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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.18 「いつの日かなんて、決してやってこない」
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心さえ通じ合えば異世界人ともすぐに仲良し。優しい世界。

「うぉおおおおい! 何してんだ、お前えええええっ!?」


 ヘリコプターを撃墜しようとするデーアハトをデイジーは慌てて制止する。


〈あれは可愛くないだろ?〉

「それでも撃っちゃ駄目ぇぇぇぇ! もっと面倒な事になるからぁあー!!」

〈? 面倒な、事になりそうだから、殺しておこうと……思うんだが〉

「駄目だってぇぇー! 撃っちゃ駄目だってばぁぁーっ!!」


 デイジーは巨大な砲身にしがみつきながら必死になって説得する。


 この大砲から放たれる砲弾が命中すれば、如何に魔法使いであれどタダでは済まないだろう。最悪、この一発であのヘリコプターの乗員全員が死亡するかもしれない……


「撃ったらあいつら死んじゃうだろぉー!?」

〈そのつもり、だ。此処に来られる前に殺しておけば……〉

「バカヤロー! ここでそんなのぶっ放したら増援がわんさか来るに決まってんだろ! 場所もバレるし、もっと強い魔法使いが呼ばれるし、下手したらオレ達はこの森ごと消されちまうんだぞぉー!?」

〈ム、ムム……だが、どんどん近づいてくるぞ? このままだと奴らは此処に来る……〉

「それでも撃っちゃ駄目ぇぇぇぇー!」

〈……〉


 デイジーの必死な説得が功を奏したのか、デーアハトは渋々砲身を腕に戻す。


「お、おおっ! それでいいんだよ、偉いなお前!!」

〈だが、どうするんだ? アイツラは……俺たちに挨拶をしにくる訳じゃ、ないだろう? あの騒ぎを聞いて捕まえに来たんじゃないのか〉

「……まぁ、そうだろうな。だからすぐにこっから逃げるぞ! お前は人を沢山撃ったから見つかったら碌な目に遭わない!!」

〈じゃあ、やっぱり殺したほうが〉

「駄目だっつってんだろ! いいからオレについて来い!!」


 交戦する気満々のデーアハトの腕を掴んでデイジーは一緒に逃げるよう急かす。


 混乱していたとはいえ彼は何人も殺害しているので、もし管理局職員と交戦して彼らまで殺してしまったら間違いなく優先討伐対象にされる。

 そうなったらもうどうしようもない。


〈何処に、行くんだ?〉

「とりあえずこの森を出る! そんで事情を説明して社長の家で匿って貰うんだ! そこで一ヶ月も大人しくしてたら……皆お前の事なんて忘れるだろ!!」

〈……〉

「そしたらお前は自由だ! もう誰にも追われないし、お前も誰も殺さなくていい!!」

〈……そう上手く、いくか?〉

「知るか! 他にいい案あるなら言え! 誰も殺さない方向で!!」

〈無い、な。俺は 殺すことしか知らない……〉


 デーアハトはデイジーと森の奥へと進む。


 周囲から聞こえてくる見知らぬ生き物の声に驚き、何度も武器を出しそうになったがその度にデイジーに止められていた。



(……どうして、デイジーは撃たせてくれないんだろう。殺した方が静かになって安心できるのに)


(そうしたら、デイジーも怖がらずに済むのに……)



 自分と同じように動物の声に驚きながらも、デイジーは意地でもデーアハトに武器を使わせようとしない。

 相手を殺せば怖がる必要も、こうして逃げる必要ないのに。今まで敵対者を殺すことで安寧を得ていたデーアハトにはデイジーの行動の意味が理解出来なかった。



(……でも、何故だろう。デイジーの声を聞いていると……落ち着く)



 だが、デイジーの声を聞く度に磨り減った鉄の心は落ち着きを取り戻す。


 最初は殺そうと執拗に襲った相手の筈なのに。デーアハトはどうして彼と居ると心が落ち着くのかが気になっていた。

 彼の不可解な行動に何の意味があるのか、それがどんな結果を齎すのかを知りたくなった。


「あーもー、どこまで続くんだよ! この森は! さっきから不気味な声が聞こえてきてるし、ヤバい奴に襲われる前に早くここを出て社長に会わないと!!」

〈襲われても、デイジーは俺が守るよ〉

「どーも! でも、そうなる前に森を出るのが一番良いんだよ!!」

〈……デイジーは、誰かを殺したことがないのか?〉

「無いね! これからも殺すつもりはない!!」

〈自分を守るためでも?〉

「うん!」


 デイジーはデーアハトの問いに即答した。


〈……デイジーは、凄いな〉

「どーも!!」

〈俺は……沢山殺したよ。そうしないと、殺されていたから〉

「……知ってるよ。オレも見たからな」

〈もしもデイジーが俺だったら、とっくに死んでいたな〉

「う、うるせーよ! 笑いたきゃ笑え!!」

〈俺がデイジーだったら、あの親を殺して、お前を酷い目に遭わせた奴らもみんな殺してたな〉

「……お前が俺じゃなくて良かったよ」

〈は、はっ、本当にな〉


 デーアハトは遠い異界の地で生まれて初めて笑った。


〈俺はデイジーが、デイジーで居てくれて良かった〉


 彼を笑わせたのは産んでくれた両親でもなく、血を分けた兄弟でもなく、姿形も考え方もまるで違う……今日知り合ったばかりの異界の生き物だった。


「な、何だよ、それ! 言っておくけどな、オレはお前に殺されかけたのを忘れてないからな!? 別にこれからお前と仲良くなろうとも思ってないから!!」

〈そ、そうか……すまない。俺はてっきり……〉

「うるせー、謝んな! 黙ってオレに着いて来い!!」


 デイジーもあんな目に遭わせられながらデーアハトを嫌いになれなかった。



(殺されかけたのはムカつくけど、あそこまて怖がってたんなら仕方ねえよな! 殺された大家さんも性格悪くてセクハラや脅しばっかりする嫌な奴だったし! 他の奴は知らないけど!!)



 脳を繋げてデーアハトの半生を追体験し、その記憶と感情を共有したデイジーは彼に同情してしまっていたのだ。


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