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見た目だけで判断しちゃ駄目よ。自分がそうなんだから。
「はわぁぁぁぁーっ!」
間一髪、ベランダから飛び降りたデイジーは悲鳴を上げながらアパートの2階から庭に落下する。
「ぁぁぁああああああっ!」
「何だぁ! 一体何が……ほぁぶぁっ!?」
だが運良く(運悪く)外の様子を見に庭へと躍り出た住人が生きたクッションになり、デイジーは何とか無事だった。
「アババ、アバババッ!」
「だぁああ! すみません、ゴメンナサイ! 許してっ!!」
「アバババババッ!」
下敷きになった住人は打ちどころが悪かったのか目と鼻からドス黒い血を流して痙攣している。
「あああっ! 大丈夫ですか!? しっかり……って大家さぁぁぁぁぁぁん!?」
「……」
「ああっ! ゴメンナサイィー! 悪気は無いんですぅー!!」
〈ビガーッ!〉
鉄の塊がデイジーを追って外に出る。
「ひいいいいいっ!?」
黄色く点滅する目はしっかりとデイジーの姿を捉え、再び彼に腕のガトリング砲を向ける。
〈ビガガガガガッ!〉
「ちょっ、待って! オレは何もしてないだろぉおーっ!?」
〈ガガガーッ!〉
「いやぁぁぁぁーっ!!」
よほど混乱しているのか鉄の塊は問答無用で発砲。泣きながら逃げるデイジーに向けて大口径の弾丸が放たれる。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅー! 死んじゃうぅーっ!あああああああ────っ!!」
近くで伸びていた大家は一瞬で赤い染みになり、連射される弾丸はたまたま通りかかった無関係な一般人の身体も容赦なく穿っていく……
「グワーッ!」
「ちょ、何……ンボァッ!」
「あんぎゃぁぁぁぁ────っ!」
「ば、馬鹿な! このディオニクス加藤がこんな……あうぅうううううん!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁ! ゴメンナサイ、ゴメンナサイィーっ!!」
次々と倒れていく無関係な皆さんにデイジーは号泣しながら謝罪する。
デイジーに罪はないのだが、スコット達に比べてまだ常識人よりの彼は目の前で散っていく尊い生命に良心が痛むばかりだった。
「何だよぉ、何だよぉ……っ! オレ何も悪いことしてないじゃないかぁっ! 何でこんな目にぃっ!!」
ゴォォォォ……
「うぅぅ……っ!?」
頭上から聞こえてくる音が気になって上を向くと、あの鉄の塊がロケットブースターを吹かして追いかけてきていた。
「ひゃぁあああああっ!!?」
鉄の塊は逃げるデイジーの道を塞ぐように眼前に着地。ブシューと青い煙を吐きながら背中から迫り出したブースターを格納してデイジーに迫る。
〈ブブブ……〉
「あわっ、あわわわわわ!!」
〈ギィイイイ、ィイイイイッ!〉
今度は逃すまいとガトリングをデイジーに突きつける。
(こんな、こんなのアリかよ……)
(オレの人生は、こんな終わり方なのかよ……!/)
流石のデイジーも逃げられないと察し、理不尽に彩られた半生が走馬灯のように脳内を駆け巡った。
(畜生、こんなことなら……あの時にっ!)
そしてあの時……スコットと初めて会った日。
入浴しているスコットの背中を流してやろうと浴場に突撃した時に『好きだ』と伝えて抱いてもらえば良かったと今際の際で後悔した……
「……って、出来るかぁぁぁーっ!!」
が、土壇場で後悔している自分にツッコミを入れる。
あの時点ではまだ彼に惹かれても恋心は抱いてなかったのだから。
「うわぁぁぁあああーっ!!」
デイジーは目から大粒涙をボロボロ零しながらヤケクソ気味に鉄の塊に突撃した。
〈ブブンッ!?〉
予想外の突撃に一瞬反応が鈍り、鉄の塊はデイジーの接近を許してしまう。
直ぐに太い腕で叩き潰そうとしたが、振り下ろされた腕が届く前にデイジーの手がその胴体に触れる。
「こんな所でぇぇえっ!」
デイジーの手が緑色に発光し、触れた部分から鉄の塊を覆うように光の筋が走る。
「死んでたまるかぁぁぁぁぁーっ!!」
〈ビビッ!? ビギッ、ギギギーーッ!!〉
デイジーの機械を操る異能力で鉄の塊は行動を封じられ、ガトリングに変形させた右腕を自分の身体に向ける。
〈ギギギギギィッ!〉
しかし発射寸前で砲塔を収納。格納したブースターを再び展開して点火する。
「え、ちょっ! 止まれよ! このオレの命令だぞッ!?」
〈ガギギギギ……ッ〉
「う、嘘だろ!? コイツ、オレの異能力に逆ら……ほわぁぁぁああああーっ!!」
鉄の塊はデイジーを振りほどこうとブースターを吹かせて飛び上がる。
「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!」
デイジーは鉄の塊の胴体にある窪みを掴んで必死にしがみつく。
その間も彼の異能力は絶えず発動しているのだが、鉄の塊は尚も彼の支配に抵抗して滅茶苦茶な機動で空を飛び回った。
〈ガガガガ、ガギググググーッ!〉
「あぁぁぁ、止まれ、止まれ、止まれぇぇえーっ!!」
〈ガァァァァーッ!〉
「止まっ、止まってよぉおおおーっ!?」
デイジーの異能力は機械であれば何でも支配下に置ける強力な能力だ。
どんなに巨大であろうと、例え異星人の超技術であろうと、それが機械である限り彼の能力には逆らえない。
「こ……コイツ、まさか……っ!」
〈ギギーッ!〉
「……ただの機械じゃないのかっ!?」
つまり行動を阻害されながらもデイジーの能力に抗うこの鉄の塊は、純粋な機械ではなく機械に見えるだけの生命体。
「そんなのアリかよぉぉーっ!?」
言うならば大部分が機械でありながらほぼ人間と同様の機能を備えるデイジーの同類。
人類とは全く異なる進化を辿った機械生命体とも言うべき異世界種、あるいは異人種であった。