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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.13 「今日の涙は、明日の笑顔のために」
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18

温度差が激しいですが、自然には勝てないので紅茶を飲んで乗り越えましょう。

 異常管理局セフィロト総本部 賢者室にて


「大賢者様! エマリー嬢の足取りが掴めました!!」


 額を汗で濡らしたナカジマが賢者室に駆け込んでくる。


「ノックはしなさい? それで、彼女は今何処に?」

「5番街区を巡回していた私服職員が、ケイン氏と見られる男性と彼の車に乗せられるエマリー嬢の姿を捉えました。その直後に赤いコートの男が現れてエマリー嬢を保護していた老人の車を攻撃したと……」

「……」

「職員は赤いコートの男を尾行しましたが、現在は応答がありません……」



 この事件の黒幕であるケインは三つ、見落としている事がある。


 一つ目、管理局には自分が行方不明者扱いになっている事。


 死体がない以上、彼の捜索も行うのは当然だ。

 それを予期して彼は姿を隠していたのだが、エマリー嬢が逃げた焦りから潜伏先から抜け出し、自分で探し始めてしまった。

 彼の姿は街を巡回していた警官や管理局の職員に見られていたのだ。


 二つ目、【主従の契約】を購入してしまった事。


 この異界道具は異常管理局が一斉摘発してまで徹底的に処分しようとしているものである。

 今尚それを扱う裏商人や、彼らから異界道具を購入するクライアントの炙り出しを継続している。

 情報屋のリョーコの協力によりこの道具を扱っていた闇商人が見つかり、そしてそれを購入した()()()の情報も割り出されてしまった。


 そして三つ目は、異常管理局を舐めていた事……


「……気に入らないわ」


 大賢者は両手を組み、その美しい顔に嫌悪の感情を顕にさせる。


「潜伏場所の候補はいくつか割り出せました。恐らく、エマリー嬢はそのいずれかに……」

「すぐにその場所に処理班を向かわせなさい」

「はい!」

「ケイン氏と……赤いコートの男は可能なら生きて確保しなさい。不可能なら知覚外から狙撃して処理するように伝えて。今回に限り試作品の【魔法使い殺し】の使用を許可します」

「わ、わかりました!」


 設立されてから長きに渡り異界門(ゲイト)から現れる異界の怪物や、異界の超技術を悪用する不届き者共を相手にしてきた彼らに喧嘩を売るということがどういうことなのか、ケインはまるでわかっていなかったのだ。



 ◇◇◇◇



「おや、止まりましたな。どうやら潜伏場所に着いたようです」


 小型端末に表示される発信機のマーカーはある地点で停止する。


「その場所は?」

「17番街区の……おや、ここは……」

「何処ですの?」

「はっはっは、()()です」


 教会を意味する十字架マークが表示された建物にマーカーが入るのを見て、老執事は思わず笑ってしまった。


「……ふふっ、それは困りましたわね」

「はっはっ、覚えておりますか? 次に貴女と教会に行くときは……」

「ええ、覚えてますわよ……ふふふっ」

「はっはっは」


 マリアも執事に釣られて笑い出す。彼らにとって【教会】とは何らかの意味がある場所のようだ。


「偶然にしては、少し出来過ぎですわね」


 マリアは更にバイクのスピードを上げて疾走する。



「おい、スピード違反ってレベルじゃねーぞ」


 マリアのバイクを後ろから追いかける警部のパトカー。

 凄まじい速度で爆走する二人乗りのバイクを見た彼はうんざりした顔でサイレンを鳴らす。


「警部、こっちも飛ばして。見失っちゃうわ」

「これ終わったらあいつら逮捕するけどいい? 当然、お前も連帯責任だからな??」

「え、やだ。捕まえるならあの子達だけにして? 今日の僕は無関係だもの」

「……」


 涼しい顔で使用人を切り捨てるドロシーに顔をしかめながら、アレックス警部はアクセルを目一杯踏み込んだ。



 ◇◇◇◇



 17番街区は未だ改装や修復が終わっていない建物が多く廃墟街(ルインズ・モール)と呼ばれている。


 人通りも少なく、夜には正体不明の怪物がよく出没する事からリンボシティでも指折りの危険地帯として有名だ。

 そんな廃墟の街にひっそりと佇む教会の正面には光を取り込む為の一際大きく、美しい模様が描かれたステンドグラスが取り付けられている。

 かつてはこの教会も街の人々や教徒達にとって特別な場所として利用されていたのだろう。


 しかしその立派な教会の内部も今や荒れに荒れていた。


 崩れた天井からは青い空が覗き、そこから注ぐ太陽の光が朽ちかけた身廊を照らす……教会には既に誘拐屋のメンバー全員が到着しており、ハンクスの姿もあった。


「……今、御主人様も着いたとさ」


 誘拐屋の数は八人、全員銃で武装している。


「全く、とんでもねえのに雇われちまったよな」


 朽ちた会衆席に腰掛け、誘拐屋の一人がボヤく。


 結局、彼らがした仕事らしい仕事はエマリー嬢を誘拐した事くらいだが、普通の人間にこの街でそれ以上の事をしろというのは酷だろう。

 そもそも彼らは腕輪の実験台兼捨て駒や、単なる数合わせとして雇われた者達。

 誘拐屋としては優秀だったが、それも街の外(アウトサイド)での話なのだ。


「待たせてすまない」


 放心状態のエマリーの手を引き、ケインは教会に足を踏み入れた。


「……」


 エマリーの目は虚ろで、その足元もふらついている。

 そんな状態の彼女の手を強引に引くケインの姿に誘拐屋達も嫌悪感を募らせた。


「で、どうするんだそのガキ」

「ああ、君たちと同じものを付けてもらう」

「……本気か?」

「本気だよ、最初から彼女にも付けるつもりだった」


 ケインは軽く言い放った。


 その目には何の感情も映し出されていない。戦闘以外に興味のないハンクスも、彼の悪趣味さには流石に嫌気がさしていた。


「なら、俺たちはもういいんだな」

「もう少し手伝ってくれないか? まだ仕事は残ってるんだ」

「……」

「奴隷は、御主人様の言うことを聞かないとな? 例の腕輪を用意してくれ」


 誘拐屋の男達はケインに対して明確な殺意を抱く。


 だが今の彼らには目の前の雇い主に従う以外の選択肢がなかった。

 腕輪の仕掛けは例えケインに関する情報を口にしなくとも、御主人様に設定されている彼が望めばいつでも作動させることが出来ると脅されているからだ。


 言葉の真偽についてどうであれ、その腕輪のおかげで三人の仲間の命が奪われている。

 腕輪の持つ悪趣味な仕掛けは、金も命も惜しい男達を黙らせるには十分すぎる効果だった。


「腕輪を、用意してくれないかな?」

「……ああ、わかったよ」


 誘拐屋の一人がアルミ製の大きなアタッシュケースから腕輪を取り出す。

 それを腕に付けられた時、エマリーは生きた爆弾となる。

 設定されている起爆剤(ワード)はこの事件の黒幕であるケインの事、そしてその潜伏場所、目的である。


 そのどれか一つでも言おうとした瞬間に、エマリーの身体は破裂してしまう。


「だがこのガキを見ろよ、とても喋れる状態じゃないぞ」

「今は、喋れなくてもいいさ。後から嫌でも喋れるようにするとも」

「……いい趣味だよ、御主人様」


 誘拐屋の一人が吐き捨てた皮肉塗れの蔑称をケインはほくそ笑みながら受け止めた。


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