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目覚めれば隣に美少女が。何も起きていない筈がなく……
「う、うーん……」
ドロシーが目覚めてから1時間後にスコットが目を覚ます。
「あれ……俺は……いだっ。いだだだだっ……!」
そして寝起きの頭に襲いかかる鈍痛。
頭の中から響くようなガンガンとした鈍い痛みにスコットは思わず頭を抑える。
「……あれ、ここは何処だ? 俺……何でこんなところに」
怠い体を起こしてスコットは周囲を見回す。
彼の視界に映るのは見覚えのない寝室。
オシャレなゴシック様式の家具にオシャレな照明器具。見渡す限り何処もかしこもオシャレな空間。三人は寝れるであろう大きなベッドの上で目覚めた彼は頭を傾げる。
どうしてこんなところで寝ていたのだろうと。
「……駄目だ、思い出せない。俺は一体どうなったんだ? あの後に俺は……」
「……んっ」
記憶が曖昧なスコットの隣から撫でるような寝息が聞こえる。
「……ん?」
スコットがふと隣に目をやると、全裸のルナが心地よさそうに眠っていた。
「……」
「……んんっ」
「……はぁぁぁぁぁぁぁああああああん!?」
思わずスコットは叫んだ。
乾いた喉を震わせながら腹の底から叫んだ。
彼の隣で眠るのは一糸まとわぬ女神の如き裸体を晒す白髪の美少女。
触り心地の良さそうな白い肌に、小柄な体には不釣り合いな程にたわわに実った胸、そして白いシーツに辛うじて隠されているだけの悩ましい鼠径部……
寝起きのスコットを混乱の渦に叩き落とすには十分すぎる光景だった。
「待て、待て待て待て待て、待って!? どういうことだよ!!?」
気がつけば自分も上半身裸。ズボンは履いているがベルトは緩んでチャックも全開だった。
「スコットォオオオオー! 何をしたんだ、スコットォオオオオー! 一体、何があったんだぁああー!! スコットォオオオオ────ッ!?」
完全に平静を失ったスコットは自分の名を叫びながら頭を抱えて転がり回る。
「待て、待て……落ち着け。冷静になれ! これは夢だ! 悪い夢だ! 夢ならこうすれば覚める!!」
そう言って自分の頬を思い切り殴る。
しかし悪い夢は覚めず、頬と顎を痛めただけだった。
「いっ……てぇええぇぇぇええっ! ぐそぉおおぉおおおお! この夢、全然覚めねえ! 何でだ!?」
「……あら、おはよう。スコット君」
一人で騒ぎ立てるスコットに目を覚ましたルナが微笑みながら話しかける。
「……」
「ふふふ、ぐっすり眠れたかしら?」
「あー……えーと……」
「昨日は凄かったわね。あんなに楽しい夜は久し振り……ふふふ、良い思い出に出来そうだわ」
「あの、えと……その……あう」
「あら、まだ寝たりないの? じゃあ、いらっしゃい」
硬直するスコットにそう言ってルナは両手を広げ、眩しい裸体を惜しげもなく見せつけながら彼をベッドの中に誘う。
「あばっ、あばばばばばぶばばばばっ! あんばるばばばば! ぼぎゃあああああああああああ!!」
ルナの誘惑するような表情と、一切の戸惑いも羞恥の素振りも見せないただ只管に扇情的な仕草にスコットの思考は蒸発する。
そして顔を真っ赤にしながら支離滅裂な叫びを上げた。
「あわわわわびゃあああああああーっ!!」
「おはよー、スコッツ君。目が覚めたー?」
「ほわあああああーっ!?」
スコットの叫びが聞こえたのか、ドロシーがドアを開けて部屋に入ってきた。
「ど、ドロシーさん! お、俺は一体……か、彼女は!?」
「あ、おはようルナ。どう? ぐっすり眠れた?」
「ふふふ、おはようドリー。ええ、とっても良く眠れたわ」
「な、何があったんですか!? 俺に、何があったんですか!?」
顔中を滝のような汗と涙で濡らしたスコットは思わずドロシーにしがみついて言う。
「わー、面白い顔ー! 写真取っちゃおー!」
「何があったんですか! 何があったんですか! 何があったんですかぁ!!」
「んーとねー、何から教えてあげようかなー」
ドロシーは顎に手を当てて昨夜の事を思い出す……
「とりあえず君とルナの相性はとても良いってことだけはハッキリしたね」
昨日の宴を思い出し、ドロシーは後光が差すような眩しい笑顔で言った。
「何の相性ですかぁぁあー!?」
「体の相性だよー、言わなくてもわかるでしょ?」
「いやぁぁぁぁあああー!!」
「あははー、本当に覚えてないのねー! 面白ーい!!」
「ドリー、あまり彼を虐めるのはやめてあげなさい。嫌われてしまうわよ?」
流石にスコットを不憫に思ったのか、ハンガーにかけていた厚手のローブを肌着代わりに羽織ったルナがドロシーを諌める。
「わかってるよ、ルナ。スコッツくんがあんまり面白いから……」
「お、おおお、俺はぁああああー!!」
「安心しなさい、私と貴方はまだそこまでの関係になってないわ。私は倒れた貴方を癒やしてあげただけよ」
ルナはスコットの腫れた頬をそっと撫で、宥めるような優しい声色で言う。
「……へ?」
「実はね、昨晩みんなで君の歓迎パーティーをしたんだけどね。後半に色々とヒートアップしちゃってねー」
「色々と……?」
「君がアルマとブリちゃんに喧嘩を売って殺されかけちゃったの」
「はぁっ!?」
「いやー、アレはちょっと焦ったね。スコッツ君が死んじゃったかと思ったよ、呼吸が止まってたし」
「本当に何があったんですか!!?」
全く記憶にないが、自分が生死の境を彷徨っていたという事を知らされてスコットは本気で青ざめる。
「でも、ルナの【能力】のお陰で助かったの。彼女に感謝してねー」
「えっ……?」
「ふふふ、ドリー以外に使うのは久し振りだったけど……新鮮で良かったわ」
「あ、貴女にも不思議な能力が……?」
「ええ、あるわ」
ルナはスコットの頬から手を離す。
すると腫れ上がっていた筈の頬は綺麗に元通りになっていた。
「あ、あれ……? 痛みが……」
「私には触れた相手を癒す力があるの。もう塞がってしまった古傷や傷痕は消せないけど、大抵の怪我や病は癒せるわ。ふふ、癒やす以外にも色々と出来るの」
「い、色々……!?」
スコットの目をジッと見つめ、ルナは意味深な笑みを浮かべる。
「そう、色々よ……ふふふ」
どこか蠱惑的で情欲を煽るような物言いと仕草にスコットは思わず息を呑んだ。
でも誘われたら即座に覚悟完了するのが真の男ですよね。その点で言うと彼は未熟です。