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色々と辛い事がありましたが、何とか投稿できました。
紅茶が無ければ危なかった(〃´ω`〃)旦~
「ぶぇっくし! ああ、寒い!!」
冷たい風に吹かれながら街を歩くエイトは大きなくしゃみをした。
現在の気温は4℃。紳士服の上に薄いジャンパーを羽織っただけでは少々厳しい温度だ。
「しっかし、何だか今日の街は様子が変だな……」
特に事件や事故が起きている訳でもないのに道路を複数台のパトカーが往来し、異常管理局所属の魔法使いが街中を巡回している。
人通りも少なく、何やら嫌な予感が彼の中で膨らんでいった。
この街でトラブルに巻き込まれるのはもう慣れたものだが、逆に街が静まり返るという事はそうそうなかったからだ。
「なぁ、何かあったのか?」
「……」
街を巡回している魔法使いにエイトは声をかけるが、相手は何も答えずに歩み去った。
「冷てーなぁおい、少しくらい話してくれてもいいじゃないかよ」
不満げな顔でボヤくと、エイトは職場に向かった。
彼は13番街区にあるバーで働いており、店員の殆どは異人だが上手く馴染んでいるらしい。
この街で住んでいる以上、定期的に面倒くさい輩に絡まれてしまうがそれらの対処にも大分慣れてきたようだ。
◇◇◇◇
13番街区 マッケンジー邸前にて
クレイン氏が生前家族と共に暮らしていた立派な屋敷の前には多数のパトカーが停められ、警官隊が銃を手に険しい表情で屋敷を包囲している。
管理局から派遣された数人の魔法使いの姿もあった。
「警部、これは一体……?」
「ああ、リュークは初めてだったな」
「この屋敷、誰か住んでるんですか?」
「いや、誰もいない。中に住んでいたマッケンジー家は既に亡くなっている」
「じゃあ、屋敷で変な奴が立て篭りを?」
「それも違うな」
屋敷の前で拳銃を構えるアレックス警部にリュークは聞いた。
屋敷の中に人の気配はない。屋敷の住人も既に他界しているというのにこの厳戒態勢だ。
この街に来てまだ一年も経っておらず、何も知らされていない彼は何故同僚の警官達や魔法使いが緊張の面持ちで屋敷を包囲しているのか見当もつかなかった。
「何なんですか……」
「……80年前に此処で起きた【マッケンジー家獣害事件】を知っているか?」
「……初耳です」
「だよなぁ、まだ新入りだもんな。軽く説明すると80年前、この屋敷の前に異界門が発生したんだ」
「……」
「そして、そこから一匹の怪物が現れた。異界から現れたそいつはこの屋敷に侵入して……中にいたマッケンジー家の皆を襲いやがった」
警部は重苦しい表情で説明した。それを聞いていた刑事は一家を襲った突然の不幸に胸を痛めたが、それと同時に至極真っ当な疑問が浮かんだ。
「え、でも80年前の事件でしょ? まさかその怪物が」
「いや、そいつは駆けつけた魔女に始末された」
「え? それじゃあ事件は解決したんじゃ……」
「それがな……ってようやく来やがったか」
マッケンジー邸前に黒塗りの高級車が到着する。
車から降りた例の魔女ことドロシーはニコッと笑い、警部達に向かって嬉しそうに手を振った。
「……」
「何も言うな。何が言いたいのかはわかるが、何も言うな」
このシリアスな雰囲気の中でも、天使のような笑顔で愛嬌を振り撒き周囲を困惑させる彼女に二人は眉間にシワを寄せる。
「それでは社長、お気をつけて」
「ありがとう、アーサー。今日の迎えは要らないわ、歩いて帰るから」
「かしこまりました、社長」
ドロシーの意を汲んで老執事は車を発進させる。
「ふふふっ」
ドロシーは自分を睨む警官達に満面の笑みを浮かべながら歩み寄り、憎たらしい程に愛らしい声で言った。
「待たせたかしら? 警部」
「……正直に言っていいか?」
「ううん、後に聞くわ。しかし大変ね、昨日の『爆弾花騒ぎ』が解決して一息ついた後にこれだもの……同情するよ」
「何で昨日来なかったの?」
「呼ばなかったのは君じゃないの」
ドロシーの嫌味ったらしい返しに警部は歯軋りをしながら睨みつける。リューク刑事は二人のやり取りを微妙な表情で見守っていた。
「あ、刑事君じゃない」
リュークが自分に向ける視線に気付いたのか、ドロシーは彼と目を合わせた。
すると少し気の毒そうな表情を浮かべた後、警部に話しかける。
「あの子も連れてきたの……、可哀想なことをするんだね警部」
「何なんですか一体、可哀想って」
「コイツも知らなきゃいけないだろ、今を避けてもどうせ来年も同じことの繰り返しだ……」
「そうね。気を強く持ってね、刑事君」
「いい加減に話してくださいよ、この屋敷で何が起きるんですか!!」
ドロシーは腕時計を見て時刻を確認する。
「……あと5分もすればわかるよ」
あと5分で 10時30分 になる……毎年11月15日、その時刻になるとこの屋敷にとある異常事態が起こるのだ。
「わからないほうが、君は幸せかもしれないけどね」
ドロシーはそう言い残すと、誰も居ない筈の屋敷に歩いていった。
派遣された魔法使い達はドロシーを見て警戒するが、深呼吸をして気を落ち着かせて彼女を迎え入れる。
「キッド君はお休み?」
「ジェイムスさんは街を巡回中です、万が一の事も有り得ますので」
「そうね。君たちが彼女を逃がさないとも限らないもの」
「……そのための訓練は受けてきました」
「なら安心ね。期待しているわ、若手君」
ドロシーは名も知らない茶髪の若い魔法使いに笑顔でエールを送る。
「……!」
送られた方からすればこの上ない嫌がらせでしかないが、若い魔法使いはドロシーの眼を見て息を飲んだ。
彼女は笑顔だったが、その眼は真剣そのものだったのだから……。
「さて、時間ね。早く屋敷に」
「ッ!!」
その時だった。周囲の空気が一瞬にして変わり、ドロシーが話しかけていた魔法使いの表情が凍りつく。
「……ああ、もう」
彼の表情を見て、ドロシーは何が起きたのか一瞬で理解した。
「け、警部……!」
「おい、冗談だろ……こんな時に、異界門が開きやがった!!」
警部は思わず毒づいた。
彼らのすぐ傍、正に目と鼻の先に突如として異界門が発生したのだ。