25
「うふふふ、お帰りなさいませ」
ウォルターズ・ストレンジハウスに戻ったスコット達を満面の笑みでマリアが出迎えた。
「……どうも」
スコットはマリアの笑みに顔を引き攣らせる。未だに彼女への苦手意識は抜け切っておらず、特にその笑顔が嫌いで仕方なかった。
「ただいま、マリア」
「ふふふ、お留守番ご苦労様」
「お嬢様不在の間、お家を守るのが家政婦の務めですわ」
「ところでメリーはいい子にしてた?」
「うふふ、いい子にしてましたわよ。メリーちゃん、お嬢様が帰ってきましたよー」
マリアはメリーの名を呼んでパンパンと手を鳴らす。
〈めぺえーっ〉
家の奥からニックを背中に乗せたメリーが短い手足でパタパタ走りながらやって来る。
「おかえり、ドロシー」
「あ、メリー! ニック君もただいまー!!」
〈めぺ、めぺっ〉
「ふふふ、もう言葉がわかるようになったのね。偉いわ、メリー」
ドロシーとルナに頭を撫でられるとメリーは嬉しそうにめぱぁと口を裂かせる。
ちょこんと立ち上がるメリーの背中から落っこちたニックを拾い上げ、ドロシーはリビングへと向かった。
「僕達が居なくて寂しかった?」
「寂しくないと言えば嘘になるが……彼女達のお陰で退屈はしなかったよ」
「ヤモーッ!」
「おかえり、ドロシー。少しお邪魔させて貰ってるよ」
リビングではデモスとヤリヤモちゃんが紅茶片手にお菓子を食べながらくつろいでいた。
「あら、デモスちゃん。いらっしゃいー」
「うおっ、何でお前が!?」
「昨夜にお菓子を分けてくれと尋ねてきてね。夜にお菓子を食べるのは良くないと注意したんだが」
「もうお菓子が無いと生きていけない肉体になったのだ。はぐはぐはぐ」
「ヤモヤモッ」
「それにしても人間サイズのヤリヤモちゃんはちょっと不気味悪いですね……夢に出そう」
「ヤモッ!?」
スコットに不気味と言われてヤリヤモちゃんはショックを受ける。
「ヤモモ……」
「えー、何で? 可愛いじゃないの」
「私も中々いいと思う。ヤリヤモの中にはこれがないと落ち着かない者も一定数いてな、このヤリヤモもその一人だ」
「そ、そうなんだ……ごめん」
「ヤモッ」
「ところでドロシー達は何処に行っていたんだ?」
「ふうっ!?」
出来れば聞かれたくなかった事をデモスに言われてスコットは変な声を出す。更に悪寒を感じた彼が恐る恐るドロシーを見ると、彼女はニコッと微笑み……
「夜のお店でスコッツ君と楽しんでたのよ」
「ぶふうっ!!?」
「社長ォォォーッ!!」
ドロシーのどストレートな発言にニックは吹き出し、スコットは半泣きで叫ぶ。
「ヤモッ……」
「あ、そ、そうなんだ……ふぅん」
それを聞いたデモスはそっとお菓子を置いて紅茶を啜る。
表情にはあまり出ていないが物凄くショックを受けているようで、お気に入りのお菓子や紅茶の味すらわからなくなってしまっていた。
「何でド直球にバラしちゃうんですか!? 少しは誤魔化してくださいよぉ!!」
「えー、だって誤魔化す必要性を感じないし。ファミリーに隠し事はいけないのよ」
「そ、そうか……そうか……うん。私も薄々わかってはいたよ……、スコット君。どうか彼女を幸せにしてやってくれ」
「ニックさん!?」
「うふふふ、今夜は祝杯ですわね。アーサー君が腕によりをかけてご馳走を用意してくれますわ」
「はっはっ、お任せください。マリアさんに料理は任せられませんからな」
「ちょっとやめてくださいよぉぉーっ!」
「今日からスコット様を『若旦那様』とお呼びいたしましょうか」
「執事さぁぁーん!!」
パチパチと拍手しながら祝福してくる使用人二人にスコットは遂に落涙。老執事にすがりつきながら『やめてください』とひたすら繰り返した。
「ところでドロシー……具体的にはどのような楽しみ方を」
「デモスー! 何てこと聞くのぉぉー!?」
「んとねー、とにかくスコッツ君は胸が」
「やめてください! 死んでしまいます!!」
「ドロシーの胸を、とにかく……!?」
「む、胸か……そうか……そうか……!」
デモスは自分の平坦な胸を一瞥し、手で顔を覆って啜り泣く。
「う、うううう……っ!」
「ヤモーッ!」
「あ、デモスちゃんが!」
「あらあら」
「あらら、可哀想に。このままではデモス様が哀れですわ。スコット君、今夜は彼女も混ぜてあげなさい」
「ふざけんな!」
「……仕方ないね、今夜はデモスちゃんも一緒にしようか。僕そっくりな可愛い子が悲しむのは見たくないし」
「社長ォォォォォォ――――ッ!?」
スコットは叫んだ……叫ぶしかなかった。
(ああ! ああ、畜生! そりゃこうなるよ、馬鹿か俺は! 相手はあの社長だぞ!? 抱いたら面倒くさいことになるに決まってんじゃん!!)
そして何故こうなることはわかりきっていながら、彼女を愛してしまったのかと昨日の自分を責めた。
「大丈夫、愛人は五人までOKだから」
「からかうのもいい加減にしてください!」
「ふふふ」
ドロシーは顔を真っ赤にして喚くスコットに抱きつき、誰にも聞かれないよう彼の耳元で囁く。
「……それとも、今夜こそ二人きりでしちゃう?」
「……!」
「ふふん、冗談だよ。本気にしないで」
ドロシーと一線を越えてしまった事をスコットは後悔した。
(この人は……本当に、本当に……)
(いい女だなぁ、畜生!)
だがそれ以上に、一線を越えた事でより一層魅力を増した彼女に心から惹かれ始めていた……
Chapter.17「真実の愛の道は険しいもの!」end....