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これでお前もファミリーだ!
(……どうしよう)
スコットは暑さで茹だる頭で必死に思考を巡らせる。
(この二人と風呂に入るのは御免だ……! 今度こそ死んでしまう!!)
蘇る恥ずかしき悪夢。水着姿のドロシー達の激しいスキンシップを思い出し、スコットの顔色は更に悪くなる。
(……何とかして、この場を切り抜けなければ……)
そして彼の頭の中で久々の脳内会議が開かれた……
『はい、ではこれからー……』
『いや、もう諦めろよ。無理だよ』
『受け入れろ、もう逃げ道はない』
『二人に身を委ねればいいよ』
『いっそのこと襲ってやれよ、あの二人のためだ』
『お前ら即答かよ。少しは悩めよ、俺もそう思うけどさ』
だが、真っ暗な部屋に集まったスコット達の意見は珍しく一致していた。
『……』
パチパチパチ……
その様子を見ていた青い悪魔は言葉こそ発しないが、スコット達をパチパチと小さな拍手で称えている。
『いや、だってもう動けねえし』
『動けないなら、受け入れるしかないし』
『もう諦めるしかないよな、うん』
『今日はどんな水着着てくれるんだろうな……』
『前は白ビキニだったから、今日は黒ビキニとか……』
『悪くないな』
スコット達は死んだ目で語り合う。
自由に動ける余力があればまた違っただろうが、動けない上に頭も回らない今はもう彼女達に身を委ねるしかないのだ……
「……はぁ」
脳内会議を終えて現実世界に帰還したスコットは重い溜め息をつく。
「……水着は出来るだけ露出が少ないのを頼みますね」
「ふふふ、言うのがちょっと遅かったね。スコッツ君」
「私は裸でも構わないけど」
「やめてください……」
「今日は珍しく素直だな、スコット君」
「……そう思うなら代わってくれませんかね? ニックさん!」
「ははは、遠慮するよ!」
「……」
「しかし羨ましいな、君は。ちゃんとした身体があるし、ドロシー達と入浴出来るなんて幸せじゃないか。もっと喜ぶべきだ」
ニックの言葉にカチンと来たのか、最後の抵抗とばかりにスコットは生意気なヘルメットに手をのばす。
「!?」
「……ニックさん」
「な、何をするんだ! スコット君!?」
「ニックさんはまだ、社長とお風呂入ってませんよね?」
スコットが ニコォッ と不自然に明るい笑みを浮かべながら発した言葉にニックは沈黙した。
「……」
「そうだねー、ニック君は誘っても断るのよねー」
「社長、ニックさんもファミリーですよね?」
「うん、彼もファミリーよ」
「それなのにまだ裸の付き合いが無いのは不公平だと思うんですよ」
「確かにそうだね」
ドロシーも ニコッ と可愛く笑ってスコットの悪巧みに乗った。
「え、いや……私は」
「駄目だよー、ニック君。君もファミリーなんだから、もっと親交を深めていかなきゃ」
「そうね、一緒にお風呂に入るくらいはね?」
「いやいや……私は身体が……」
「同じような身体のデイジーちゃんが大丈夫なんだから、ニック君も大丈夫よ」
「ま、待て待て! スコット君、まさか本気で」
スコットは何も言わずにニックを頭に被った。
「あ、ニックさんの中ってひんやりして涼しいですねー、これは快適ー」
『スコットくぅぅぅーん!?』
「あー、何だか頭がボーッとしてきましたー……あとは宜しくおねがいしますー……」
『待て待てぇぇぇー! 何を考えているんだ! これは君の身体だぞぉぉー!?』
「……まぁ、大丈夫ですよ。ニックさん……あの二人と、一緒に入るのは……」
『スコットくぅぅ────ん!!!』
「結構……いいですから……」
そう言ってスコットの意識はしばしの眠りに入り、彼の肉体の主導権を得てしまったニックは大いに取り乱す。
『ど、ドロシー! 早く武装解除してくれ!!』
「うーん、やだ」
『何だって!?』
「ふふふ、そう遠慮しないで」
『ル、ルナまで!? ま、待ってくれ! 私は』
「お嬢様、浴槽にお水が溜まりました」
「はーい。じゃあ、行くよニックくん」
ドロシーがくすくすと笑いながら彼の右腕を引いて抱き寄せると
『うわわわわっ!』
「大丈夫? 歩ける? 肩を貸してあげようかしら?」
ドロシーに続くようにルナは左腕を抱き寄せた。
『わわわわわっ! で、デイジー! 助けてくれ!!』
「何かこう……あれだ。うん、頑張れ! ニック!!」
『デイジィィィ────ッ!!』
デイジーは楽しげに笑う二人の魔女に浴室へと運ばれていくニック(を被ったスコット)をサムズ・アップで鼓舞しながら見送るが……
「……デイジーちゃん」
「あ、すみません! すぐに姐さんも風呂に……」
「あたしの身体は、デイジーちゃんが洗って……」
「……えっ」
「ほら……汗だくで気持ち悪いし……汗の匂いとか……」
「え、いや……その、オレは」
「洗って……くれるよな? デイジーちゃん……」
アルマはデイジーの服を掴み、赤い目をギラリと輝かせて彼を威圧する。
「あははは……、はい」
観念したデイジーはアルマに肩を貸し、半泣きになりながらトボトボと浴室に向かう。
「うう……っ、ブリジットさんが居てくれたら……」
「やだよー、アイツに身体を洗われるくらいならこのまま死ぬー」
「何で、そんなにブリジットさんが嫌いなんです?」
「乳がデカいから」
「そんな理由!?」
「はっ、それだけじゃねーよ……」
アルマはぷいっとそっぽを向き、何とも言えない表情になりながら呟く。
「……気に入らねーの、ああいう女」
「……?」
「とっくにくたばった男の背中をいつまでも追いかけてさー……未練がましいわ、見苦しいわでイライラするんだよ」
「……そうすか」
「なーんにも残ってないくせに忠誠心とプライドだけは一丁前なの。そういう女、見てて嫌にならない?」
「オレには何とも……」
「あと無駄に乳デカいのがムカつく。マジで死ねばいいのに」
「……」
「そう思わない? デイジーちゃんよー」
ジワジワとヘッドロックを決めながら子供のような愚痴を漏らすアルマに、デイジーはただウンウンと頷くしかなかった。