23
やられてから本気出すのがスコッツ君です。
『ア────ッ!!!』
「もー、盛り上がってるわねアイツ。もうちょっと静かにしなさいよ……」
自分の部屋まで聞こえてくるスコットの声に悶々とさせられながらレンはベッドのシーツに包まる。
あのまま残れば良かったかと僅かに悔やんだが、あそこまで見栄を張ってしまった以上は我慢するしかない。
「……ま、たまには一人も」
「一人の夜は寂しいわよ? レン??」
「ひゃああっ!?」
「あははっ、相変わらずいい声で驚くわねー」
そんなレンのすぐ隣でランカがくすくすと笑いながら声をかけた。
「ラ、ランカ! いつの間に!?」
「ずっとよ。レンの後ろについてこっそりとねー」
「……お客さんはどうしたのよ?」
「気持ちよくさせてあげたわ。アイツはすぐ満足しちゃうからツマンナイのよー」
ランカはそう言ってレンに抱きつき、その首筋に軽くキスをする。
「ふあっ、ちょ、ちょっと……」
「レンがスコットと寝るならまた混ぜてもらおうと思ってたんだけどねー……ふふふっ」
「もう、スコットとしたいなら混ぜてもらいなさいよ」
「ふふふ、気が変わったのよ。今夜はレンと寝るわ」
「ふふっ……馬鹿ねえ。あたしなんかに気を使わなくてもいいのに」
「でも、一人の夜は寂しいでしょ? レン姉ちゃん」
「あははっ、こういう時だけ姉ちゃん呼びしてー……興奮するじゃないのっ」
「興奮させたいのよ、ふふふっ!」
レンとランカは仲睦まじく笑い合いながらシーツの中で抱き合った。
少しして艶かしい嬌声が漏れ出したが、その声は誰にも聞かれること無く、しんとした月明かりの中で静かに溶けていった……
◇◇◇◇
ピョアピョア、ピョー、ピピピピッ
翌日。部屋の中に心地よい朝日と小鳥のさえずりが差し込む。
「……ああ、いい朝だなあ」
スコットは暖かな日差しに微笑みながら静かに泪を流した。
「んゅう……」
彼の隣でドロシーが幸せそうな寝息を立てる。
「お兄ちゃんは朝が好きなの?」
スコットを覆うシーツがモゾモゾと蠢き、中からメイが顔を覗かせる。
「うん、好きだったよ……」
「……わたしは嫌い。お日様が眩しいもの」
「ははは、メイちゃんは吸血鬼だからね……」
吸血鬼となったメイにはこの陽の光は毒らしい。シーツを被ったままスコットに抱きつき、うふふと幸せそうに笑った。
「俺って奴は、本当に……」
スコットはベッドに倒れ込み、スヤスヤと眠るドロシーの寝顔を見ながら
「はっはっ、くそったれめぇ……」
瞳からボロボロと輝く涙を流し、昨夜のあれやこれやを思い出す。
月明かりに映える金髪の魔女と夜の闇に溶ける黒髪の猫娘が声を揃えて喘ぐ姿を。
永遠に大人の身体に成れない二人の花を散らせる光景を。
(……ああ、くそぅ。でも、二人共 本当に可愛かったなあ)
自己嫌悪に浸りたくても、目の前の少女がそれを許してくれない。
彼女達を女として認識し、男女の営みに興じたのは紛れもない事実。それに圧され気味だったとはいえ彼女達の誘いに乗ったのは自分自身なのだから。
「お兄ちゃんは本当に凄いね」
「……ありがとう」
「……も、もう駄目だよ? わたしもう動けないから」
「何もしないよ!」
「本当に?」
メイはシーツの中から上目遣いで彼を見上げる。その瞳は期待半分、不安半分といった様子でスコットの精神に揺さぶりをかけてくる。
「何もしない!」
「ふふ……っ、残念」
「メイちゃん? あんまり俺を困らせない方がいいよ? 俺はもう手を出さないけど……」
青い悪魔の腕が伸びて窓のカーテンを閉める。朝日がしっかり遮られたのを確認してから悪魔はシーツをめくり、メイの尻尾をちょんと摘んだ。
「ひにゃあっ!?」
「中の悪魔が何するかわからないからね」
「にゃ、にゃううっ」
不意打ちを受けてぷるぷると震えるメイの反応を面白がるように悪魔は手をワキワキと動かし、上機嫌にサムズ・アップしながらスコットの中に戻っていった。
「悪魔さんは苦手だよ。お兄ちゃんより力が強いし、乱暴だもの……」
「ははは……俺も好きじゃあないな」
「んゅう……?」
メイの悲鳴が聞こえたのか、隣で寝息を立てていたドロシーも目を覚ます。
数回ほど眠気眼をパチパチと瞬きした後、スコットの顔を見ながら彼女は幸せそうに笑い……
「おはよう、スコット君。ゆうべは楽しんだね?」
とても満足気にそう言った。
「おはようございます、社長」
「おはよう、ドロシー。ぐっすり眠れた?」
「ん、ぐっすり眠れたよ。昨日はありがとうね」
ドロシーは笑顔でメイにお礼を言い、いそいそとスコットの腕に抱きつく。
「でも、この人は僕のだよ? 忘れないでね」
しかしすぐに挑発的な表情でメイに釘を刺した。
「やだ、このお店にいる間はわたしのお兄ちゃん。覚えておいて」
そんなドロシーに向かってメイは言い返す。二人は暫く睨み合っていたが、見兼ねたスコットに軽くキスをされるとすぐに機嫌を直して幸せそうに彼に抱きついた。
(……何で俺なんかを好きになったんだろうな、この人は)
(本当に、どうなっても知りませんよ?)
一線を越えてしまったスコットは観念し、ようやくドロシーの想いを受け止める覚悟を決めた。