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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.12「天使と悪魔とエイリアン」
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22

「マスター、もう大丈夫だぞ。貴女には私が付いている」

「あわ、あう、あう……」


 スコット達から少し離れた14番街区に程近い路地、ブリジットは半泣きのドロシーを宥めながら道を進む。


「む、虫は駄目……虫は駄目よ、虫は……」

「安心しろ、マスター。私がいる限りマスターには虫一匹近づくことはできない」

「虫……嫌い……」


 パツンパツンの体操服にブルマという趣味性の高い格好のブリジットに震えながらしがみつくドロシー。



(え、誰アイツ!?)

(もしかして、あの子ドロシー・バーキンス!?)

(嘘だろ!?)



 普段のドロシーからは想像もできない弱々しい姿に道行く住民達は戦慄していた。


「ところでマスターを脅かす虫は一体何処にいるのだ?」

「あ、いたいた! 社長ーっ!!」

「はうっ!?」


 そこに老執事を連れたスコットが現れる。


「む、スコットか」

「あわわわわっ」

「だ、大丈夫ですか? 社長」

「おやおや、お嬢様。これはまた大変いじらしいご反応を」


 あの不快な昆虫型モンスターを目にした事で重度の精神的ダメージを負ったドロシーはまるで怯えたチワワのように震え上がる。

 もはや老執事やスコットすら認識できないという有様だった。


「はうあうあう……っ!」

「しゃ、社長……」

「私が偶然見つけた時からずっとこの調子なのだ。先程までは多少は落ち着いていたのだが」

「ドロシーお嬢様」


 老執事はそんなドロシーの傍に近づき、ニッコリと笑う。


「わわっ!?」

「少し失礼致します」


 そして震えるドロシーから眼鏡を外し、再びかけ直す。


「あっ、アーサー」

「おはようございます、お嬢様」

「うおおっ!?」


 その瞬間にドロシーは正気を取り戻した。


「目が覚めたか、マスター」

「あれ、ブリちゃん? どうしてここに??」

「大丈夫ですか、社長!?」

「あら、スコッツ君。どうかしたの?」

「俺が聞きたいですよ!!」


 何事も無かったかのように目をパチクリさせるドロシーにスコットは言う。


「え、何?」

「何? じゃないですよ! あの変な化け物を見た瞬間に社長が逃げ出してですね!!」

「逃げ出した? 僕が? 本当に??」

「即逃げてましたよ! あのむs」

「お嬢様には少々刺激が強い相手で御座いましたので。ご安心ください、化け物はスコット様が華麗に撃退しました」


 スコットの言葉を老執事がさりげなく遮る。


「……なるほどね。大体、わかったわ。それであの子は?」

「お友達と一緒に何処かへ行きました。スコット様には無事に想いを伝えられて嬉しそうにしておりましたな」

「ふむふむ、それなら良かったわ」


 ドロシーは腕を組んで誇らしげにふふんと笑った。


「いや、良くねえよ!?」


 そこにスコットが物申す。


「え、どうして?」

「社長はヤリヤモちゃんがあの宇宙人だってわかってて連れ出したんですよね? しかも他の仲間と一緒に宇宙船で逃げたんですよ!? 大問題じゃないですか!」

「だって、居心地が悪そうだったしー……あれ? スコッツ君はあの子の事を()()()()()()??」

「忘れられるわけないでしょ! 酷い目にあったんですから!!」


 ここでスコットがヤリヤモ達に関する記憶を保持している事にドロシーは不思議に思う。


「……君もムネモシュネの記憶処理対象になっていた筈なんだけどね」

「何の話ですか!? 話を逸らさないでくださいよ!」

「うーん、やっぱり君は面白いねー。スコッツ君!」


 ドロシーはスコットの腕に抱きついて愉快げに笑った。


「ちょっ! な、何ですか!? いきなり!」

「ううん、何でもないよ。それじゃあ家に帰りましょうか」

「はぁ!? いや、ちょっと待ってくださいよ! ちゃんと俺に説明して」

「家に帰ったら説明してあげるわ。紅茶でも飲みながらゆっくりとねー」


 相変わらず大事な話を後回しにするドロシーにスコットは顔をしかめるが……


「ありがとう、スコッツ君。僕()の我儘に付き合ってくれて」


 愛らしい笑顔でお礼を言う彼女を前に、顔を赤らめながら空を仰ぐしかなかった。


「つまり、もう私の力は必要ないという事か? マスター」

「あ、ごめんね。もうスコットくんがやっつけてくれたみたい。ここまで連れてきてくれてありがとう、ブリちゃん」

「いや、お礼を言われる程では……」

「お嬢様をここまで送り届けて頂き、感謝の言葉もございません。流石はブリジットさんです」

「はぁっ!」


 先程まで凛とした雰囲気を維持していたブリジットだが、老執事から褒められた途端に陥落。


「あ、ああああっ、アーサー様! そ、そんな! それほどでも、それほどでもありません! わ、わわわ私は騎士として、騎士としてぇ!!」


 顔を真っ赤にして身を捩らせるブリジット。スコットはそんな彼女の姿を乾いた目で見つめる。


「……」

「では、私達はこれで。さぁ、家に帰りましょうか」

「はーい」

「あああっ! いけません、いけません! アーサー様! マスターの前で、そんなっ……!!」

「……あれは社長の眼鏡で治せないんですかね?」


 スコットはドロシーに言うが、彼女は『ふふふ』と意味深に笑ってはぐらかした。


「アーサー様! アーサー様っ! ブリジットは、ブリジットはぁ……!!」

「ねー、パパーン! あのおねーちゃん何してるのー!?」

「はっはっ、パパンにもわからないなー」

「ママーンは!?」

「うふふ、ママンにもわからないわー」


 スコット達に置いていかれた体操服姿の女騎士は暫く人前でくねくねと身悶えていたという……


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