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「あわわわわわ……」
「スコッツくん!」
「お兄ちゃん!」
「「今夜はどっちを選ぶの!!??」」
ヒートアップしたドロシーとメイは目を見開いてスコットに問いかける。
(どっちも選びたくないです!!)
それに対するスコットの答えはこれだ。
どちらもNO。彼は迷わなかった。
どちらを選んでも碌な目に合わないのはわかりきっていた。確かにあの大人しいメイが大胆に迫ってくるのは心揺さぶられるものがあるがこれはやり過ぎだ。
彼が求めるのは恋する乙女との熱い夜ではなく、気になる彼女との癒やしの夜……
「あはははっ、どっちを選ぶのー?」
だが、気になる彼女は完全に観戦モード。
スコットとどうしたいよりも、スコットが二人にどうされたいのかに興味が向いている。もはやレンと二人だけで夜を過ごすのは不可能だろう。
「うううう……っ!」
「スコッツくーん!」
「……こうなったら!」
頭に血が上っているとは言え、お酒が入っていない分メイはドロシーよりもまだ冷静な判断が出来た。
泥仕合になる前に肩紐に手をかけ、ランカに教えられた【最後の切り札】を使う決心をする。
(えっ、もう使っちゃうの? ちょっとメイ! もう少し粘りなさいよ!!)
客の相手をしながらメイを見守っていたランカは思わず突っ込んだ。
「お兄ちゃん……」
「な、何かな!?」
「お兄ちゃんも、本当は私の胸が気になってるよね?」
「はぇ!?」
メイの最後の切り札。それは小柄ながらも豊かに実った母性の象徴を活かした誘惑。単純ながら大多数の男性に効果的なテクニック。
「だって、ずーっと私の胸……見てたもの」
「むむっ!?」
「いやいやいやいや! 見てないよ!? 俺はメイちゃんの胸なんて見てないから!!」
「そんなに気になるなら……触ってもいいよ?」
メイはまだあどけなさが残る童顔で妖しく微笑み、胸元が大胆に開いたドレスの肩紐をずらす。
当然ながらブラは着けていない。
「ほわぁぁぁぁあーっ!?」
覚悟を決めたメイの強烈な一撃にスコットは絶叫。彼の注意は完全にメイに向き、もう少しでその豊かな膨らみが零れ落ちそうになったところで……
「ふぎゃーっ!」
「おぶふぅ!?」
ドロシーはスコットの顔を掴んで強引にこちらを向かせる。ゴキリという嫌な音が店内に響き渡り、スコットは大きく喀血した。
「!?」
「アバババッ!」
「むねならー、ぼくもまけてないのよっ!!」
ぽよんっ。
スコットの首を強引に曲げたまま彼の顔を自分の胸に押し付ける。酔って自制心が吹き飛んだドロシーはもう何でもアリだった。
「ふふん、ぼくのかちね」
「むああーっ!?」
「まっ、まだよ! 負けてないもん!!」
メイも負けじとスコットの腕を取って自分の胸元に突っ込む。
「ふやっ!?」
「んっ、私の胸の方が大きいし柔らかいもの!」
「そ、そんなことない! ぼくの胸の方がいいもん! ねぇ、スコッツくん!?」
「ほわわわわわわーっ!」
お互いの意地とプライドを賭けた女の戦い。
スコットは為す術もなく完封され、既にかなりの量のお酒を飲んでいた事も手伝って徐々に理性が薄れていく。
(ま、まずい……! このままじゃ、飛ぶ! 飛んでしまう……!!)
もしこの状況で意識が飛んでしまえば一巻の終わりだ。
いつぞやのように理性なき乳揉み魔が降臨し、彼は出禁を食らってしまうだろう。
お楽しみ部屋以外でのお遊びは如何な上客であろうと全面禁止であり、それを破るとメンバーズカードを没収されるからだ。
「むきゃーっ!」
「にゃあーっ!」
「ほあああああ!」
「……ちょ、ちょっと二人共! 流石にやり過ぎよ!!」
流石のレンもようやく事態の深刻さを悟って彼らを止めに入る。
「こら! いい加減に……」
「何盛り上がってんだ、お前らーっ!!」
「!?」
そこに燃料を注入して理性のタガが外れたデイジーがやって来る。
「はっ、デイジーさん!? よ、良かった……!」
「なによ、おまえー! じゃましないで!!」
「ふーっ!」
「こうなった理由は後で話しますから助けてください! お願いします! お願いしますぅー!!」
スコットは藁にもすがる思いでデイジーに助けを求める。
「スコットは……スコットはオレのもんだーっ!!」
「はぁぁぁぁぁ────!?」
が、その切なる願いはデイジーには届かなかった。
ドロシーのように出来上がってしまった彼は内なる衝動に任せてダイブ。黒猫と金獅子の戦いに電撃参戦した。
「ふやああああーっ!?」
「な、何よお前! お兄ちゃんに触らないでっ!!」
「お前のことが好きだったんだよ!」
「ほぎゃあああああ!?」
まさかの告白にスコットの精神は更に更に追い詰められる。
デイジーも豊かに実った胸をこれでもかとスコットに押し付け、今まで胸にしまい込んでいた感情を包み隠さずぶちまけた。
「お前に助けられた時からときめいてたんだよ、チクショー! 男なのに男のくせにオレをドキドキさせやがってバカヤロー! 責任取れ、バカヤロー! 責任取ってオレを女にしろボケカスゥー!!」
「だめえええ! スコッツくんはぼくのー! 社長命令よー! ぼくのものー!!」
「やだあああ! お兄ちゃんは、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなの! 誰にも渡さないの! 誰にもーっ!!」
「デイジイィ────ッ!!」
混沌極まるスコット席にアルマまで乱入する。
「なにしてんだお前ーっ! お前にはあたしが居るだろぉー!?」
「何だ、お前!? 邪魔すんな! オレはスコットとひとつになるんだー!!」
「やだぁぁーっ! デイジーはあたしのだぁー!!」
アルマは泣きながらデイジーにしがみついてスコットから引き剥がし、そのまま後ろに倒れ込んで羽交い絞めにする。
「は、放せぇーっ! スコットォォォーッ!!」
「放さねぇー! 絶対に放さねーぞー! お前はあたしのんだぁーっ!!」
「やだぁぁぁぁーっ!」
アルマから逃れようとデイジーはジタバタともがく。一方のスコットは依然としてドロシーとメイに揉みくちゃにされており、既に意識は朦朧としていた。
(……どうして、こうなるんだ……どうして……)
(俺は、この店でのんびり……お酒を飲んで、傷を癒やしたかっただけなのに……!!)
ドロシーの生意気バストとメイの悩殺バディ。二つの魅惑の膨らみにサンドイッチされながらスコットは久しぶりにこの世の理不尽を恨んだ。