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豊満スタイルのエルフの騎士が単独行動……それ即ちアレですよね。当然、心得ております。
「そうして、アルマの裸を見たスコットくんはー」
「思ってたよりも滅茶苦茶詳細に話しますね!?」
昨日に起きた出来事について想像以上に懇切丁寧に説明するドロシーに思わずスコットはツッコミを入れる。
「えー、だってちゃんと細かく説明してあげないとスコッツ君みたいな今時の子は納得しないだろうしー」
「いやいや、もうちょっと肝心なとこだけに絞ってくれてもいいんじゃないですか!? そんなに長々と説明されても困りますよ!」
「むー」
スコットの言葉にカチンと来たのか、ドロシーはムッとした表情になる。
「……そして君はその夜、歓迎会で羽目を外しすぎてガブガブとお酒を飲んでルナと熱い夜を過ごした。これでいいかしら?」
「ごめんなさい! すいません! 許してください! 俺が、俺が悪かったです!!」
ドロシーは先程までとは打って変わって冷たい声色で淡々と昨晩の肝心なところだけを話す。
スコットは即座に土下座し、深々と頭を下げて自分の軽率な発言を謝罪した。
「……まぁ、昼間にも色々と面白いやりとりがあったんだけどね。僕の裸を見てウワァァァァってするスコッツ君とか、マリアに悪魔のことを聞かれてモジモジするスコッツ君とか、下着姿のアルマにお近づきの印だってチュッチュされるスコッツ君とかー」
「……そこは聞きたくないです」
「とりあえず昼食を食べて、夕方まで僕たちと談笑したりしながらスコッツ君は時間を潰してたのよ」
「……あ、何となく思い出してきました。確か俺が趣味の旅行のことを話したらマリアさんがやけに食いついて……」
「うふふ、いい趣味してますわ。スコッツ君は」
そう言ってくすくすと笑いながらマリアはスコットを見る。
「え、えーと……そこまで自慢できる趣味でも」
「そうそう、一気にマリアと仲良くなったのよね。それでちょっとずつスコッツ君が打ち解けてきたところで、血塗れになったブリちゃんが帰ってきたんだよ」
「何があったんですか!?」
「あ、そこからは覚えてないのね」
流石に説明が必要だと思ったドロシーは紅茶を一口飲んでまた語りだした……
「みんな、心配かけて済まない! 今、私が帰ってきたぞ!!」
午後6時を過ぎた頃、ディナーの準備に向かった使用人達と入れ違うようにして血塗れのブリジットが帰還した。
「うわぁぁぁあっ! ど、どうしたんですか、その血ぃぃー!?」
「あ、おかえりブリちゃん。お疲れ様ー」
「おかえりなさい、ブリジット」
「帰ってくんなよ、乳女。うーわ、何だよその格好は。きったねーの」
「何でみんなそんなに冷静なんですか!? ちょっとはあの人を心配しましょうよ!!」
一体、彼女に何があったというのか。
綺麗な髪と目のやりどころに困るウェイトレス衣装には赤い鮮血が飛び散り、よく見れば肩にはナニカの肉片らしきものが付着している。
「いや、私もよくわかっていないんだが……気がつけば両腕を縛られた状態で見知らぬ大きな車に乗せられていてな。下卑た笑みを浮かべる男共にベタベタと体中を弄られていたのだ」
「何があったんだよ!?」
「あー、それは大変ね。お気の毒にー」
「いやいやいや、アンタが置き去りにしたせいだよ!? 何、他人事みたいに優雅に紅茶飲んでんですか!!」
ブリジットは腕を組んで淡々と語りだす。
そんな不幸に見舞われた彼女を見ても特に気にする素振りも見せないドロシーに思わずスコットは突っかかる。
「そのまま流れるような手付きで服を脱がされ、顕になった私の胸を一人の大柄な男が」
「アンタも何でそんなに平然としてんの!? 滅茶苦茶酷い目にあってるよね! 明らかにレイプされる5秒前だよね!?」
「まぁ、男共は私の聖なる剣で細切れになったわけだが」
くねくねモードから目を覚ませば体を縛られてあわや貞操の危機という状況まで追いやられていたブリジットだが、特に顔色も変えずに反射的に大柄な男の急所を蹴り上げる。
「ブギャアアアアアッ!」
「あ、兄貴ぃー!?」
「て、てめぇ! 何しやがっ」
豚のような悲鳴をあげて蹲る大男を踏みつけ、慌てる数名の男共を柔軟な体を活かした回し蹴りで纏めて一蹴する。
そして車両内部を瞬時に見回して愛用の剣を見つけると、その柄を口で咥えて一旦距離を取った。
「……なんらここふぁ。ひさらはられら?」
剣を咥えたブリジッドは見知らぬ男達を睨みつけながら言う。
「プ、プッギギギギ!」
「あっ、兄貴! 大丈夫ですよ! 兄貴のアレはまだ潰れてません! 元気ですよ!!」
「このっ……クソアマが! 大人しくしてりゃ可愛がってやったのに!!」
「もういい、大人しくなるまでやっちまえ! 死んでさえなけりゃ売りもんになる!!」
彼女を攫った異人の男達はナイフを取り出し、殺気立ちながらブリジッドに迫る。
「……ほむ、ことはわつうりぬか。ひかたなひ」
ブリジッドはそう言って激しく首を振り、鞘を男達目掛けて勢いよく剣から抜き放つ。
「おっと、危ねえな!」
「ははっ、ハズレー! 惜しかったな!!」
「プギギ……この女ァ、ブッッ犯すっ!!」
だが男たちは飛んでくる鞘をひらりと躱す。
急所を蹴られた大男は目を血走らせながらブリジッドを睨み、今まさに彼女を乱暴に犯そうとするが……
「……いんへにほ、へふはーら」
ブリジットがそう呟くと細い刀身はぼんやりと輝き出す。
すると彼女の周りに円陣を組むように小さな青い剣が浮かび上がり……
「ひよちぃーなぇ」
その掛け声と共に、ブリジットの周囲に浮かぶ青い剣は丸鋸のように高速で回転した。
ギョリ、ギョリギョリギョリギョリッ、ギョガガガガガガッ
彼女を乗せた茶色の車は内部から切り裂かれ、血と悲鳴と肉片を人気の少ない路地一面に撒き散らした。
それは勿論、酷い目に遭います。襲ったほうが。