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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.13 「今日の涙は、明日の笑顔のために」
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今回も砂糖多めの展開をご用意いたします。

 同刻、リンボ・シティ2番街区 ホテル【ザ・リッツ・オブ・リンボ】


「全く……酷いもんだな」


 事件現場に駆けつけたアレックス警部はたまらずぼやいた。


 シティの名所の一つでもあり、この街で恐らく最も安全なホテルの一室は荒れに荒れ、優麗壮美なルイ16世様式を連想させる家具や装飾の数々は見るも無残な姿に成り果てていた。


 止めと言わんばかりに壁に飛び散った血痕……ホテルのオーナーが気の毒だ。


「スーペリア……確かスーペリア・クイーン・ルームですよね、この部屋」

「詳しくは知らんが、とりあえず一番良い部屋だろうな」

「まさかこんな形で、このお部屋に立ち入るなんて夢にも思いませんでしたよ……。スーペリア・()()()・クイーン・ルームなんて笑えませんって」

「はっはっ、お前のジョークも日に日に冴え渡るな。やっぱりこの街に向いてるよ」


 リュークもボヤき、アレックス警部は乾いた笑いを上げて彼の肩を叩く。

 リュークは密かにこのホテルに憧れており、いつかはまだ見ぬガールフレンドを連れてこの部屋に宿泊したいと思っていた。


 そしてこの光景。彼は複雑どころではない心境を抱えていた。


「……」


 特に衝撃的なのが魔法使いの死体だ。


 とある金髪魔女や異常管理局の活躍をその目に焼き付けていたリュークにとって、魔法使いとはある種のヒーロー的な存在であり、このようにで胸に風穴を空けられ、変わり果てた姿で冷たくなっている光景は想像もできなかった。


 エマリー嬢の護衛も皆、同じように胸を貫かれた死体として発見された。


「魔法使いが負けることも……あるんですね」

「ああ、彼らもやられる時はやられちまうんだ。この街じゃ珍しいことでもないさ……」


 アレックス警部はリュークに重苦しい表情で言った。



「……ゲイル」


 部屋の外ではエマリー嬢の送迎を任されたジェイムスが暗い表情で立っている。


 殺害されたゲイル・エイリークとは特別親しい間柄でもなかったが、今まで共に街を守ってきた戦友である。憤りを感じないはずがない。


「クソっ……!」


 警官達はジェイムスにかけられる言葉もなく、足早にその場を去っていく彼の背中を見送る事しかできなかった……



 ◇◇◇◇



 午後12時10分 リンボ・シティ7番街区 バラード・マーケットにて


「ふふふ、二人は此処に来るのは初めてでしょ」

「こ、ここが噂のバラード・マーケットですか……すげぇ」

「随分と栄えた市場だな。まるで城下町のようだよ」


 スコットはニックを小脇に抱えながら唖然としていた。


 バラード・マーケットはシティでも最大規模を誇る小売市場だ。

 数々の新鮮な食品が並び、市民のみならず今や観光客の間でも有名であり、連日多くの人々で賑わっている。


「相変わらず賑やかねー、久し振りに来たけど変わって無くて安心したわ」

「外の観光客も多いですね。よっぽど有名なんだなぁ」

「ところでスコッツ君、今日の僕の衣装はどう?」


 ドロシーは有名人だ、悪い意味で。


 当然、普段の格好で街を歩けばちょっとした騒ぎになる。

 ドロシーがよく出没する二桁区(ダブル・ナンバー)の方々はともかく、この7番街区のような一桁区(シングル・ナンバー)に住む人々には今尚強い苦手意識を抱かれている。


「……まぁ、その……」

「すごく似合ってるよ、ドロシー」

「あはは、ありがと。ニック君」

「……」


 その為、外に遊びに出かける時は軽く変装をするのがドロシーなりの気遣いだ。


 今日は青いリボンのついた帽子でアンテナを隠し、瞳の色を変える特殊な仕掛けが施された眼鏡をかけ、シンプルな無地のワンピースと薄手のカーディガンを着こなしている。

 髪もストレートに伸ばし、その雰囲気は殆ど別人だ。


「やはり君は髪をストレートに伸ばした方が綺麗だと思うな」

「ふふふ、ありがとう。でも僕は結ぶのが好きなの……()()()とそっくりになっちゃうから」

「そうなのか」

「ところで、スコッツ君の感想は?」

「えっ、あっ!? に、似合ってますよ……はい」


 ドロシーはぎこちない反応をするスコットに満足げな笑みを向ける。


「あ、このハムすごく美味そうですよ! 社ちょ」

()()()()よ。今日の()はドーリーと呼びなさい」

「あっ、はい……ドーリーさ」

「ドーリーよ」

「……」


 いつもの癖で社長と呼びそうになったスコットにドロシーは釘を刺す。


「おや、いらっしゃい。このカポシスのハムはいい物だよ~、サンドイッチに挟んでよし、そのまま食べてもよし、勿論どんな料理にも使っていけるよ!」

「あら、カポシスのハム? いいねー」


 ドロシーは陽気な肉屋の店主と軽い会話を交わす。


 カポシスというのは鹿に似た新動物(ニューボーン)の一種で、その肉が美味なことで有名だ。

 肉だけでなく、上質なミルクがとれる事でも知られるが一度にとれる量が少ない上に、悪くなるのが早くかなりの貴重品となっている。

 カポシスのミルクから作られたチーズは高級食材である。


「いやぁ、君のように可愛い女の子は久々に見たよ。ほら、味見してみなよ」

「あははー、ありがと。でもこの街の女の子はみんな可愛いよ?」

「ははは、違いないや。その中でも特にという意味でね、連れのお兄さんもどうぞ、味見していって!」

「んー、美味しい!」

「だろう?」


 肉屋の店主は変装したドロシーがとても気に入ったようで、何かと彼女に絡んでいく。


「……」

「……」


 それを隣で見つめるスコットとニックは何故かイラついていた。


「ありがとうございます! お嬢さん、またね!!」

「……」

「ふふふ、妬かないでスコッツ君」

「はぁ!? な、何言ってるんですか! いきなり変なこと言わないでくださいよ!!」

「んふふふっ! 素直じゃないわねー!」


 照れるスコットの腕を抱き寄せ、ドロシーはご機嫌な様子で歩く。


「ちょっ! 人前でくっつかないでください!!」

「たまには良いじゃない、ほらほらーっ」

「あわわわっ!」

「……スコット君、いきなりの事で驚くかもしれないが。少し君の体を借りてもいいかな?」

「え、何で!?」


 人目もはばからずいちゃつく二人に少し思うところがあったのか、ニックは不機嫌そうな声で言った。



「ハァ……ハァ……!」


 バラード・マーケットに程近い路地を一人の小柄な少女が逃げていた。


 髪は特徴的な薄い紫色のボブカット、瞳も髪と同じ美しい紫色をしている。

 お洒落なフリルのついた黒いワンピースを着ているがあちこちに血液らしきものがべっとりと付着しており、逃げている間に転んでしまったのか、泥だらけになってしまっていた。


 彼女の名はエマリー・ローゼンシュタール、例のホテルから攫われてしまった貴族の令嬢だ。


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