に滲む汗を腕で拭い、彼は大きく息を吐いた。
〈……な、何だ! お前達は……っ!?〉
「よし、二体とも無力化しろ」
「了解!」
「リョウカイシマシタ!」
「了解です!」
ジェイムスに続いて参上した管理局の魔法使い達がデーアハトとラーカイムに向かって一斉に魔法を放つ。
「はっ! ま、待て! 待ってくれ!!」
〈ガ、ガガアアアアアアッ!〉
「おい、やめろ! 撃つな! あの黒いヤツはそんなに悪い奴じゃないんだよ!!」
「何言ってるんだ! アイツは民間人を多数殺傷した上に保護区で暴れてるんだぞ!? 君もあの化け物に捕まって危ないところだったろうが!!」
「ち、違うんだ! 聞いてくれ! アイツはただ……っ!!」
〈アアアアアアアッ!!〉
デイジーは必死に攻撃を止めるように言うが、ジェイムス達は決して攻撃の手を緩めない。
デイジーと違いデーアハトの事など何も知らない彼らにとって、アレはただの危険な鉄の塊にすぎない。
「やめろおおおおおおおっ!!」
彼らがデーアハト達に慈悲を与える理由など何処にもないのだ。
「や、やめろって言ってるだろっ!」
〈オオオオオオオオオオオオオッ!!〉
「!?」
激しい攻撃に晒されながらもラーカイムは雄叫びを上げて全身の装甲を展開する。
「や、やばっ!!」
「……! お前達、すぐに攻撃を止めて防御しろ!!」
〈邪魔をするなアアアアアアアアアアアアアアッ!!〉
────ヴァオッ!!
ラーカイムを中心として凄まじいエネルギー波が放たれる。
ジェイムスはデイジーを庇いながら防御障壁を発生させ、他の魔法使いも咄嗟に防御するがラーカイムから発生したエネルギー波は魔法防御ごと彼らを吹き飛ばした……
「うーん、ちょっと騒がしい事になってるわねー」
ビリビリと震える大気と地面から伝わる振動、そしてそう遠くない場所から聞こえた何かが弾けるような音にドロシーは表情を変える。
「……何でしょうね、今の音は」
「爆弾じゃないね。何か大きなエネルギーが炸裂したような感じだわ」
「ぁぁぁぁぁぁぁ……」
「……ん?」
頭上から聞こえてくる悲鳴。ふとデジャブを感じたスコットが少し後方に下がると、ちょうど目の前にデイジーが落下してきた。
「あああああああああっ!」
「ふおおおおおっ!?」
考えるよりも早く悪魔の腕が出現してデイジーを受け止める。
「あ、デイジーちゃん!」
「あわっ、あわわわわっ!? わわわっ!」
「デ、デイジーさん! 大丈夫ですか!?」
「はわわわっ……あっ! ス、スコット!?」
一瞬の出来事に理解が追いつかないデイジーは大いに取り乱して忙しなく周囲を見回す。心配して自分に声をかけるスコットの顔を見るや……
「うわぁぁぁぁーん! スコットォオオーッ!!」
泣きながらスコットに抱きついた。
「あらーっ」
「あぁぁぁぁぁん!」
「ちょっ、ちょっとデイジーさん! どうしたんですか!?」
「怖かったよぉおおおーっ!」
「お、落ち着いてください! ちょっと離れて! 社長が見てるから!!」
「コラ、スコッツ君。泣いてる女の子はもっとギュッと抱きしめてあげなきゃ駄目でしょ。ほら、僕を抱きしめた時くらいにー」
「社長ーっ!?」
「社長……はっ!?」
スコットの呟いた『社長』なるワードに反応してデイジーは正気を取り戻す。
「そ、そうだっ! 社長、ちょっとお願いがあるんです!!」
「ん、なぁに? デイジーちゃんも今夜のベッドに混ざりたいの??」
「ちょっといい加減にしてくださいよ、社長!? いつまで脳内ピンク色になってるんですか!」
「ベッドに混ぜてほしいのは山々ですけど! それよりも大事な話があるんですよ!!」
ドロシーが冗談交じりに言った台詞に真顔で返しつつ、デイジーは彼女にデーアハトの事を全て話した。