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「Happy Birthday to you♪」
「Happy Birthday to you♪」
「Happy Birthday Dear Caroline〜♪」
「Happy Birthday to you〜♪♪」
「誕生日おめでとう、キャロライン!」
今日は大切な友人の17度目の誕生日。
ドロシーは友人のキャロライン・マッケンジーの誕生パーティーに招かれていた。
「はい、僕からのプレゼントよー!」
「わぁ、ありがとう! ドリー!!」
ドロシーはキャロラインにプレゼント箱を手渡す。
彼女からプレゼントを受け取ったキャロラインは幸せそうな笑みを浮かべる。
「ドリー、お姉ちゃんにどんなプレゼントを渡したの?」
「ふふん、シェリーには教えないよー」
「えー、何でー!?」
「ふふふ、こらシェリル。お姉ちゃんのプレゼントよ? お姉ちゃんが開けるまで中身は聞いちゃ駄目よ」
「むーっ!」
プレゼントの中身を聞こうとしたシェリルを母親のケイトが優しく注意する。
末っ子のルークはケイトの腕の中で寝息を立て、拗ねたシェリルが寝ている弟のほっぺをぷにぷにと突く。
「ははは、今年も凄いプレゼントが入っていそうだ」
「そう言われるとプレッシャーよ、クレイン君」
「君でもプレッシャーを感じるんだね」
「感じるよ、女の子だもの」
父親のクレインがドロシーと親しげに会話する。
「ねぇ、ドリー。開けてもいいかしら?」
「ふふん、いいよ。開けてみて!」
「うふふ、それじゃあ……」
キャロラインは赤いリボンを解いて黒い箱を開けた。
「ふふふ、どう?」
プレゼント箱の中身は魔法杖だ。
魔法使いを目指すキャロラインの為に用意した木の杖。初心者にも扱いやすいように調整した大切な友人への特別なプレゼント……
「わぁ……素敵! ありがとう、ドリー!!」
しかし、中に入っていたのは血に濡れたエンフィールドⅢだった。
「……え?」
ドロシーの表情が凍りつく。
「うふふっ、うふふふっ!」
「ああ、いい杖だね。ドロシーがよく使っているものだ」
「ふふふ、素敵なプレゼントね。キャロル」
「ああー、いいなー! 私も欲しいー!!」
「ありがとう、ドリー!」
キャロラインは早速、魔法杖を取り出してこめかみに当てる。
「……あ、待って……違う」
「こう使えばいいのね!」
「違う、違うよ! それは!!」
────パァン。
そして彼女は自分で頭を撃ち抜いた。
「あははははっ!」
キャロラインは頭から赤い花びらを吹き出して倒れ込む。
「あ……」
「ははははっ」
「うふふふっ」
「ふふふっ」
ドロシーはキャロラインが倒れたのに笑い続けるクレイン達を見て凍りつく。
「みんな……」
彼らの胸からは血のように赤い薔薇が生え、その直後に枯れていく。
薔薇が枯れ落ちたと同時にクレイン達も一斉に倒れ、その場にはドロシーだけが残された。
「……違う、違うの、僕は……」
「うふふ、ありがとうドロシー」
「……っ!」
混乱するドロシーに抱きついてキャロラインが優しく囁く。
「こんなに沢山、私にプレゼントをくれて……本当にありがとう。うふふふふっ」
「私は……っ!」
「うふふふふふっ」
胸から赤い薔薇を生やしてキャロラインは笑い続ける。
17本だったケーキの蝋燭はいつの間にか40本以上に増え、火が着いていないのに血のような赤い蝋を垂らしていた……
「いやあああぁぁぁぁぁっ!!」
ドロシーが叫びながら目を覚ます。
「はぁ……はぁ……っ! うっ、ううっ……!!」
激しく軋む胸を必死に押さえてドロシーは息を整えようとする。
「ひぅ……うっ! うっ……!!」
ドロシーの瞳に大粒の涙が浮かぶ。
先程の夢は過去の記憶。かつてのドロシー達から受け継いだ悪夢。
それはドロシー達に課せられたあまりにも理不尽な約束だった。
「……やめてよ、やめてよ……! こんなの見せないでよ……!!」
暗い中で必死に眼鏡を探す。
「眼鏡……僕の眼鏡は……」
しかし中々見つからず、焦った彼女は大きく身を動かした。
「眼鏡……っ!」
「ぐぶぅっ!!」
「ふやっ!?」
彼女の膝がスコットの鳩尾に命中。彼は苦しげな声をあげる。
「う、うぐっ……!」
「ご、ごめん! スコット君、大丈夫……!?」
「……ぐ……すぴー……」
「……あ、これでも起きないんだ……凄いね」
急所に膝を受けても眠りから覚めないスコットにドロシーは表情を崩す。
「……」
すると不思議なことに、あれだけ激しかった動悸はすっかり収まっていた。
「……ふふっ、君の部屋に来て正解だったね」
ドロシーは眠るスコットにお礼のキスをしようと顔を近づける……
「大丈夫? ドリー……」
「ふやぁっ!」
そこでスコットの隣で裸で寝ていたルナが心配そうに声をかけた。
「だ、大丈夫よ、お義母様……」
「そう? 凄い声が聞こえたけど……怖い夢でも見たの??」
「……うん」
ドロシーは倒れ込むようにスコットに抱きつき、ルナの手をギュッと握った。
「……キャロルの夢を見たの」
「……」
「僕も……やらなきゃいけない時が来たんだね」
「……ドリー、辛いなら私達を頼っていいのよ」
ルナは震えるドロシーの手を握り返し、切なげな表情で言う。
「貴女だけで背負い込むことはないの……」
「……ううん、大丈夫。僕にも出来るよ」
「ドリー……」
「今までの僕にも出来たんだから」
そう言いながら瞳に涙を浮かべるドロシーの頬にルナはそっと触れる。
「……ドリー、貴女は」
「大丈夫だよ、お義母様……ちゃんとやれるから」
「……」
「僕だって、あの子の友達だもの……っ」
ドロシーは小さく啜り泣く。ルナはスコットを跨いで彼女の隣まで移動し、彼女を優しく抱きしめた。
「……どうして神様はここまで貴女に意地悪なのかしらね」
「うっ、うう……っ!」
「この子はこんなにも……可愛い天使なのに……」
ルナは夜が明けるまでずっと震える義娘を抱きしめ続けた。
この世界の神様に、静かな怒りを向けながら……
chapter.15「八十年後のあなたへ」 begins....