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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.18 「いつの日かなんて、決してやってこない」
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6

「誰もお前を殺そうとなんてしてねえよ! だから落ち着けっ!!」

〈ググ……ッ! 此処は何処だっ! あの穴はなんだ……っ!!〉

「此処はリンボ・シティ! お前を吸い込んだ穴は異界門(ゲイト)っていう異世界に繋がる門だ!!」

〈異世、界……っ!?〉

「そう! 異世界! 此処はもうお前が住んでた世界じゃない! 誰もお前を殺したいなんて思ってないよ!!」


 デイジーは鉄塊を落ち着かせようと必死に話しかける。


〈……し、信じられるか! お前も俺の敵なんだろっ!?〉

「ちげーよ! オレは……ふわああああああっ!!」


 しかしデイジーの言葉は混乱している彼には届かず、鉄塊はグルグルと身体を回転させながらジグザグ飛行。彼を振り落とそうとする。


「ひぃあああああああーっ!」

〈落ちろ、落ちろぉーっ!!〉

「んぎぎ……っ! 少しはオレの話を聞けよ、このわからず屋がぁっ!!」


 言葉による説得が無理だと悟り、デイジーは更なる奥の手を使う。


「そんなにオレの言葉が信じられないなら、()()()()()()()()っ!!」

〈……ガッ!?〉


 先程とは逆に今度は鉄塊にデイジーの記憶が流れ込む。


 同じようにデイジーの半生を追体験し、更にその思考や感情までも直接脳内に叩き込まれて彼は動揺する。


〈う、が……っ!!〉

「ぐっ、どうだ! これでもオレが敵だと思うか!?」

〈うぐぐぐ、ガッ……!〉


 デイジーに敵意が無い事を強引に証明されて鉄塊は回転を止め、飛行速度も徐々に落ちていく。


「よ、よし……! とりあえずオレの話を……っ!?」

〈ゲアアアアアッ!〉


 再度デイジーが説得を試みようとした時、空を飛んでいた3mを越すオウガラスが逞しい脚で彼を連れ去る。


〈ゲアアアッ! ゲアアアアアッ!!〉

「ふえええええっ!?」


 まさかの展開にデイジーは動転する。


 オウガラスは飛行する丸鳥や高層ビルの作業員を狙って襲いかかるやや危険な新動物(ニューボーン)だ。

 通行人を襲うこともあるが、大抵は返り討ちに遭うので餌場を空に移した今では滅多に地上に降りてこない……


〈ゲアアアアッ!!〉


 のだが、肉食の彼らにとってやはり人間は食べ応えのある餌に見えているらしい。今のデイジーのように無防備に縄張りに飛び込んでくる者はまさにご馳走。

 オウガラスは大きな嘴をグワッと開いて彼に食らいつこうとする。


「え、ちょっ! 待って、待ってぇ! オレなんて食べても美味しくないよォ!? 全然、お肉ないからァーっ!!」

〈ゲアアアアッ!〉

「や、やめっ! やめてええええーっ!!」



 ――――――――ガガガガンッ!



 デイジーを喰らおうとしたオウガラスは一瞬で蜂の巣にされる。


〈ゲ、ガッ!?〉

「はわあああっ!?」


 穴だらけになったオウガラスと共にデイジーは真っ逆さまに地上に落ちていく。


「いやあああああああーっ!!」


 一体、自分が何をしたと言うのか。


 目が覚めてから今この瞬間まで酷い目にしか遭っていない。

 住む部屋は無くなり、空から落ちてきた見知らぬ鉄塊に殺されかけ、スコットにゴミか何かのようにぶん投げられ、オウガラスの餌になりかけ、今は地面に向かって自由落下……


「何なのよ、もぉぉーっ!!」


 デイジーは泣いた。涙腺がブチ切れんばかりにボロボロと泣いた。


 もはや泣く以外にどうしろというのか。いっそこのまま落っこちて死んだ方が幸せなのではないかと思ってしまった。


「うううっ、もうやだぁ……オレもう疲れたぁ! さよなら、姐さん! あばよ、スコット! 先に死んでるからねーっ!!」


 だが、死を望むデイジーを何者かが空中でキャッチする。


「……ふえ?」

〈……〉

「うぐっ……なんだ、トドメを刺しに来たのか? いいよもう、好きにしろよ。オレもう疲れたぁ……!」


 涙でぐしゃぐしゃになったデイジーの顔を見ながら鉄塊はゆっくりと地面に降り立つ。


〈……すま、ん〉

「……ううっ?」

〈俺が、悪かった……すまん。俺は……〉


 鉄塊はデイジーを下ろして地べたに思い切り顔を押し付ける。


〈……本当に、すまなかった! 俺、俺は……〉

「……何だよ、殺さないのか?」

〈こ、殺す気のない相手まで、殺したくない……! すまない! すまない……本当に、何が起きたのかわからなくて……! て、敵だと……っ!!〉


 デイジーの心と記憶を読んだ鉄塊は何度も顔を打ち付けて謝罪する。


 彼から見てもデイジーの生い立ちは悲惨としか言いようがなかった。反撃できる力があるだけ自分はまだマシだったのだと痛感する程に。


「……もういいよ、何かもう……疲れたぁ!」


 一度に沢山の事が起こりすぎて感情が追いつかないデイジーは鉄塊の隣にゴロンと寝転がる。


「ここ何処だろ……リンボ・シティだよな?」


 周囲には草木が生い茂り、街中では耳にしないような様々な動物の声が聞こえてくる。

 隣で鉄塊がガンガンと顔を打ち付ける音が耳障りだが、街の喧騒とは無縁の穏やかな空気は傷ついたデイジーの心を癒していく。


「へぇ……こんな所もあったんだな。知らなかったー」

〈すまない、すまない、すまないっ!!〉

「なぁ、いい加減にやめてくれない? そろそろうざいんだけど」

〈……お、俺を、許してくれるのか?〉

「……」


 デイジーはむくっと起き上がり、泥だらけになった鉄塊を見て満面の笑みを浮かべる。


「……なわけねぇだろ、バカアアアアーッ!!」


 そして彼の顔を思いっきり蹴り、逆に自分の足を痛めてうううと呻きながら地面に蹲った……


思い込みは良くないですよね。

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