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幻騒のカルネヴァーレ ~Carnevale of Phantasm~  作者: 武石まいたけ
chapter.12「天使と悪魔とエイリアン」
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19

〈ヴルるるるるァアアアアアアー!〉


 トラックのコンテナを突き破り、ギトギトした重油のような粘液に覆われた茶色の化け物が現れる。


「うおおおっ! 何だ!?」

〈ヴキャシャアアアアアアー!!〉

「!」


 昆虫と爬虫類が組み合わさったような醜悪な姿の怪物。


 細長いトカゲのような腕に虫のような足がびっしり生えた胴体、虫成分が多分を占めるグロテスクな頭部にギョロギョロと忙しなく動く眼球。


「……うわぁ」


 一目見ただけで『排除すべき不快な生物』と即断させるその姿にスコットも顔を引き攣らせた。


「ヤモーッ!?」

「社長、出番ですよ! 自慢の魔法でぶっ飛ばしてくださ」

「いやああああああー!!」

「社長ーッ!?」


 スコットが声をかける前にドロシーは悲鳴を上げて逃げ出した。


「やだああああーっ!」

「うおっ!? こっち来んな、お前!」

「あああーっ! あーっ! あーっ!!」


 ドロシーは泣きながらスコットと重傷のアーサーを置いてジェイムスを通り過ぎ、バタバタと走り去った。


「……」

「何なんですか、今のは!?」

「そういやアイツ、虫が死ぬほど嫌いだったな」


 リンボ・シティを震え上がらせる金髪の魔女。


 パッと見では弱点が無さそうな無敵の魔法使いに思えるが、そんな彼女にも一目見ただけで逃げ出す天敵が存在する。


「虫、虫はいやああああああー!!」


 虫である。


「ああ、くそっ! 本当に面倒くせぇ人だなあー!!」

「おい、スコット! ぼさっとするな!!」

〈ヴォキャアアアーッ!〉

「うぐぉっ!?」


 逃げ出したドロシーに気を取られていたスコットがモンスターに殴り飛ばされる。


「ヤモッ……!」


 不意をつかれたスコットは思わずヤリヤモちゃんを手放してしまう。

 コロコロと地面を転がり、手の平サイズのヤリヤモはモンスターのすぐ近くで止まった。


「ヤモォォーッ!?」

〈ヴキャルアーッ!〉


 ヤリヤモちゃんは此方を睨む大きな目玉を見て死を覚悟した。


「ああああああーっ!」

「先輩、ヤリヤモちゃんがっ!」

「サセルカァー!」


 ヤリヤモちゃんを助けるべく管理局職員がモンスターを攻撃するが、身体を覆う粘液が銃弾と魔法をぬるっと滑らせて弾いた。


「えぇぇええええ!?」

「何だ、そりゃあ!!?」

「バカナー!?」


 戦慄するジェイムス達を横目にモンスターは細長い腕でヤリヤモちゃんを捕縛した。


「ヤモォォォォーッ!!」

〈ヴァゴォッ〉


 モンスターはヤリヤモちゃんを捕食しようと大きな口をガバッと開く。



(……そ、そんなっ! 私はここで死ぬのかっ!? 私はまだっ、彼に……!)



 モンスターに捕まったヤリヤモちゃん改め、ヤリヤモの長デモスは逃れられない餌の運命を前にして他のヤリヤモ達の事を回想した……



『……せっかく、彼に会えると思ったんだがな』


 遡ること2時間前、大賢者に外に出ないよう念を押されたデモスは思わず小言を漏らした。


『ならば会いに行けばいいぞ、同志』

『あいにいけばー?』

『しかし、大賢者は外に出るなと……』

『同志、今を逃すと次はいつ会えるかわからないぞ』

『うっ……!』


 デモスは顔を赤らめてそわそわする。彼女の反応を見てヤリヤモ達は顔を合わせ、何かを決心したかのように頷きあう。


『私達に任せろ、同志。彼に会わせてやる』

『なっ、何だって?』

『まかせて、どうしー!』

『いやいや! そもそも私達は外には』

『問題ない! ()()は大賢者の同族だ! 彼女の傍に居れば』

『ま、待て! それでも私は外に出るわけにはいかない! わかっているだろう、もし私が建物の外に出たら……!!』

『同志の模擬体はすでに用意してある! もし外に出てもバレるまでに戻ればいい!!』


 ヤリヤモ達はデモスを彼に会わせる為に動き出した。


 現時点で動ける全てのヤリヤモが力を合わせ、ドロシーと大賢者が喧嘩する予想外のトラブルで危うく殉死者を出しかけたが何とかエントランス付近でスコットとデモスを接触させるチャンスを得る。


『まさかこんなギリギリのところまで来るとは……』

『ダイケンジャーが暴れるからー』

『これが最後のチャンスだぞ、同志!』

『ううっ……!』


 最後のチャンスを前にデモスは躊躇していた。


『急げ、同志! 飛び降りるんだ! 今なら丁度、彼の肩に着地出来る!!』

『み、みんな……いいのか? もし大賢者に知られたら』

『問題ない!』

『このまま同志が彼に想いを伝えられない事の方が問題だ!』

『で、でも』

『どうしはあのいしゅぞくをあいしているんでしょ?』

『!?』


 とあるヤリヤモが発した言葉にデモスは硬直した。


『な、なななっ! 何を!?』

『今だー!』

『同志、いけー!』

『うわっ、待っ……!』

『ちゃんと頭まで着ぐるみを被れ同志! 危ないぞ!!』


 その隙にヤリヤモ達はデモスを押し出し、スコットの頭上に空いた穴から落とす……


『ヤ、ヤモッ! ヤモーッ!!』


 落ちていく自分を温かい眼差しで見送るヤリヤモ達を見ながら、デモスはポテッとスコットに落下した。



 ヤリヤモ達は既に気づいていたのだ。


 デモスはあの時からスコットに惹かれていた事を。


 そして、ヤリヤモ達は既に決めていたのだ。


 この二人を会わせる為なら何だってすると。




(……すまないっ、みんな……!)




 同族達の与えてくれたチャンスを生かせず、想いを告げられぬままモンスターの餌食になろうとしていたデモスは大きな瞳からボロボロと涙を流す……




 ────バチュンッ!




 次の瞬間、モンスターの身体に拳大の風穴が空いた。


〈ヴォルッ、ギャッ……!?〉


 続けてモンスターの身体に無数の風穴が開く。

 何が起きたのか理解出来ぬままモンスターは頭と腕を撃ち抜かれ、醜悪な腕から解放されたデモスは宙を舞った。


「ヤ、ヤモッ!?」


 投げ出されたデモスの小さな身体を、沢山の小さな腕がしっかりとキャッチする。


「大丈夫か、同志!!」

「ヤッ……」

「どうしー!」

「助けに来たぞー!」


 そこに現れたのは、玩具のような武器で武装したデモスの同族(ファミリー)


「ヤモーッ!?」


 独自に開発した超小型サイズの転送機(テレポーター)で賢者室から脱走してきたヤリヤモ達だった。


誰にだって嫌いなものの10や20はあるものです。

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