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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.18 「いつの日かなんて、決してやってこない」
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9

「はー、空を飛ぶ変な鉄の塊かぁ。生き物かどうかはともかく優先討伐対象になるのは確実だな」


 ジェイムスは管理局の白いヘリコプターから憂鬱げに空をチェックしていた。


「どうだ、見つかったか?」

「いえ、全然……それらしい影もありません」

「ゼンゼンイナイ!」

「ていうか、そんな危ないのをヘリコプターで探して良いんですか?」

「そんな危ないのを街中で探すよりはマシだ。万が一の事があっても被害が俺達で済むし、空の上なら何処から撃たれてもわかるからな」


 ジェイムスの言葉に後輩達は息を呑む。


 問題の相手はアパートの壁をまるでチーズのように貫通して人間をミートソースに変える強力な武器で武装している。

 だが、この専用ヘリコプターは異界から得られた特殊合金と防御魔法障壁のあわせ技で最新鋭の戦車すら上回る防御力を誇る。


 本来なら()()()()()()()()()撃墜されない空飛ぶ重装甲車なのである。


「あ、でもヒュプノシアが出てきたら諦めろよ? 死ぬしかないから」

「……そんなのがポンポン出てこられると困ります」

「コマル!」

「……そういえばヒュプノシアってそこまで珍しい生き物でもないんですよね。異世界種(ファンタズマ)じゃなくて新動物(ニューボーン)扱いですし」

「能力の危険さはともかくその生態はとっくに解明されてるからな……」


 かつてのトラウマを垣間見てジェイムスは目頭を押さえる。


 あれ程の力を持ったヒュプノシアが少なくとも世界で十数体確認されている。

 そのうち9体はこのリンボ・シティの保護区(セイフ・ランド)で保護されており、都会の先にひっそりと広がる長閑な森の何処かでスヤスヤと眠らされている。


「あの森から雄叫びが聞こえてきたら、この街はおしまいだと思え」

「……」

「……ゴクリ」

「と、ところでこんなに探してるのに見つからないのはおかしいですね。街に逃げたなら騒ぎやニュースでわかるでしょうし、何処かで隠れているんでしょうか」

「出会い頭に人間をミートソースに変えるような奴が大人しく隠れていられるとは思えないがな……」


 この世界に現れて早速問題(トラブル)を起こしておきながら、今は完全に消息を絶っている。


 罪のない通行人を何人も殺害する凶暴な鉄の怪物が、見知らぬ異世界でここまで大人しくしていられるものだろうか?

 隠れるにしても目撃者によればその姿は4m以上もある鋼鉄の塊。どこに隠れても目立つ筈だ。この街の住人は姿が個性的な者ばかりだが、流石に4mを越すような巨体はそうそう居ない。


 そしてそんな巨体が誰にも気づかれずに隠れられる場所もそう多くはない……


「……そう言えば目撃者は北の方に飛んで行ったとか言っていたな」

「でしたね。でも途中から滅茶苦茶に飛び回って目で追えなくなったと……」

「……あのアパートから北に飛んで、それでいて人目に付きにくいような場所と言えばー……」



 ◇◇◇◇



「はー、そうかそうか。ここが保護区(セイフ・ランド)かー!」


 デイジーは森を進んだ先にあった看板を見てようやく自分が何処に居るのかを知った。


〈……セイフ・ランドって何だ?〉

「保護対象になってる貴重な動物や、()()()()()()()()()()()()()()()()()()が保護されてる場所だよ。基本的に関係者以外は立ち入り禁止」

〈そう、なのか。デイジーは関係者?〉

「ははは、まっさかー! バレたら罰金か豚箱行きだよー!!」


 デイジーは冷や汗を垂らしながら言う。


〈豚箱とは……処理場のようなところか?〉

「いや、そんなおっかない場所じゃねーよ! 悪いことした奴らがぶち込まれる寒い場所!!」

〈ふぅん……じゃあ、デイジーは豚箱に入るのか〉

「やだよ! そんなところ入りたくねえ! バレる前にさっさとここから逃げるぞ!!」


 デーアハトを連れてデイジーは保護区(セイフ・ランド)を出ようとする。

 モタモタしていたら管理局の巡回職員に捕まってしまう。最悪の場合はこの森に潜む危険な動物の餌にされてしまう。

 保護されている動物は生物学的に貴重な生き物ばかりであるが、それ以上に野放しにしてはいけない危険過ぎる動物も多い。


〈ギャアアアアアッ、ギャアッ、ギャアアアアー!〉

〈グルルルルルルルウッ!〉

〈ビョアアアアアアーッ!〉


 忘れられがちだが、異界の動物は此方側の大多数の生き物にとって脅威の侵略者なのである。


 保護区(セイフ・ランド)という名前は貴重な生き物を保護する場所であると同時に、この森の動物からリンボ・シティの住民達を保護する為の防衛線という意味も込められている。


「ううっ、やべえ! 何か嫌な予感がする! 早く出ようぜ!!」

〈……〉

「お、おい! 早く出るぞ! こんなところに長くは居られねえって!!」

〈いや、空を飛ぶアレは何だろうと、思ってな……〉

「そ、空? あ……」


 デーアハトの視線の先には、此方に向かってくる管理局のヘリコプターの姿があった。


「や、やや、やばい! 早く逃げるぞ! アレに見つかったらおしまいだ!!」

〈……そうか、ヤバいのか。それは困った、な〉

「な、何を呑気に言ってんだ! アレは異常管理局のヘリだよ! 乗ってるのは管理局の精鋭で」

〈じゃあ、こっちに来る前に、落としておくか〉

「へ?」

〈アレは、『可愛くない』だろう?〉


 そう言ってデーアハトは腕を巨大なキャノン砲に変形させ、戦車砲よりも大きな砲口をヘリコプターに向けた……


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