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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
Chapter.14「一人は風に、一人は泥に」
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26

「……!」

「おい、大丈夫か! しっかりしろ!!」


 突如現れた女騎士の姿に思考停止したリュークをアレックス警部が引き摺っていく。


〈ヴギュルルルル……!〉

「それにしても酷い姿だ。ここまで醜い馬を見るのは流石の私も初めてだ……」

〈ヴルルルッ!〉

「……言葉遣いも酷いものだ。ヴェントゥスはあれでもマシだったのだな」

〈ヴギャアアアアアアッ!〉


 リームスは絶叫してブリジットに突進する。


「────(インフィ)(ニトエ)(スパーダ)


 ブリジットは左手を剣先に添え、まるで弓を絞るようにキュッと剣を引く。


尖矢(ヴェロゥラ)!」


 剣を矢のように突き出した瞬間、剣先に追従するように複数の魔法剣が出現。

 まるで連続突きの如く射出される。


〈ヴァルルッ〉


 だが、リームスは加速しながら大きく上体を捻って攻撃を回避する。


「!!」


 馬らしからぬ驚異的な機動を見せるリームスにブリジットは驚愕したが、すぐに切り替えて次の技を繰り出す。


「────(インフィ)(ニトエ)(スパーダ)鋼針(エギューゴ)!!」



 剣先に細い針状の剣が出現し、さっき繰り出した技よりも更に素早い刺突を放つ。


〈ヴァガカカッ!〉


 リームスは『遅い遅い』とでも言いたげな邪悪な笑みを浮かべ、至近距離でこれを躱してみせた。


「!!」

〈ヴァルルルルウウウッ!〉

「くっ、(インフィ)(ニトエ)(スパーダ)……ッ!」


 敵の接近を許したブリジットは咄嗟に魔法剣を呼び出し、丸い盾のように配置する。


浮盾(ヴェークリェ)ッ!!」


 リームスは強烈な蹴りを放つ。


 ブリジットは剣の盾で攻撃を受け止めるが、リームスは即座に体勢を整えながら彼女を飛び越えて後方に回り込む。


「くっ……!」

〈ヴァウウウッ!〉


 リームスはブリジットを刺し貫こうと頭部の角を大きく突き出す。


「……舐めるなッ!」


 ブリジットも素早く振り返り、剣の刀身に青い光を纏わせる。


「────(インフィ)(ニトエ)(スパーダ)絶刃(ゼーデルヴェ)ッ!!」


 そして直線的なリームスの動きを読み、間合いを見計らって一撃必殺の斬撃を放つ……


〈ヴァルッ!〉



 ────ギャリンッ!



 しかし、ここでリームスはブリジットの読みを上回った。

 蹄で地面を削りながら強引に減速し、彼女の斬撃を回避。


「何っ!?」


 攻撃直後で回避のしようもない彼女に、強靭な後脚をフルに活かした蹴りを叩き込んだ。


「うぐああっ!!」


 パトカーをも宙に浮かせる蹴りを受けたブリジットはまるで玩具のように吹き飛び、警部のパトカーに勢いよく突っ込んだ。


〈ヴァギャカカカカッ!〉


 リームスは嬉しそうに下卑た笑い声を上げる。



「……何だ、あの動きは」

「ひょ、ひょっとしてアイツ……とんでもない化け物なんじゃ……!?」


 ブリジットが一撃も入れられずに倒されるのを見て警部達は震え上がる。

 あの怪物に特殊な能力の類は恐らくない。銃弾や攻撃を回避している事から耐久力も常識の範疇だろう。


 ただ純粋に、身体能力が常軌を逸している。


 実にシンプルかつこれ以上ない脅威に警部は寒気を覚えた。

 理解の追いつかない超常の相手ではないが、単純に一生物として危険すぎる。

 今回の敵はそういう類の化け物(フリークス)だった。



「ぐぅ……っ!」


 ブリジットはふらつきながら立ち上がる。

 胸元からは数本の砕けた幅広な短剣がパラパラと落ち、地面に触れる前に粉のように散った。



(……あ、危なかった。少しでも遅れていれば……致命傷だったな)



 咄嗟に召喚した魔法剣を盾代わりにして直撃は免れたがダメージは大きい。

 彼女は激しく吐血し、視界が揺れてまともに前が見れない。


〈ヴァオオオオオオオオオッ!〉


(ぐっ、まずい……狙いが……ッ!!)



 ブリジットは迫りくる怪物に剣を向けるが視線が定まらずに魔法剣が放てない。

 先程の一撃で肋骨にヒビが入り、立っているのもやっとという有様だった。


「……くっ、(インフィ)(ニトエ)(スパーダ)……ッ!」



 それでも迎撃しようと技を放つ。しかし放たれた魔法剣は容易く躱されてしまった。


「ッ!」

〈ヴァギュルウウウアアアアアッ!!〉


 リームスは大口を開け、ブリジットに食らいつこうと勢いよく飛びかかる……



 ────ゴキンッ!



 次の瞬間、血に飢えた化け物の顔面に大きな蹄が叩き込まれた。


〈ヴァギャアアアアッ!?〉


 横合いから強烈な蹴りを受けたリームスは真横に吹っ飛び、地面をゴロゴロと転がりまわる。


「……なッ!?」

〈ぶるるるるるるぅっ!!〉


 突然の出来事に驚くブリジットの前に、不機嫌そうに鼻を鳴らしながらヴェントゥスが現れた。


「どうしてお前が此処に!?」

〈ぶるぁああああああっ!〉


 ヴェントゥスは思い切り地面を蹴り、手負いのブリジットに『何だ、その様は!』と怒鳴り散らす。


「ぐっ……まさか奴がここまでの相手とは思わなかったのだ」

〈ぶるるるるぁっ!〉

「う、うるさいな! まだ私は負けてはいない! それにお前は此処に来てはいけないだろう! 早く戻れ!!」

〈ぶるるるるるるぅっ!〉

「はぐあっ!?」


 ヴェントゥスは『薄汚れた負け犬が、生意気に俺の心配などするな!』と叫びながら頭突きをかます。


「ん、ぐぅぅう……っ!」


 ブリジットは頭に響く鈍痛に呻きながら悶絶した。


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