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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
Chapter.14「一人は風に、一人は泥に」
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12

「大賢者様、紅茶が入りました」

「ありがとう、サチコ」


 異常管理局セフィロト総本部 賢者室。大賢者はサチコが淹れてくれた紅茶に一口つける。


「……ふふ、少しぬるいけど美味しいわ。今日の街はもう大丈夫そうね」


 そして街の運勢を占い、大賢者は安堵したかのような微笑を零す。


「7番街区の解凍作業はほぼ完了。ですが低下した気温は暫く戻りそうにありません」

「ヤモー」

「仕方ないわね、あの魔法はただ凍らせるだけのものではないから」

「一方で凍結した巨人の解凍作業は依然として進みません」

「ヤモーヤモー」

「そうね、巨人はまともに受けてしまったから。最低でも一ヶ月は凍ったままでしょう……かといって溶けて復活されても困るわね。巨人はこのまま封印しておきなさい」

「わかりました。そう伝えておきます」


 サチコと真剣に話す大賢者の机の上でヤリヤモちゃんがパタパタと動き回る。


「ヤモー!」

「……」

「あら、どうしたの? 遊んでほしいの?」

「ヤモー! ヤモー!!」

「ごめんなさいね、もう少し我慢して。まだお仕事中なの」


 ヤリヤモちゃんの頭を撫でて大賢者は言う。


 まるで娘に向けるかのような慈愛に満ちた表情でヤリヤモちゃんを愛でる彼女からサチコは今日もそっと目を逸らす。


「……ただ、巨人の件は解決したと見て良いのですが。解凍中のビルからある物を発見しまして」

「何を見つけたの?」

外側(アウトサイド)に出荷された新動物(ニューボーン)のリストです」


 サチコは回収されたリストを大賢者に手渡す。


「出荷されたのはつい先日。ビルの地下からは出荷予定の商品(ひがいしゃ)が詰められたコンテナも発見されました」

「その子達は無事だったの?」

「幸いにもコンテナは断熱断冷に優れた素材が使用されていたので……辛うじて無事でした」

「……そう、良かったわ」


 大賢者はリストに目を通す。


「……このお客様は相当な馬好きなのね。送られたのは全て馬型の新動物だわ」

「馬……ですか」

「そのビルの持ち主はわかる?」

「はい。既に情報部が所有者と思しき人物と関係者の所在を掴みました」

「直ぐに確保しなさい。抵抗するなら最悪処理しても構わないわ……頭さえ無事なら情報は吸い出せるから」


 リストをトントンと整え、大賢者は冷たい声色で言った。



 ◇◇◇◇



『ぬわーっ!』

「はいはい、暴れないで」

「ふふふ、そうそう。怖がらなくていいのよ」


 場所は戻ってウォルターズ・ストレンジハウスの浴場。

 水が張られた風呂の中でニックは悶絶していた。



(こ、こここれは……! これはマズい……!!)



 白いビキニ姿のドロシーとルナに挟まれたニックはビクビクと震え上がる。


 前々から脱いだら凄いと思っていた彼女達だが、想像以上にワガママだった二人の悩殺ボディを前に平静を保てる筈もない。


『も、もう大丈夫だ! 大丈夫だから!!』

「5分も浸かってないじゃないー。ほら、身体もまだまだ火照ってるしちゃんと冷やさなきゃ駄目よー」


 むにゅむにゅっ。


「そうよ、もっとちゃんと冷やさないと」


 むにゅーっ。


『うぬわぁぁ────っ!!』


 逃げ出したいが逃げ出せない。


 頭では二人を押しのけて浴場から飛び出したいと思っているのに、身体は動こうとしない。

 柔らかな二人の身体に封じ込められ、哀れなマルチーズ勇者は情けない叫びを上げるしか無かった。



「……」

「ふわー、大分楽になってきたー。ありがとな、デイジー」

「……どういたしまして」


 ひいひいと叫ぶニックに背を向け、デイジーはアルマの身体を冷水で洗い流す。


「ところで、何でオレだけ裸なんですかね」


 ドロシー達の水着は用意されたのに何故か自分だけバスタオル姿。

 その事を不満に思うデイジーは眉をひそめながらボヤく。


「んー、デイジーは中身は男だからセーフじゃね?」

「スコットにも水着が用意されたのに!?」

「何だよ、デイジー。水着が着たかったなら最初から言えばいいのにー」

「そういう意味じゃ……ってもういいです。オレはこの辺で」

「まー、待て待て」


 アルマは外に出ようとするデイジーの手を掴む。


「……姐さん、離してください」

「いやいやー、気持ちよかったからお礼に次はあたしが洗ってやるよー」

「いや、いいです。遠慮します」

「遠慮するなー」

「やめて!」

「やめなーい!」

「やだーっ!!」


 デイジーはアルマの手を振り払って逃げる。


「逃がすかぁ!!」


 アルマはすかさず彼女のバスタオルの裾を掴み、強引に引っ張った。


「ひゃああああっ!? や、やめて! やめてくださいー!!」

「逃げんなよー! 綺麗にしてやるからー! これも大事なスキンシップだよー!!」

「やだーっ!」

「こらこら! 無理に逃げようとすんなって! タオルが」

「姐さんに洗われるのはもういやーっ!!」

「あーもー、しかたねーなー。そこまで嫌がるなら放してやんよ!」

「ほわっ!?」


 急にタオルを放されてデイジーは勢い余って大きく前進。


「わわわわっ!」

『ぬわっ!?』

「あっ」

「あら」

「み、皆、退いて! 退いてーっ!!」


 そのままドロシー達の方まで行き、勢いよく浴槽にダイブした。


「ふやぁーっ!」

「あらあら、駄目よ。お風呂で暴れちゃ」

『ゴボゴボゴボォーッ!』

「もー、いきなり飛び込んで来ないでよデイジーちゃん! ビックリするじゃないのー!!」

「ぶほぁーっ!!」


 デイジーが勢いよく水面から顔を出す。

 ブンブンと頭を振り、羞恥心で顔を真赤にしながら『うううっ』とアルマを睨む。


「ううっ、姐さんめ……!」

「そんな目で見るなよー、あたしは悪くないぞー!!」

「もう姐さんなんて知りません! もうオレの身体に許可なく触らせませんからね!!」

「デイジーちゃん、デイジーちゃん」

「何ですか、社長ぉ!?」

「バスタオル脱げてるよ」

「へぇっ!?」


『ボハァァァァーッ!!』


 デイジーのバスタオルが水面に浮かび、自分が全裸になっている事に気づいた瞬間に水中からニックが飛び起きる。


『ゴホッゴホッ! 何だ! 何が起きた!? 今、私に上に何かが……!!』


 ぽよよんっ。


『……あれ?』


 状況が理解できない勇者ニックの眼前に飛び込んできたのは、デイジーの柔らかそうな乳房だった。


『はぁぁぁぁ─────ん!?』

「どっ、何処見てんだよ、スコットォォォー!!」

『ま、待っ! 私は』


 ニックが弁明を試みる前に、デイジーの鋭く重いビンタが連続で叩き込まれた……


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