24
自分ではああ言いつつ、実際にそうなると割と傷つく。そういうものですよね。
翌日、リンボ・シティ13番街区。
「……んー」
自室のベッドでスコットが目を覚ます。
「……」
目を覚ましたスコットはまず両隣をチェック。
続けてシーツを捲ってベッド内部をチェックし、誰も忍び込んでいないことを確信してから
「うーん、よく寝たぁ!」
実に清々しい顔で言った。
「いやぁ、こんなに気分が晴れやかな目覚めは久々だ」
スコットは上機嫌でベッドから出る。念の為にキッチンもチェックしたが誰もいない。
「……まぁ、いないよな。いつもの目玉焼きの匂いもしなかったし」
しかし気分良く起床したのも束の間、スコットの心に微かな寂しさが過ぎる。
「いやいや、これが普通なんだ。一人暮らしはこういうものだったろ」
自分にそう言い聞かせながらも、彼女達がいない寂しい部屋にスコットは物足りなさを感じてしまっていた。
「うん、美味くも不味くもねぇ」
久しぶりに自分で作ったベーコンエッグで朝食を済ませたスコットは何とも言えない顔で言う。
「……はぁ」
改めてルナの目玉焼きの美味しさを実感し、憂鬱げな溜息を漏らした。
「よし、行くか」
食後の後片付けをせずにスコットは出社準備をする。
「……どうして、今日は来ないんですか」
準備を終えたスコットはそう呟いてドアに手をかけ、ドロシー達の待つあの家に向かった。
「どうも、おはようございま」
「「「ヤモーッ!!!」」」
「……す?」
ドアを開けたスコットを出迎えたのは大勢のヤリヤモちゃん達だった。
「ふぁっ!?」
「ヤモーッ!」
「ヤモッ!」
「ヤモモー!!」
「あ、おはよう。スコッツくん!」
「しゃ、社長! これは一体!?」
ヤリヤモちゃんに囲まれてスコットが混乱していた時、リビングから 二人のドロシー が現れる。
「や、やぁ……おはよう」
「はぁぁぁぁぁ────ん!!?」
スコットは絶叫した。
「うわああああ! 社長が、社長が増えたあぁぁぁぁ!!」
「ま、待て! 落ち着け! 私だ!!」
「うわああああー!!」
「あーあ、やっぱりこうなっちゃった。相変わらずスコッツ君はパニクりやすいね」
胸が大きい方のドロシーが若干呆れ顔でスコットに近づき、ムギュッと抱きついた。
「ほわあああっ!?」
「よく見なさい、スコット君。僕は一人しかいないよ。彼処に立ってるのは別人」
「えっ、あっ!?」
「……私はデモスだ。私のことは忘れられないんじゃなかったのか?」
「デ、デモス!?」
胸の小さい方のドロシー、ではなくヤリヤモの長 ヤリヤモ・ナ・デモスはモジモジしながら言った。
「頭を見ればわかるでしょ。あの子には癖毛がないもの」
「そういえば……」
「強引に引っこ抜かれたからな。あれは本当に痛かったぞ……」
「で、でもあれはお前が……じゃなくて! 何でお前らが此処に!?」
「そうそう、その事について君に教えたかったのよー」
ドロシーはスコットに抱きついたまま、背後の玄関扉をガチャリと開ける。
「ふふふ、後ろを見て」
「え?」
スコットが後ろを振り向くと家の前にヤリヤモの宇宙船があった。
「はぁ!?」
「ヤモー!」
「な、何であの宇宙船が此処に!?」
「んとねー、あの子達が見つけた新天地っていうのがね。僕の家の敷地内だったのね」
「ふぁっ!?」
「そうだ、ここが私達が見つけた新しい場所だ」
デモスはスコットに歩み寄り、チラチラと彼を見ながら言う。
「大賢者の建物でお世話になっている間、私達は独自に落ち着ける場所を探していた。あの場所は住み心地は良かったが落ち着けなかったからな」
「だろうね」
「異常管理局が所有する機密情報も参考にした結果、この場所を見つけたんだ。ここなら誰にも迷惑をかけずに落ち着いて過ごせると思った」
デモスはすうっと息を吸い、ふふふと小さく笑う。
「同志達は喜んで承諾してくれたよ」
スコットは呆然としていた。感情の整理が追いつかず目を見開いて棒立ちし、静かな森の中で鎮座する宇宙船を見つめる。
「この場所には異常管理局も手を出せないからね。僕の所有地だし、街の人達も来ないし」
「いや……でも、これ……」
「んとね、実はスコッツ君が帰った後にこの子に相談されてね。前から連絡は取ってたんだけどー」
「安心してくれ、君達に迷惑はかけない。約束するよ」
「ヤモー!」
「ヤモー!!」
デモスはヤリヤモちゃんを連れて家を出る。
「……時々、お茶とお菓子を貰いに顔を出したり……君の顔を見に行くくらいかな」
そしてスコットに振り向き、デモスは照れ臭そうに言った。
「……」
ひとりでに扉は閉まり、玄関には無言のスコットとドロシーだけが残される。
「あの、社長」
「そうそう、あの子達の身長は自由に変えられるらしいよ。異常管理局の魔導具を解析して」
「そうじゃなくてですね、社長」
「それと、あの子達はヤリヤモちゃんごっこが気に入ったみたいでね。もう着なくてもいいのに大事に持ってるのよ、可愛いよねー」
「あのね……」
「うんうん、言わなくてもわかってるよ。よーく見比べてみたら僕の方がずっと可愛かったんでしょ? もー、スコッツくんたら」
「アンタ馬鹿かぁァァァァ────!?」
スコットは叫んだ。叫ぶしか無かった。
そして改めてその魂に深く刻み込んだ。
生まれ変わっても、このドロシー・バーキンスは生粋のトラブルメーカーであると……
chapter.12 「天使と悪魔とエイリアン」 end....