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MONSTERと紅茶とコーラを混ぜれば究極のドリンクが生まれるのでは?
そんな事を考えながら書いたお話がこちらになります。
ダディ、ママン、ケニー。お元気ですか、僕は元気です。
この街に転属する事になった時、正直に言うと嬉しかったんだ。本当だよ。
悪い噂は当然耳に入っていたけど、僕にとっては本当に憧れの街でもあったんだ。
もしかしたら、もしかすると、この街でなら……
そう思っていた時期が、僕にもありました。
僕の今の気持ちを正直に言います、帰りたいです。ダディ、ママン、帰りたいです。
それでも、もう少しだけ頑張ってみようと思います。僕にもきっと、この街で出来る事があると思いたいから。
ダディ、ママン、ケニー。リュークはこの街で何とか生きています……
ジリリリリン、ジリリリリリリン……!
音量を最大に設定した目覚ましのアラームで目が覚めた。
「……うぅんっ」
最近、目覚めが悪いから最大にしておかないと効かないんだ。
本当に泥のように眠ってしまって、アラームが鳴っていても聞こえないまま寝てしまう事が増えてきたくらいだから。
「……ぐぐぐっ、動け。動くんだ、俺のボディ……!」
しっかり寝ているはずなのに、疲労感が全く取れない。うぐぐ、これは辛いぞ。
「うおおおおおっ!!」
うつ伏せで寝ている身体を起こそうと、両腕に力を込めて勢いよく飛び起きる。
「あ、痛っ。イタタタタッ!!」
すると両肩と腰に鋭い痛みが襲った。あまりの痛みに身悶えし、そのままバランスを崩して安物のベッドから転げ落ちる。
「……今日も、最悪だ」
ふらつく体を起こし、とりあえず背伸びをした。
「あぅふっ!」
すると今度は背中に痛みが走った……どこまでボロボロになっているんだ、この身体は。
「時間は……7時前か。コーヒーを飲む時間くらいはあるな」
俺が住んでいるのはリンボ・シティ12番街区にある安アパートの一室だ。あまり物を買ったりしないから散らかってはいないけど、これはこれで殺風景かもしれない。
「うーん、でもまぁ……いいか」
「ー! ーッ!!」
「────ッ!!」
「ん?」
段々と頭が冴えてきたところで外が騒がしい事に気づいた。といっても、この街で静かな朝を迎えるというのは転勤してから一度も無かったんだけど。
つまり毎朝何かしらが起きている。異人同士の喧嘩なんてまだカワイイ方。酷い時は朝から光線銃で撃ち合ってたり、化け物みたいなペットが暴れて人が食べられたり……
ひどい街だろう? 悲しいかな、それに段々と慣れちゃってる自分がいるんだ。
「さて、今日は何が起きてるのかな……」
朝から憂鬱な気持ちを抱えて窓のカーテンを開ける……すると外では
「ダァァァァァミアアアアアアアアアアン! もうだめよおおお! 私たち、これでおしまいよ!!」
「落ち着くんだ、ベレース! 話せばわかる! 誤解なんだ、僕は浮気なんてしてない!!」
「嘘つきぃ! そんな言葉信じないわぁあああ! 私とは遊びだったのねぇえええええええ!!」
ええと、何やらおっかないチェーンソーみたいな凶器を振り回す猫耳の異人女性と、人間男性の異種族カップルがアパートの前の道路で口論しているね。
あのおっかないもので何をしようというんだろう……物凄い嫌な予感がするぞ。
ここは、警察関係者として何とか説得を
「聞いてくれ! 僕は君を世界で一番愛しているんだよ! ベレェエエエエース!!」
「信じられないわダミアァァァァァン、ゴゥトゥヘェェェェェェェェル!!」
完全にヒステリーに陥った女性は男性の言葉に耳を貸さず、猛烈な音を立てるチェーンソーみたいな凶器で男の右肩に斬りかかった。
「あびゃああああああああああああああ!」
「愛しているわ、ダミァァァァアアアアアン!」
「わぎゃぁぁぁぁあああああああああ────ッ!!」
凄まじい絶叫と血をまき散らしながら男の体は右肩からバッサリと両断され、司令塔とサヨナラした右肩から下の部分は数歩後ろに下がった後に倒れた……
「……オォウ」
聞いてよママン、この街に来てから嫌な予感が過ぎったら大体的中してしまうようになってしまったんだ……何も嬉しくないよママン。
「あぁああああああ! ダミアアアアン!!」
加害者の女性べレースさんはというと、自分でぶち殺したダミアンさんに縋り付いて泣いている。
さて、この状況どこから突っ込めばいいんだ?
