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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.3 「溢れた酒を見て泣いちゃえよ」
34/542

4

「そうそう、ここよ。この店がいいのよ」


 車は13番街区の大道路を進んだ先にある喫茶店の前で停まる。


「じゃあ、アーサーは車で待ってて。スコッ()君は僕と一緒に来て」

「かしこまりました」

「……」


 老執事を残してドロシーはスコットと車を降りる。


「この店まで被害が広がらなくて良かったよ」

「ここは……?」

「この店はビッグバード。僕の友達が経営してるお店よ」


 白い看板に大きな青い鳥のマークが映えるシックな喫茶店。

 ドロシーの友人が経営するというその店を見てスコットは不思議と心が落ち着いた。


「……何だか見ていると落ち着きますね」

「でしょう? 店長が外観にも拘って建てた彼の努力の結晶だからね。店長も外の世界(アウトサイド)出身なんだよ」

「そうなんですか!?」

「そうだよ。だから昔にお世話になった外の世界のお店を再現してるんだよ」


 なるほど……とスコットは納得する。


「じゃあ、入ろうか。この店の料理は絶品だよー」


 ドロシーはニコニコしながらドアを開けて入店する。


「はーい、たっくん元気ー? 今日は危なかったねー、ここも壊されちゃうんじゃないかってヒヤヒヤしちゃったよ」


 スコォォーン


 入店した彼女の顔面から数センチ隣に切れ味の良さそうな出刃包丁が投げつけられる。


「どの面下げて来やがった性悪ヴィッチがコラァアアー! さっさと失せろぉ! ぶち殺すぞ、オアアー!?」


 大きな青い両目を信号機のように点灯させながら、サイボーグに改造されたゴリラのような容貌の店長が怒鳴り散らす。


「あはははー、そんなに怒らないでー! 怖いよー!」

「そのムカつく笑顔をやめねーか、ヴィッチ! 何! 死にたいの!? 殺されたいの!!?」

「死にたくないし、殺されたくないよー。そんなに怒らないでよ、たっくん」

「たぁっくぅうーん!? 誰のことだおどれぁぁぁあああー! 俺のことか!? 俺のことだったらお前、お前死ゾ! ブっっ死なすぞ!?」


 身長2m近いサイボーグ染みた巨漢が怒り心頭でドロシーに掴みかかり、今にも彼女を磨り潰さんとしているかのように両腕をキリキリと鳴らす。


「わー、やめてー! 僕は友達だよ!? そんなに怒らないでよー!!」

「誰が友達じゃおどぅるるぁああー!?」

「ちょっ、ちょっと! 落ち着いてください!!」


 思わずスコットはドロシーを掴む店長の腕に触れて彼を制止する。


「え、ええと! 二人の関係がどんなのかは知りませんけど! ここは落ち着いて……!!」

「誰だ、お前!?」

「えーと、俺は」

「彼はスコッ()くんだよ、タクロー君。僕たちの新しいファミリーになった外の世界から来た子でー」


「た、タクロウさん! 駄目! 落ち着いて!!」


 厨房から店長の名を呼びながらエプロン姿の少女が慌てて飛び出してくる。


「はっ!」

「落ち着いて! 落ち着いてください!!」

「ご、ごめん……つい!」


 少女に止められた途端に店長は大人しくなり、ドロシーから手を離す。


「ご、ごめんなさい! いつもこの人がご迷惑を……!!」

「あははー、気にしてないよアトリちゃん。いつものことだからねー」

「あー、殴りたい」

「だ、駄目よ! 絶対に駄目!!」

「……わ、わかってるよ」

「あの……ええと……」


 置いてけぼりを食らいつつあったスコットが恐る恐る声をかける。


「……すまんな、見苦しいところを見せて。スコッチだっけ? お酒みたいな名前だな」

「スコットです。お酒みたいな名前じゃないです」

「スコットか。怖がらせてゴメンな、ちょっとあのヴィッチが殺したいくらいに憎かったからつい……」

「は、はぁ」

「酷いね、タクロー君。僕でも傷つく時はあるんだよ?」

「うるせぇ、喋りかけるな。その口を縫い合わすぞ」

「タクロウさん!」

「ご、ごめんなさい……」


 店長は少女には頭が上がらないようで、身長差40cmはあろうかという彼女に深々と頭を下げる。


「あの、貴女は」

「あ、ごめんなさい。私はアトリ、この人はタクロウさんです」


 アトリと名乗った少女はとても美しかった。


 淡い桃色の長髪をカントリースタイルで纏めた髪型。

 髪と同じ色合いの瞳に色の薄い肌、そして豊かなバスト。

 正しく天使のような少女の美貌にスコットは思わず二度見する。


「え、えーと……はじめまして。スコット……です」

「僕の新しいファミリーだよ。さっき入社したばかりなの」

「そうだったんですか! ふふふ、頑張ってくださいね! スコットさん!」


 アトリに頑張ってと言われ、スコットは少しだけ元気になった。


「……で、何しに来たんだヴィッt」

「タクロウさん?」

「何しに来やがりましたんですかね、ドロシー・ヴィッチ・バーキンスお嬢様」

「決まってるじゃないのー、()()()()をテイクアウトで8人分。ドリンクはアイスティーね」

「はーい、すぐにご用意いたします!」

「……まいどあり」


 ギラギラとドロシーに殺気満々の視線を突き刺すタクロウの手を引きながらアトリは厨房に向かう。


「僕が来た途端に静かになるねー、この店は。気にせずにワイワイしていいのに」


 静まり返る店内を見回して不服そうにドロシーは言う。


「あのアトリさんって人はアルバイトですかね? タクロウって人と違って、随分社長と仲良さそうでしたけど」

「あの子はアルバイトじゃないよ、この店の看板娘」

「あ、じゃあ店長の娘さん、もしくは親戚ですか……全然似てないっすね」

「? 違うよ? アトリちゃんはタクローくんのお嫁さんだよ」

「は??」


 ドロシーが言った言葉を受け入れられず、スコットは思わず聞き返す。


「何ですって?」

「だから、タクローくんのお嫁さん。人妻よ」

「……二人の歳は?」

「えーとね、タクローくんが32歳。アトリちゃんが17歳だったかな」

「はぁ!?」


 スコットは『マジかよ!?』と言いたげな迫真過ぎる表情でドロシーを見る。

 そんな彼の顔を見て彼女は『あはは』と心底愉しげに笑った。


愛があれば見た目も年齢も些細なものに過ぎないですよね。当然、熟知しております。

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