雲一つない爽やかな快晴、そして素敵な朝日が注ぐほっこりした朝7時に大きな道のど真ん中で起きた悲惨な殺人事件。
目撃者は多数、てか道を歩いてた通行人全員が目撃者。通行人の半数は悲鳴は上げているものの、残り半数はとくに気にも留めずにスルーしている。おまけに誰も通報しない……
本当に酷い所だよ、この街は。
「朝から最悪だよ、ママン」
わずか数秒の間に色んな感情が頭の中を突き抜けていったが、当然このまま見過ごす訳にはいかない。あのヒステリックで凶暴な異人女性を逮捕しなければ。
俺は急いで着替えを済まし、部屋を飛び出ようとした……
「酷いじゃないか、ベレース! いくら僕が不死身だからって切られると痛いんだぞ!!」
んだけど、誰かの声が聞こえた気がした。
この声は確かさっきぶった切られたダミアンさん(故人)の声だ。再び嫌な予感がしたので窓の外に視線を向けると……
「だってダミアァアアアン! 貴方が悪いのよおおおおおお!!」
「僕の話を聞けって! 浮気なんて絶対しないよ!!」
どういうわけか右肩から上が無くなっていた筈のボディから、新しいパーツが生えてきたダミアンさんがベレースさんを説得していた。
「……」
足元には先ほど切り落とされたダミアンさんの右肩から上部分が転がっている……何だこの状況。
「ダミァアアアアアン! 私たちはもうおしまいよおおおおおおおー!!」
「僕が愛しているのは君だブォッ!」
べレースさんは復活したダミアンさんの首をチェーンソーで刎ね飛ばした。
首から血を噴き出して倒れるダミアンさん……そして彼の死体に縋り付いて泣くベレースさん。
でも、少しするとダミアンさんの体が痙攣し出し、首元から何かが生えてくる。血まみれの丸くて小さな塊は徐々に大きくなり、やがて……
「だからさぁ! 君は本当に話を聞かないな!!」
「だってぇええええ! 貴方が昨日、女の人と仲良くお話しているのを見たのよおおおおお!!」
ダミアンさんの新しい頭が出来上がった。
あーもー、どうしよう。物凄い嫌なものを見てしまったぞ……また暫く赤身肉が食べられそうにない。
「あれはいつものシギラダ乳屋さんだよ! いい加減顔を覚えろよ!!」
「ダミアンはミルク嫌いじゃないのぉおお!」
「だから断ってたんじゃないか!」
「嘘にしては見苦しいわダミアァアアン! やっぱり死んでぇえええええ!!」
あ、もう時間だ。警察署に向かわないと……後ろから何かが聞こえたけど多分気のせいだ。
俺は着替えを済まし、洗顔と軽い歯磨きをして部屋を出る。
「あ、おはようございます田中さん。お出かけですか?」
外に出るとお隣に住んでいるダカラージャ・田中・モヘスさん(200歳。男性)とばったり会った。
「ああ、ニコールソンさん。おはよう、これから仕事ですよ」
田中さんも丁度これから出勤のようだ。上半身こそスーツを着こなした黒髪のナイスミドルだけど、下半身が鹿に似た4足獣の姿になっている。
「そうですかー、俺もですよ。じゃあ……気をつけてくださいね」
「ははは、お互いにね」
笑顔で田中さんと軽く挨拶を交わし、俺はリンボ・シティ警察署へと向かう。
「あー、今日も天気だけは良いなー……絶好の何とやらだ」
いつものように『今日こそ死んでしまうんじゃないか』という不安を抱きながらね。
chapter.16 「優しさは、自分のために」begins....
実際に作ってみたらそこまで悪くなかったですよ。最初の一口目と二口目までは。